第10話 言ったよね!?

俺の予想はだいたい当たっていた。



「ねぇねぇアイツだよね.......中瀬さんと一緒にいたって人」

「そうそうあの陰キャ眼鏡。アイツ竜崎に喧嘩売ったらしいよ?」

「え?マジ?無謀じゃん」

「弱み握って脅して勝ったらしいよ」

「うっわまじ幻滅だわ〜元から見てないけど」

「それね」


「あの野郎が竜崎をぶん投げたっていう」

「加賀美大晴って名前らしいっす」

「加賀美....どこかで聞いたことがある」

「あんな陰キャが先輩の世界にいたとでも?」

「加賀美.......大晴......」

「おーい?先輩?あ、聞いてねぇわ」


「おいアイツだよな」

「そうそう、なんでも中瀬と付き合ってるんじゃないかって噂されてる」

「昼休み2人でいるとこ見たって食堂にいる奴らが言ってたから俺は間違いないと思うぜ」

「オマケに中瀬好きな人いる発言だろ?これは核心に迫ってんじゃねぇか?」


「で?なんて言ってたの?」

「えっと.....俺が傍にいてよかった...だっけ?」

「きっも、陰キャが調子乗っちゃってる」

「きっとアイツも中瀬好きなんだよ、それで竜崎に喧嘩売ったんじゃない?」

「あーありそう!中瀬さんに手を出すなとか言っちゃって?」

「あはは!!そうそんな感じ!!」

「実らない恋って.....残酷よね」

「まぁ陰キャ君じゃ土俵にも立ててないしねー」

「それなー」



そして俺はついにブチ切れた。




「お前らマジで黙れ!!あることないこと騒ぎやがって!ガチなわけねぇだろ馬鹿どもが!!!!ヒソヒソ噂話するんだったら直接聞きに来いや!!」



「と言いたいと、怒ってはいるがそんな勇気ありましぇんというわけですな」


「ズバリ言うなよ」


「ははは、ま、こうなるよなって感じだな」


「思った通り面倒臭いことになったわ。廊下でひそひそ俺の事言ってる奴いるしクラス内外からジロジロ見られる.......あ〜恥ずかしい」


「まぁお前なら口撃で十分心折れると思ったけど、結構無茶したな。柔術使うなんて」


「しゃーねぇだろ?アイツ言葉だけじゃ懲りないタイプの野郎だ。分からせてやんねぇと」


「小中全国連覇は言うことが違うねぇ」


「よせよ、それはもう記憶だ。思い出じゃない」


「へいへい....まぁお前の味方をしてくれる人もいるってことは分かってくれよ」


「俺に味方?お前以外に?」


「ほら?あっち見てみ?」


 俺は体ごと廊下の方へ向かう。


「違います!彼はそんな方じゃありません!正々堂々と私を助けてくれました!それに彼は恋愛相談に乗ってくれた大事な方なんです。これ以上デタラメを言うのはやめてください!」


 中瀬さんが廊下で噂していた奴らに向かって訴えていた。


「やっぱ女神ってわけよ」


「まぁ俺らの噂を沈静化するには本人達が動くのが一番だからな」


「動いてないやついるのに達付けるのか?」


「俺の場合動かないほうがプラスになるだろ?」


「まぁ、そうかもな。どちらにしろお前は恥ずかしい言うだけで大したダメージ受けてないし.......今回もほっとくつもりだったんだろ?」


「まぁな、この程度の噂なんて飽きたら誤解が解けて消えるもんだ。構えていればさほど問題は無かったと思うしな。余計なお世話というわけではないが.....沈まる時期が早まっただけだ」


「好いてくれている人間に対して.....辛辣やな」


「恋愛に関しては...........まだいい」


「お前は相談のアドバイスでも考えてりゃいいんだよ。もう昼休みだぜ?飯もまだ食ってないんだろ?食堂行けよ」


「馬鹿か?行けるわけねぇだろこの状況で」


 今この状況において食堂に行くのは完全に悪手だ。間違いなくフルボッコにされ何十人もの視線受けながらうどんをすする未来しか見えない。そして......


「ほら?来たぜ。お出迎えだ」


「あ?おいおいまじかよこの世の終わりゲーミングか?」


 中瀬がいるとそれが確定事項となる。


「加賀美さん一緒に食堂行きましょう!」


「え?いやでも今は」


「今日の昼休みはアレですよ?今朝言いましたよね?ちょうどいいですから早く行きましょう」


「お....おいノリィ.....どうすれば」


「まぁなんとかなるだろ(だがなんとかなるとは言ってない)」


「..........売ったな?」


「俺は何もしてない、目配せなんてしてないぞ?」


「嘘だッ!!!」


「それで.....行きますか?」


「.........行きます」


「じゃあな〜」




 ❖☖❖☖❖


「ね、ねぇ加賀美さん?これ予想してました?」


「もちろん、祖父母の代から知ってたよ」


「ここで冗談言えるんですか?すごいですね?」


 今の状況を完結に説明しよう。

 俺はきつねうどん、中瀬さんはメンチカツ、そして白い壁と対面するカウンター席。


 そうここまでは良い。それ以外は終わっていた。


 昨日とは比較にならない人数に見られている。学年合唱でもするような人数が俺たちを見てるのだ。こんなの公開処刑だ。


 幸い交通の邪魔になるので散り散りにはなったが、変わらず同じ量の目線を感じた



「考えてもなんだし、早めに済まそうか」


「そうですね、じゃあ始めましょうか」


 未だに後ろからはガヤガヤとした声が聞こえてはいるが、それにビビったまま立ち往生するのは更にダメだと俺達は分かっていた。


「どういう風なアプローチがいいと思います?」


「そうだな.......まずは日常的は会話から始めるといいんじゃないか?いきなり馴れ馴れしく誘うのは相手も嫌がると思うんだ」


「で、でも彼結構人気があって!ゆっくりしてたら取られちゃうかもしれないんです!」


「え?人気あんの?なんで?」


「はい!誠実な所、笑顔が素敵な所、自分を後回しにする所、爽やかでカッコいい所とか色々あって好きになっちゃうんですよ」


「お、おう。ありがとう?」


「そして、付き合えた時に素とのギャップを楽しみにしている人も多いです。私もその1人です。もしかしたら、そのまま爽やか系かもしれませんし、オラオラ系かもしれませんし、ちょっとオタク系かもしれません」


「お....おう(ちょっと合ってる)」


「でも、彼がどんな人だとしても、私に見せても良いって思ってくれることが一番嬉しいと思ってるんですよね」


「う、うん」


「そんな風に魅力がある彼だからライバルも多いんですよ!だから!その対抗策を男性目線から欲しいんです!」


「そ........そうか........」


 さぁてどうするべきか.......つまり中瀬さんはセイにアタックする気満々ということだ。会話から始める気が全く見られない。十中八九『連絡先聞いてもいいですか?』とか『この後、空いてます?』で始めるだろう。どこの肉食系女子だよ。


「俺の意見を言わせてもらうとだな........」


「はい」


「やっぱり接点を少しずつ増やす方がいいと思う。連絡先を聞くとか出待ちとかは流石に早すぎないか?」


「な、なんで私の考えてること分かったんですか?」


「勘だよ。でもまぁその意見も一概に駄目とは言えない。要は相手がどう感じるかが大切だと思う」


「相手が......どう感じるか......」


 彼女は1人考えだした。俺のチキン丸出しの考えについてどう思っているのだろうか?できれば控えめな答えを見つけてほしい。


「ありがとうございます!おかげ様で良い案を思いつきました!」


「お、おう。それは良かった。じゃあ俺は食べ終わってるしこれでお暇するわ」


「はい!それでは~!」


 なんか凄い笑顔だったけど大丈夫か?振り返りたい気持ちもあるが、目線キツイしさっさと戻ったほうがいいか。


 後ろ髪を引っ張っぱられるような感覚を覚えながらも教室へ戻った。




 ❖☖❖☖❖




「いらっしゃいませぇ」


 俺は今日も受付を頑張っていた。少し気だるいのは気の所為ではないだろう。そして隣には自称合法ロリ巨乳お姉さんがいる。


「あんたちょっとたるみすぎ!もっとシャキっとしなさい!」


「はいはい分かってる分かってる」


 それより中瀬さんの案ってどんな感じなのか気になるな.........趣味とか聞くみたいな感じだと受け答えしやすいんだが.........


「今日もあの子来るのかしら.......」


「あの子って誰?」


「前来た中瀬って子、毎日来てるわ。飽きもせず」


「え?俺ずっとカウンターにいたぞ?中瀬なんていなかったはずだ」


「違うのよ、店内には入ってきてない、店の外から覗いてたの。ちょうど店でてすぐのベンチで」


「知らなかった...........」


「私と目があったから間違いないわ」


「ガチで俺のこと見てたのか.....中瀬さん」


「今日も来るだろうけど多分外にいるでしょうね。シャイガールだからかしら?」


 むにゅ


「お。おい?何してんだ?」


 美久が豊かな胸を俺の腕に押し付けていた。しかも普通にお客さんがいる中でだ。

 双丘の柔らかい感触が腕を伝わってくる。


「いやぁ....ただの従姉妹のスキンシップよ?」


「ほんとにこれスキンシップなのか?」


「もう!前にも言ったけど、これはあんたへのマーキングだから.........ね?」


 なんかコイツだんだんとデレてきている気がする。昔からおちょくるのが好きだったとはいえつい最近まではこんな密着することも無かった。


「お前がブラコンだなんて知らなかったよ....はぁ」


「ぶ、ブラコン!?そ、そんなわけないじゃない!!バカ!節操なし!」


「いて!殴るなよ暴力反対」


「あんたが悪いんだからね。このさいてー男」


「へいへい、ほらお客さんだぞ?」


 カランカラン


「いらっしゃいませー!..........あ」


「こんにちは!セイ君!」


 このタイミングでくるとかタイムリーだな、とりあえずこのまま受付を済ませないと。


「は、はい、こんにちは。ご注文お聞きしますよ」


「その前に一ついいですか?」


「え?まぁ......どうぞお構いなく」


「ふぅ...........よし」



「私の名前は中瀬愛梨って言います!今は高校二年生です!」


「は、はい」


「家はバスで駅から10分くらいの所にあります!」


「は、はい」


「年上でも年下でも全然大丈夫です!」


「は、はい?」


「学校では成績トップで将来安定です!それに胸も結構大きいです!」


「は.......はい?」


「なのでどうか私を.........」


 あ、これ、やばいやつなのでは!?考えた中で一番酷いやつなのでは?俺の言ったこと全く役に立って無いのでは!?



「私を彼女にしてください!!!!!!」



「...............ですよね」



 さて、どうするか......

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