第11話 古傷
「私を彼女にしてください!!!!!!」
「.............ですよね」
カフェに静寂が訪れる。俺は受け流しているが美久は固まっているし、そこの新聞かなんか読んでるサラリーマンの方はお茶吹き出してる(ほんとすんません)あと奥にいる女子高生2人はスマホをむけて撮影しているようだ。見世物じゃねぇよキャーとか言うな。
「それで....お返事はどうでしょうか?」
「中瀬様、まずご注文をお願いします。エゴで受付を停滞させることはできません。よろしければ客足が遠のくまで店内で寛いでいただけるとありがたいのですが」
「そ.....ですか、何時頃までいればいいですか?」
「そうですね、恐らく19時前後には落ち着いて来ると思います」
「分かりました。待ちます。あと私本気ですよ?承知しておいてくださいね?」
「承知しております。ではご注文お願いします」
.......
.....
...
そして俺は案の定
「俺を押し倒すの慣れてきたなお前」
「うっさいわね!黙ってなさい節操なし!」
一応さっきの時間については嘘が混じっている。本当は18時から21時くらいまでこの店にあまり客はこない。なぜならばこの店は軽食が多くゴールデンタイムと呼ばれる時間帯ではファミレスなどの飲食店に多く客が回るからだ。
Q,じゃあなぜ嘘をついたのか?
A,中瀬の行動が予想外すぎて何も考えてないからだ
「ねぇ?まさか付き合うんじゃないわよね?」
「まさか、天地がタンゴ踊るくらいありえねぇよ」
「ふぅ..........良かったぁボソッ」
「それで、どうするかだよな」
「決まってるでしょ?こっぴどく振るのよ。もう未練なんて抱かないように!」
「まぁ.....その方法もある」
「何よ?あんた中瀬って子好きなの?」
「いや別に好きじゃねぇよ。たが好きか嫌いかの二択だったら間違いなく好きを選ぶ」
「え!?あんたあの子タイプ?」
「落ち着け。そういうことじゃない」
「じゃあどういうことなのよ!?」
「あいつが振られて傷ついている姿を見たくないくらいには好きなんだ、だから迷うんだよ」
「........そうなのね」
「だからその中間地点っていうか?折り合いが着きそうな所を探してるんだ」
「ふーん.....じゃあ、あんまりこういうこと提案したくないけど.....」
「ん?なにかあるのか?」
「こういうのはどう?」
........
.....
...
❖☖❖☖❖
「もういいんでしょうか?」
「ええ、ご返答致します」
俺は中瀬さんをカウンター前まで呼んだ。さっきお茶吹いたサラリーマンは何故かまだいるし、女子高生達もスマホから手を離していないが仕方ない。
「中瀬さん、俺はあなたの彼氏にはなれません」
「はい」
「あなたとは常連客とその受付という仲です。いきなり恋人関係に移るのは無理があると思います」
「はい」
「なので諦めて頂いて」
「無理です」
「え?」
「無理ですよ?だってセイ君はまだ誰とも付き合っていないじゃないですか。それなら私、セイ君に彼女ができるまで何度でもアタックしますよ?」
「え?」
「だから私が諦めるのを諦めてください」
「え?いやその実は....」
「なんですか?セイ君?」
「彼なら私と付き合っているわよ?」
「は?....あなたは」
「挨拶は始めましてよね?私は柴谷美久。このカフェの看板娘で彼の恋人をしているわ?」
「え?でも前付き合ってないって、それに従姉」
「別に従姉妹と付き合っちゃいけないなんて法は無いわよ?それに私たちはつい昨日から付き合い始めた出来たてカップルなんだから」
「本当になんですか?セイ君」
「............本当です」
これで良かったのか?美久?
<時は数分前に遡る>
「 題して もう付き合ってる作戦!!!
諦めてと言ってもあの子セイがフリーな限りずっとアタックすると思うの。だから偽恋人を作ればいいのよ。あの子はもう付き合っている人がいたという理由でダメージ少なく済むし、あんたもその方があの子の立ち直りが早くて楽でしょ?」
「確かにそうかもしれないが....俺誰と付き合えばいいんだ?」
「そんなの目の前にいるじゃない」
「え?お前?嘘だよな?」
「いえ私よ。でもこれが一番理想的なのよ?」
「は?なんで?」
「私たちが付き合っていると言ってもあの子が納得しない場合があるわ。その時はアリバイを作らなきゃいけないの。だからいつも一緒にいる私たちの方がやりやすいって話.....別にあんたと付き合いたいわけじゃないからね!一石二鳥とか思ってないからね!」
「お、おう。でも良いかもしれない」
「でしょでしょ!ほら実行に移すわよ!」
「いきなり本番かよ!」
<そして現在に戻る>
「というわけで私たちラブラブなの。ごめんなさいね失恋させちゃって」
「............そんな」
「というわけなんですよ中瀬さん。申し訳ありませんが諦めてください」
「..........................いやです」
「え?今なんて」
「嫌です!!!!!!」
「「えええ!?」」
「どう考えてもおかしいです!従姉妹同士って言ってたのはセイ君本人ですし昨日までそんな気配全然ありませんでした!これは嘘です!真っ赤なデタラメです!」
「何言ってるのあなた?私達はラブラブなのよ?」
「じゃあ証明してください」
「「え??」」
❖☖❖☖❖
「え?ほんとにやるの私?」
「はい、本当に好き合っているのか確かめます」
「うう〜恥ずかしいんだけど.......」
「本当に付き合っているなら言えますよね?」
「............笑顔がいつもカッコいい。イジるとすごくいい反応してくれて可愛い。頼りになる時もあってキュンとする。何気ない横顔に見惚れちゃう。化粧台でカッコよくなる瞬間が好き」
「はい五個言いましたね。ではセイ君言ってください」
「え......えっと....なにかあるか?」
「早く言ってよ!私達恋人でしょ!?」
「......胸が大きい、顔が可愛い、体が小さい、エプロン姿が似合っている、なんだかんだ話していて心地よい......でいいか?」
「......................しゅき」
「チッ!まぁ及第点でしょうか」
あっぶねぇー思い出したの身体的特徴ばっかだわ。気のせいかもしれないけど今舌打ちしたよな?
「つ、次です。告白した方法を教えて下さい」
「え?まぁ.....」
「答えられないんですか?まさか本当は?」
「えっと、そのぉ」
「俺が告白した。俺が美久をバイト終わりに呼んで告白をした」
「..........なんて言いましたか?」
「........いつもお前が居てくれて助かってる。これからも俺の傍で一緒に生きていてくれないかって........告白した」
「...................セイしゅき......しゅきすぎ」
「チッ!!!まぁいいでしょう」
めっちゃしっかり舌打ちしたよね?そういうキャラでしたっけ?
「じゃあ最後です。ハグしてみてください」
「「え?」」
「ほらギュッとしてみてください。早くやらないと私が盗りますよ?」
「セイ!ほら来て!!」
腕を広げて待つ美久はとても照れていて普段より全然可愛かった。ずっとこれでいりゃいいのに。
ギュッ!
彼女の体は思っていたよりも小さく、包み込むようにハグができた。それに応えようと小さい手が巻き付いてくるのが心地よかった。
「チッ!ここでもラブラブですか。これは本当に」
「「....................」」
「ほんとに最後です!愛してるって言ってみてください!」
「..................r.......da」
「え!?そ、それは!」
「え、まぁ....その....愛してるよ....セイ」
「ううぅ.....やっぱりほんとうに.....付き合って」
「無理だ.....それだけは言えない.....何があっても」
「「え.................」」
「中瀬さん騙していて済まなかった。お詫びといってはなんだが俺の連絡先を教えよう。あと今週末予定が合うなら親睦を深めにデートでも行こう......」
「え?........はい...よろこんで」
俺はもう一台のスマホを持ってきて連絡先を交換した。
最中、俺はずっと無言だった。
「中瀬様、お気をつけてお帰りくださいませ」
「は、はい....それでは、また」
カランカラン
「ね、ねぇ.......セイ?」
「悪い、古傷が開いた....しばらく1人でいいか?」
「......分かった。無茶させてごめんね」
「良いよ.....もう」
誰もいなくなったカウンターで1人感傷に耽る
いつからだろうか?
”愛してる”に答えられなくなったのは
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