第19話 自腹!?
カフェテリア『オレオレオ』
駅からおよそ歩いて1分未満の立地と
黒をベースにした洋風チックな外観は
道行く人を誘い、店へと足を運ばせる
いざ店内へ足を踏み入れると
芳醇なコーヒーの香りもさることながら、甘いスイーツの香りと、焼いたトーストの焦げの香りが混ざり合い独特な香りとなって鼻孔をくすぐる
開放的な窓の光とぽつんぽつんと座る人の影
バリスタの珈琲を淹れる音が和やかで心地よい雰囲気を生み出していく
注文されたコーヒーを飲みながら店内の空気に酔ってみたり、カッコつけて飲んで苦笑されてみたりもう一杯おかわりしたり
そんな一服と安らぎを提供するこの店は......
今、地獄になっていた。
「あのぉ..............もう良くないか?」
「「「セイ(君)はちょっと黙ってて!!!」」」
「あ........はい」
今俺達がいるのは店の奥のテーブル席、一触即発だった状況の中で瞬時にテーブル席に案内した俺の判断力には感謝しきれない。
ちなみに俺はテーブルの外側で立っている。四人席で俺がどこに座るかで更に空気が悪化するくらいなら立っていたほうがマシだ。
「で?さっきから何が言いたいんですか?」
中瀬さんはいつもの光り輝く女神のオーラの代わりにドス黒い堕天したオーラを放っている。ここにいるだけで精神が汚染されそうだ。
「自分勝手な判断でセイさんの貴重で貴重でたまらない時間を奪うなんて......おこがましいにも程があるわ」
九条さんはいつも店に来るときのぽわぽわっとしたオーラとは違い、地球がもっかい氷河期訪れるんじゃないかと思うほどの冷たすぎるオーラを放っていた。
「カフェしか縁のない奴らが......驕らないでよ」
美久は朱色の燃え盛るようなオーラを迸させながら前の二人を睨み聞かせていた。ほんとにヤンキーにしか見えない。
「何言ってるかわかりませんけど誰が最初かなんてどうでもいいんです。私は好きが止まらなかったから行動に移しただけですから」
「好きが止まらない?馬鹿言わないでちょうだい。後先考えずに直行したところでいい結果なんて手に入らないわよ。元にあなた振られたんでしょ?ご愁傷様ね」
「そんな確実を求める逃げ腰だから私にテストでも恋愛でも負けるんですよ?一応私はセイ君とデートも行ってるし連絡先も交換してるからあなたとは違うんですよ」
「っ!!ま、まぁそれくらいならね......まぁ」
「え?もしかして架純ちゃんセイ君とデートをしたことも連絡先をもらったこともないんですか?」
「っ!!!な、無いわよ.....この姿ではボソッ」
「へぇ〜じゃあ私のほうが全然セイ君と仲も良いし進んでるんですねぇ」
「い、言うじゃないの!そんなに私をやる気にさせたいのかしら!?」
「別にあなたが積極的になった所で、さっきの見てれば無理だなって分かりますよ」
「っ!そんなのやらないと分からないじゃない!」
「遠くからひゃいひゃい言ってただけの人がそんなことよく言えますね」
「何を言っているの?中瀬さん?」
「「!!」」
「遠くから?覗いて?ストーカーみたいにセイを観察してた人が他人にそんな事言えると思っているの?」
「っ!私はその後しっかり行動しました........」
「私は知っているよ?あなたがいつから通い初めたのか.......いつから奥手に立ち回っていたのか」
「っ!そ、それはただ!準備ができてなくて!」
「準備?二ヶ月間もその準備に手間取ったの?ずいぶん長いのね」
「っ!そ、そういうあなただって何でこの会話に入ってくるんですか」
「セイを小さい頃から知っている者としてあなた達みたいな驕り娘にはセイはあげられないの」
「セイ君が誰と一緒になるかはあなたが決めることじゃないですよ!」
「そうよ!セイさんの従姉妹だとしてもそれはおかしいわ!!」
「セイが幸せになれる方法を知っているのは私だけなの、彼を一番に理解していると自負できるくらいあなた達じゃ到底知り得ない事も知っているよ」
「一番?ただの従姉妹で?嘘を言いますね」
「そんな言葉で私は絶対に折れないわ!」
「これだから自分の立ち位置を理解していない........モラトリアム共が」
「「は?今聞き捨てならないこと言いましたね(ったわね)?」」
バチバチ
何かオーラみたいなのがぶつかり合ってるよ......なんで三色に空気が別れているんだ?パンク◯ザードか?
って冗談を行ってる場合じゃない!想像以上に最悪の雰囲気になってきている、さっきから新聞で顔隠してるけど泡吹きそうなサラリーマンの人(前も居なかったか?)がいるし入り口でキョロキョロ店内を見回してこれ大丈夫なのか心配している御婦人がいるし...........
これは......俺がどうにかするしかない
意を決した俺はテーブル席から離れてカウンター内に入っていく、後ろから3人の声がかかったような気がするが振り向いている時間はない。店の雰囲気全体に影響を及ぼしている今、一刻を争う自体になっているのだ。
俺は急いでコーヒー器具のスペースに移動して、棚の4段目にあるコーヒー豆を取り出した。
温められた容器、器具を取り出しフィルターを取り付け粉を蒸らした後円を描きながら少しずつお湯を注いでいく。
フィルターから液が垂れてきたら20秒ほど蒸らす。この時間ももったいない気がするが念には念を入れる必要ある。
そしてお湯を慎重に増やしていく。
「ちょうど3人分........いけるか」
完成したコーヒーをカップに注ぎこむ。
俺渾身のコーヒーでなんとかなればいいんだが
俺はカップを3つ洋皿に乗せて持っていく......店内の目線が注がれていくにつれて口論していた3人もこちらに顔を向けてきた。
「ブルーマウンテンです。お熱い内にどうぞ」
「ちょっと、セイ!これ!」
「良いから......3人とも飲んでみて」
俺は3人の目の前にコーヒーを置いた。まだ淹れたてなので蒸気が立ち上がっている。
「「「いただきます」」」
ズズッ
「これは........」
「この味は......」
「セイ.....あなた.......」
「ブルーマウンテン、香りを嗅ぐだけでもリラックス効果のあるコーヒーだ。甘みもあってクセも少ないから愛梨も飲みやすいだろ?」
「は、はい.....すっごく美味しいです。それに....」
「とても落ち着くわね......」
「セイにしてはすごく美味く出来てる.....正直今までで一番の出来」
「本当か?頑張った甲斐があって良かった」
「「「「...............」」」」
しばらくコーヒーの余韻に浸るように店内には静寂が流れていた。他のお客さんも佳境を乗り越えたことを察してくれたようで皆いつもの様に戻っていた。
「ねぇ?ちょっとセイ戻って」
「え?俺もうお役御免?」
「ここから先は女子会よ?男子禁制!ほらあっち行って!」
「はいはい..........」
ようやく沈めたと思ったら今度は女子会か..........人使いが荒いな
俺はそのまま受付まで戻ることにした。
「あの.........」
「「「さっきはごめんなさい」」」
「あっ......被っちゃいましたね」
「そうみたいね...........」
「良いじゃないの......これで」
「「「.........」」」
つかの間の無音、その空間を切り裂いたのは中瀬だった。
「私はこれからもセイ君にアタックしたいです。だから二人共遠慮しないでかかってきてください。負けませんので」
「私もそう言いたかったけれど、改めて言わせてもらうわね。私は彼が好きよ?確かに今はまともに喋れないけれど.......必ず好きにしてみせるわ」
「なんかもうバレてるみたいだから言うけど.....私もセイが好きかな.......小さい頃からだけど.........」
「じゃあ私達は」
「ライバルであり」
「
「「はい(もちろん)!!」」
3人の笑い声はほのぼのとした空気に沿って店内を巡り巡っていく。まるで花々が咲いたように空気が一変したのが分かる。
その後は店内からお客さんが誰もいなくなるまで彼女達は喋り尽くした。
❖☖❖☖❖
「お会計は...........1400円です」
「そうですね!でもー?」
「そのようですね!でも?」
「そうみたいね、で、も?」
「はい.......俺が払わせていただきます」
「「「ありがとうございます」」」
「わざわざ声揃えるとか............」
誰も購入していないのに俺が自分で出したのだからこうなるのは必然であった。トホホ........俺のバイト代が..........
「でも楽しかったですよ!」
「ええ、本当に有意義でした」
「私も良かったなあ」
「それなら.....良かったよ」
ガチャ
「うっ寒いですね」
ドアを空けると冷たい空気が店内に入ってくる。それはどこか浮かれていた心も落ち着かせてくれるような気がした。
「またのご来店お待ちしております」
「「はい!ありがとうございました!」」
こうして俺は1400円を犠牲に
危機を乗り越えたのであった。
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