第17話 宣戦布告!?



「なぁ本当にその量を食べるのか?」


「もちろん、全部食べますよ?」


「そ、そうなんだ」


 彼女の机周りには刻みねぎが山のごとく積み上げられた大盛りうどん二杯と揚げ物が大量に置かれている。俺は2度見ているので衝撃は少ない.......が


「だから遠慮しないでたくさん食べて?君がおいしく食べる様子を見ていたいし」


 確かに俺はそう言った。言ったけどこれは本当に遠慮しなさすぎだと思う。遠慮は無沙汰とは言うがこれは無遠慮すぎないだろうか?



 そんな大食らいの中瀬さんは会話を途切れさせないように話題を振ってくれている。やはり日常的にマシンガンのように繰り出される話題を捌いてきたリアル聖徳太子は伊達じゃない。絶妙に会話が続きやすく飽きない程度の話題を振り続けるのは俺じゃ到底無理だ。


「カフェで見ると執事って感じなのにこうやって私服を見ると、スタイリッシュっていうか正統派っていうか凄いカッコいいです」


「あはは、褒められると照れるね」


「嘘じゃないですよ?実際凄い大人ですから」


「いやいや俺はそんな大人じゃないよ。まだ高校生だし」


「そうなんですか..............じゃあ結構年近いんですね!」


「そ、そうだね」


「セイ君が私より若くても全然大丈夫ですよ?」


「どちらにしても俺は17で同い年だからその手のことは大丈夫だよ」


「同い年なんですか...............体育つ時期にそんな昼食少なくて大丈夫なんですか?」


「え?これ少ない?」


「きつねうどんの並ですよ?少ないです、栄養も偏ってます」


「それ愛梨が言っちゃ駄目なんじゃ?」


「わ、私は家で足りない成分補給しているので大丈夫です!」


「す、凄いね。そんなに食べて太らない?」


「私は痩せやすい体質なので全然大丈夫なんです」


「へぇーなるほど」

(そのデカい胸に行ってるってことなんじゃ)


 と言いかけたがデリカシーが無さすぎなので流石に抑える。


「セイ君は家でしっかり栄養取ってますか?家族に迷惑かけてませんか?」


「俺家では料理する方だし一人暮らしだから大丈夫だって」


「料理できるんですか..............なるほど、だいたい分かってきました」



 ちょっとそれどういう......................




「セイ君.........もしかして.............」





 まさかバレた?たがそんなボロは無かったはず


 いや待てよ?まさか?



「え!?あぁこれは....熱い緑茶を飲んじゃって」


「机の上にはなにもないけど」


「えっえっと...すぐ飲んで捨てちゃったから....」


 まさか


「いえ大丈夫ですよ......大変だったんですよね?」


「あ、ああ大変だったよ」


 まさか


「このきつねうどん美味しそうですね!油揚げも二倍だなんてお得で!美味しくて!!」


 まさか


「どちらにしても俺は17で同い年だからその手のことは大丈夫だよ」


「俺家では料理する方だし一人暮らしだから大丈夫だって」


 まさか




 お前........やりやがったな




 <そして現在>



「チュル............チュル....」


「似てる.........いやでも杞憂........」


「チュル.............チュル.......」


「料理......同い年...................」


「チュル..............................」


「1人...........きつねうどん...........」



 まずい非常にまずい。

 中瀬さんは顎に手をついて気分はまさに探偵といった趣で俺を見つめている。

 これでは次の瞬間、棒少年探偵みたくあれれーなんて言ってもおかしくはない。


 それに乱雑に聞こえてくる言葉が核心に迫りすぎている。

 キーワード的確すぎないか?誘導尋問の効果ありすぎでは?

 ちょっと箸が震えてきたんだけど


 いやビビってるわけじゃないよ?武者震いだよ?

 戦う相手いないけど


 とりあえず俺はこの空気を変える必要がある。

 Q.ではどうすればいいと思いますか?

 A.知るか、お前が考えろ。


 なんて馬鹿やってる時間も無駄でしかない。この瞬間にも核心を突いて来る可能性があるのだ。とりあえず応急処置的な何かを考えておかないと


「お腹一杯になったしそろそろ移動する?」


「いえ、少しだけ待ってください......何か分かりそうなんです」


 いや分からなくて良いんだよ?

 そのままでいいんだよ?

 太陽に近づきすぎるあまり

 身を焦がすって言うじゃん。

 まぁ焦がす手札なんて持ち合わせてないけど



 いや.............奥の手があったわ.......



 俺は席から立って前かがみに重心を倒し


「愛梨ちょっと顔が怖くなってるよ?」


 俺は彼女の頬に手を当て


「へ!?ひゃあ!」


 この自然と見下ろす角度をキープしつつ


「大丈夫?愛梨」


「ひゃぁああああ!!」


 優しい声色で微笑み掛ける


「無理しないで........ね?」


「はい..............分かりましたぁ」


 これぞイケメン風高圧的説得(ゴリ押し)だ。



「ね?ほらもう食べ終わってるし」


「はい........そろそろ行きましょうか」


「そうだね、次はどこに行こうか?」


「私二人で行きたいところがあるんです!行ってもいいですか?」


「もちろん、今日はデートだからね」


「はい!というわけで」


 むにぃととした感触が腕に伝わってきた。


「これで行きましょうね!」


「あはは、さっき良いよって言ったからね」


 そして俺たちは二人揃ってフードコートを後にした。


 つまり勝ち申したってこと





「.................似てる」


 なんて浮かれている俺には中瀬さんの漏れた呟きなんて聞こえているはずが無かった。




 ❖☖❖☖❖



 日が落ちて辺りは暗くなり、スーツ姿の人たちが家路を急ぐように駅へと向かっている。その人達に紛れ、俺たちも帰宅のために駅へ歩いていた。


 今日は良く晴れていたので上を見上げれば星がとても綺麗に映っている。

 そして隣を見れば彼女の横顔があり、その腕は俺の片腕を掴んで離さない。


 熱愛のカップルのようだが付き合ってはいない。


 この距離感ははたして普通なのだろうか?


 俺がずれているのか、それとも中瀬さんがずれているのか


 どちらにしろ今はわからない。ググれば出てくるのだろうか?


 彼女に聞けば何か分かるのだろうか?




「今日は本当にありがとうございました!とっっても楽しかったです!!」


「いやぁ俺の方こそ楽しかったよ。同い年の女の子を連れてデートするのなんて初めてみたいなものだったから緊張したけど」


「ふふっ、大丈夫ですよ。後半はすごいカッコいいとこ見れましたし」


「やめてくれよ、まぐれだって言っただろ?俺はそんな動ける方じゃないから」


「またまた謙遜しないでください!あんな事されたら誰でも惚れちゃいますよ?」


「そんなに煽てられると調子乗りそうだよ........」


「でもやっぱり、もうあんな事しちゃ駄目です。危ないですし、それに......」


「それに?」


「私以外にあんなカッコいい所見せたら嫌ですから」


「!!!!」


 解いた髪をねじりながら顔を赤くして言う彼女は本当に可愛かった。


「可愛いね本当に」


「い、いきなりなんですか!!」


「こんなに可愛い人が俺を好きになってくれたなんて未だに信じられないよ」


「う、嬉しいです............」


「でもやっぱり付き合うことはできないかな」


「!!!...............そうですか」


「それでも君は.............」


「もちろん攻め続けますよ?」


「やはりそうなんだね................」


 静寂が僕らを包み込んでいく。何も言わず何も反応することもなく僕らを繋げていた手は離れていきちょうど拳一つ分ほどの隙間が空いた。


 だがそんな静寂は長くは続かない。彼女がそれを欲していないからだ。


「ねぇ.......セイ君」


「...........ああ」


「私ね........いや私は!」


「................」


「私は絶対に諦めないよ!あなたが何に悩んでいるかは知らないし、それを聞くことができないのも分かってるけれど.........それでも」


「........................」


「それでも!私はあなたが自分から話してくれるようになるまで何度でも通い続けるからね!絶対に好きになってほしいから!!」


「っ!................ああ」


「また振っても絶対にめげないからね!何があっても!」


「...................ああ」


「だからまた会う時は覚悟しておいてね!絶対!」


「分かったよ...........待ってる」


「うん!!!」




 かくしてデートは終わりを迎え


 1人は迷いと傷を

 1人は疑いと愛を

 双方へ覚悟を


 様々な思いを抱えながら

 帰路に着くことになった。

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