第18話 三つ巴!?

 デートが終わった次の日のバイトは休ませてもらった。流石に連日バイトを詰めると身体的、精神的苦痛が半端ないのでこれは仕方ないってわけだ、決してデート終わって気が抜けてバイトがあることを忘れていたわけではない。


 その日は俺が行かなかったせいで美久がプンスカ怒っていたらしいがこれくらいのエゴは通してほしい。俺も休みたいんだ。


 そんな休日が終わって今日は月曜日、最近色々ありすぎて退屈している暇がないので月曜日が月曜日していない。


 俺はいつも通りの特売スーパーの材料で作った飯を平らげた後に荷物を持って家を出た。いつもの道を道なりに歩いていると九条さん家が見えてくる。


「そういえばあれからどうなったんだろうな?」


 俺が今思い出しているのは先週の金曜日にあった事件のことである。放課後のバイトから帰った後に、テレビをつけて見たニュースに取り上げられていたの見て驚いたのを覚えている。確か


『九条製薬社長の自宅に強盗が入るも愛娘の手腕により確保』


 って感じのタイトルだった。全て九条さんの活躍にするように俺が九条父(社長)にお願いしたとはいえ九条さんには悪いことをした気がする。望んでもいないのにヒーローみたいな役回りを押し付けてしまったからだ。


 バイト終わってからエグい量の通知が来ていたがこれと関係無いと信じたい。


「大分持ち上げられてたからな......まぁ大丈夫かなあの人だったら」


「なわけないでしょう?」


何だこの震え上がるような悪寒は....まるで鬼に睨まれているような......


「聞いているのかしら?」


「えっ.........九条さん?」


「固まっている暇があるのかしら?」


「え!?いやなんで?」


「なんでいるのかという質問に関しては偶然だったと言うしかないわね」


「あ、はい」


「アホみたいな反応しかできないのかしら?」


「怒ってるのか?もしかして」


「怒るわよ!!!!!」


「ヒィィ!!!」


 鬼の形相になって俺を見つめてくるのは大変やめていただきたい、お前向こうの道を歩いてる幼稚園児が見えてるか?こっちを見て号泣してるぞ?


「あのニュースが流れた後のことが想像できるかしら?私の顔写真自体は前から回ってはいたけれど今回は全国規模よ?影響力が違うのよ.........しかも」


「しかも?」


「その日は色のないニュースが多かったから必然的に映される回数も多かったわ」


「へぇ.......大変だな」


「あなた喧嘩売ってるのかしら?」


「あはは、冗談だって」


「そんな態度を取っていいのかしら?加賀美君?」


「すいませんでした。反省しますので取り上げだけは勘弁してください」


「忘れていなければそれでいいわ」


 真の男女平等主義者な誰かさんのように、女の子相手でもドロップキックをくらわせられる男に俺はなろうと思えばなれるんだぞ?


「それでちょっと相談があるのよね」


「例の好きな人についてか?」


「その通り、今週の土日に彼をデートに誘おうと思っているんだけれど私達のデートについてきてそのサポートをしてほしいの」


「は?サポート?助言じゃなくてか?」


「恥ずかしいからあなただけに留めておいてほしいんだけど、彼を目の前にすると考えていたことが全て吹き飛んでしまうのよ。だからリアルタイムで私に指示をくれる人が必要になるの」


「はぁ......なんで俺なんだ?」


「前契約したでしょ?私の恋愛相談に乗るって」


「これは恋愛相談の度を超えていると思うんだが?」


「これでも十分なほどの報酬コストは払ったつもりだけど?」


「...................分かった」


「じゃあ決まりね、もちろん恋愛相談も受けてもらうからそのつもりでね?」


「はぁ.......仕事は一つに絞れよ」


「残念、私は人使いが荒いことで有名なの」




 今週の土日は...........休めないらしい




 ❖☖❖☖❖



「おはよーノリィ」


「おはよ、たいっちゃん!なぁなぁ!先週のニュース見たか?」


「ああ、多分九条さんのことだろ?」


「そうその通り、今九条さんは学校のスター的な存在。ご丁寧にもニュースを見逃した人の為にわざわざ切り抜いた動画が裏掲示版に上げられたことで、その動画が拡散されて今の状況になったってわけだ!」


「なるほど、だからあんなにいるのか.........」


 先程九条さんと一緒に登校したら選挙活動も真っ青な人数の人間が九条さん目当てで校門に集まっていた。そうなると視線が集まるのは横にいる俺なわけで......


「ほれもう上がってるぞスレが」


『氷の女王様に侍る裏切り者!その男は今話題沸騰中の加賀美大晴!!!』


「何だこれ!?というか裏切り者!?何も裏切ってねぇだろ!?」


「四人のアイドルにはそれぞれ根強いファンがいるからな.......恐らく今回反応したのは氷の女王様のファンクラブである奴隷組だ」


「は?奴隷組?」


「会員のほとんどがドMで構成されていて、全校生徒の20パーセントの指示率を誇っているらしい」


「はぁ.....それで?」


「今回の件で目をつけられた可能性が高い」


「ったく面倒なことになりやがった」


「ちなみにだが」


「まだあるのか?」


「お前は先週の女神様の件で、黒の女神ファンクラブの使徒組から要注意人物にリストアップされてるからな?」


「はぁぁ!!?聞いてないぞ?」


「言ってなかったからな」


「っざけんなよぉ......」


「お前がジャッチメントですのされる日も近いかもな」


「はぁ........だるすぎないか?」


「大丈夫だ。前に進めば前進する」


「ここぞとばかりにネタに走りやがって.........」


「よせよい、照れるじゃねぇか」


「はいはい、バナナ君カッコいいよ」


「◯ルコを馬鹿にすんじゃねぇ!!」


「分かったから!落ち着け!朝だぞ!」


 ガラガラッ


 土日を挟んでも調子が変わらないノリィを捌いていると教室のドアが開いた。そこには先週のデートで、俺に好きになってもらうまで諦めないと宣言した中瀬さんが立っていた。


「おはよう!みんな!」


「「「「おはよう!中瀬ちゃん(さん)!」」」」


「うん!今週も頑張ろうね!!」


「「「「もちろん(だよ)!!!!」」」」


 体から麻薬でも出てんじゃないかとさえ思う先導力、一瞬でクラスの雰囲気が変わった。


「うわぁ何だあれ.......」


「えげつない、天使オーラだ.....凝を使ってなくても分かるぜ」


「すっごい笑顔だもんな......まぁなんとなく理由分かるけどよ」


 教室に舞い降りてきた女神様は周りの奴らが浄化するほどの笑顔を振りまいていた。先週よりも綺麗になっている気がする。


「ねぇねぇ!なんか中瀬さん感じ変わった?」


「分かる?ちょっとメイクに挑戦することにしたの」


「何か前より可憐っていうか高貴っていうか........神聖化したっていうか」


「ちょっと!私は人間だよ?」


「あはは、分かってるよ!!」


 聞き耳を立てて女子達の会話を盗み聞きすることでその理由を知ることができた。


「なるほど〜会話を聞いている感じだとメイクに目覚めたってことっぽいな」


「あれで逆にメイク無しだったって考えると元が良すぎるよな」


「これは女神が更に進化するかも知れないな」


「俺からするともう進化しなくても十分だと思うけどな」


「馬鹿言うな、他でもないお前のために頑張ってんだろ?もうちょい関心持てよ」


「へいへい.........」


 彼女が覚悟を決めたのなら......俺も向き合うべきなんだよな......





 ❖☖❖☖❖



「いらっしゃいませー!!」


 今日も学校が終わって直行でバイトに来た。日曜日休めた甲斐があったのか、それとも俺の中で心境の変化があったのか分からないが気合の入った仕事ができていた。


「あんた今日は調子良さそうね........まさかデートで?」


「別にお前が思うようなことじゃねぇよ。あっちが絶対に惚れさせて見せるって言うから、俺も誠心誠意向き合おうって決めただけだ」


「それ相当よ!!ムキィィ!!」


「痛てぇ!殴るなって!」


「日曜日すっぽかしたツケよ!!」


「はい...........すみませんでした」


「ふふん、よろしい!!」


 流石美久、チョロくて助かる



 カランカラン



「っと誰か来たっぽいな」


「そうね...........こんにちは中瀬さん」


 やはり当たり前のようにいるのは中瀬さん。しっかりメイクが機能していて存在感がえげつない。


「はいこんにちは!美久さん」


「あのご注文お聞きしま」


「今日もめげずに来るなんて.......振られた癖に」


「そっちこそ、嘘ついてまでセイ君を取られたくないですか?」


「あのご注文はどうな」


「セイは忙しいの、あなたなんかに使う時間なんて無いわ」


「よく言いますね......セイ君の時間を奪っているのはあなただというのに」


「あのご注文」


「あなたのような下心しかない女に任せるよりは私の方が適任でしょう?」


「私は先週も見てましたからね?あなたがセイ君に言い寄るところを」


「あの」


「言い寄る?冗談も大概にしてほしいわね。ただのスキンシップよ?」


「あなたの尺度で聞いていません。世間一般的に見ておかしいと言っているんです」


「ちょっと!!二人共落ち着こうか!!!」


「「え!?」」


「ね!?ほら落ち着こうよ!中瀬さんは早く注文をしようね!!」


「あ、はい......すみませんでした」


「こっちもごめんね」


「ああ、大丈夫だ。これで」





「あの........こんにちは」


「「「!!!」」」


 あ、やばい。対応間違えたら終わるわこれ。とりあえず冷静に注文を聞いてそれで何とか.......なる?


「は、はいこんにちは.........架純.......様」


「ひゃあ.....は、はい......お久しぶりです」


「そ、それじゃあご注文を」





「「ねぇセイ(君)この女何!!??」


「え!?.....って中瀬......なんでいるのよ!!」



 はい..........無理でした......

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る