第6話 俺なんだが!?

 ppppppppppppppppppp


「うるさぁい!!!!!!」


 俺は今日も無慈悲なるアラームの音で目を覚ます。このアラームという現代日本の誇る兵器は我々を天国のごとき眠りから現実へと引きずり起こすまさに悪魔。


 何度呪ったのか数え切れないほど憎んでいるがこいつがいなければ起きれないので憎むに憎めない


「よいしょっと」


 ポチッ


 俺は鳴り響くアラームを止めて大きく背伸びをした。


「よっし!行くか!」


 そして勢いよく自室のドアを開けた




 ❖☖❖☖❖




 今日も俺は1人通学路を歩いていく。


 別に何か特筆する何かがあるわけじゃない。交番があって橋があって住宅街があってコンビニがあって豪邸があって住宅街があるだけだ。

 そんな普通の通学路を歩いて見えてくるのは俺が通う端麗たんれい高校。結構有名な高校らしく県内外から人が集まる。学校を見上げると屋上から『陸上部全国大会出場決定』という垂れ幕が吊るされているのが見える。


 陸上って聞くとを思い出すな。まだ陸上続けているのかな?まぁ続けていようがいまいが決めたのはあの子なんだから、俺には関係無いか。



 教室に入るとクラスからの間の抜けた挨拶が聞こえてきた。俺も脳死で挨拶を返す。ほぼ全自動に近い。


 だがそんなことよりも見た目も中身もうるせぇやつが

 さっきから俺を見てるんだよな


 俺は自分の席に荷物を置いて、俺に視線を注いでくる奴の元に向かった。



「おはよぉ!たいっちゃん!昨日のライブ見たか!?見たよな!?全裸待機したよな!?」


「おはよノリィ、元気そうで何よりだわ」


「元気ハツラツオレナミンC」


「あははおもしろいオモシロイ」


「少しはマシな反応をするとかないのか!?」


「お前は万人受けするギャグを身に付けろよ!!」


「俺の辞書にそれって必要か?」


「お前の辞書丸ごと広辞苑に変えてやろうか?」


「リリィちゃんが残るならばそれでいいぞ」


「残さん」


「それだけは勘弁を!」


「お前........めげねぇのな」


「リリィちゃんへの愛を失ったら俺狂戦士ノリィランダーになるからな?世紀末見せるぞ?」


「お、おう」


「そこでその反応はちと辛い」


「自業自得だろ」




 ❖☖❖☖❖



「昼食昼食ー♪」


 昼休みになってやっと授業が半分終わった。うちの学校は超広い食堂があるのでいつもここで昼食を済ませている。まぁ弁当作ったり惣菜買うよりはここで食券買うほうが100倍楽だからなんだけどな


 俺はいつも隅の方にある白い壁が目の前にあるカウンター席でボッチ飯をしている。


 ここで気になるだろう問いはこんな感じ


 Q.一緒に食べる友達はいないのか?

 A.いやいない。


 Q.ノリィと食べないのか?

 A.あいつは昼休み※ゲーム中だ。


 ※禁止されてます



 頭の中でQ&Aを済ませたところで


「いただきますと」


 俺がいつも食ってるのはきつねうどん、油揚げが目立つ俺イチオシの麺類だ。俺の徹底的なリサーチによればこの食堂においてこのきつねうどんほど安くて美味いものはない!


「んんっ!美味いねぇぇほんと」


「そうですね、とても美味しそうに食べてますね」


「いや見せかけじゃなくてほんとに美味しいんだってマジで」


「そうなんですか。でももう少し量を食べないと体に悪いですよ?」


「大丈夫だって、料理するから家........で......え?」


 俺誰と喋ってるんだ?


 後ろを振り向くと純真無垢な笑顔で俺を見つめている中瀬愛梨がそこに立っていた。

 トレイに山盛りの牛丼とラーメンを置いているのでおそらく食事場所を探しているのだろう。というか多すぎだろどんだけ食べるんだこの人!?太るぞ!?


「中瀬さん............」


「隣..........空いてますよね?」



 おいおいおいおいおいおいそれはまずい


 落ち着いて後ろを確認しようではないか。慌てず騒がず必要最低限度の運動量で目線を動かしてこの超絶難易度ムリゲーの任務を成功させるのだ。クラスの陽キャのやつらの近くに消しゴム落としたときも、俺の机に知らない陽キャが座っていても成功させてきた俺なら穏便にできるはずだ!覚悟を決めろ!!俺!


「..........チラッ」


「「「「「「「ジロリ」」」」」」」


 お前ごときが何で中瀬さんと昼食食べてんだ?的な視線、まさに親を殺されたとしか思えない目つき...........これは........詰んでるわ



「それで.........隣どうかな?相談もしたいし」


「どうぞ...........ここで」


「じゃあ失礼します」


 彼女に提示したのは俺の2つ隣の席、だが彼女は俺の隣へと座ってきた。もう俺に逃げ場はないようだ。


「そ、それで........恋愛相談.....だっけか?」


「は、はいそうなんです......ぜひとも聞いてほしいんです」


「じゃ、手短にどうぞ。俺麺伸びるの嫌だから食べながら聞くわ」


 ちょっと行儀が悪いと思ったがこれも俺へ向けられる視線を少しでも、雀の涙の100分の1でも軽くするためだ


「えっとね、彼とはね友達とか同じ学校とかってわけじゃないです」


「.............チュルチュル」


「ただ私が追いかけているだけっていうか通ってるだけっていうか」


「...............チュルチュル」


「始めて出会ったのは天乃原シーパラダイスで」


「................チュル!?........」


「私その日家族と一緒にシーパラダイスに出掛けてて、その時新しく買った靴を履いていったんです」


「...............チュルチュル」


「それで私靴ずれ起こしちゃって、変な場所で迷子みたいになっちゃったんです」


「...............チュルチュル」


「携帯の電源もなくて全く動けなかったときに、私はその人と出会いました」


「.............チュル?...........チュルチュルチュル」


「その人は見ず知らずの私に声をかけてくれて、傷を消毒してハンカチで巻いてくれたんです」


「......................チュ.........チュチュル」


「それで彼言ってくれたんです、君が大変な時に駆けつけられて良かったよって」


「...................チュルチュル!!!!!」


「私がお礼をしたいって言っても、いいですいいですって断ってそのままどこかにいっちゃったんです」


「........チュルチュル...........」


「それで、私そのハンカチを宝物みたいにいつも大事にして使ってるんです」


「..............チュル.............チュル」


「それで何ヶ月か経ったある日に私また彼と再開することができました」


「チュル?.............チュルチュルチュル」


「友達と一緒に駅前に美味しいカフェがあるから行ってみない?って誘われたから一緒に行ってみたんです」


「...........チュル?.................チュ.........チュル」


「そしたらそこのカフェの受付の人が彼だったんですよ!!」


「ブッフゥゥ!!!!!ゲホゲホ!!!!」


「だ、大丈夫?続けてもいいですか?」


「あ、お構いなく........多分そうなんで」


「それで彼のシフトを何度も通って確認しまして!何度も同じメニューを頼みました」


「......」


「それで大分私のこと覚えてきたかなってタイミングで、彼女いるか聞いてみたんです!」


「.....」


「そしたら居ないって言ってまして、すっごい安心したんです。それで私これチャンスだって思って思い切って名前を聞いてみました!」


「......」


「それで彼がセイっていう名前なことが分かったんです!」


「...............はぁ」


「私狙ってますアピールもしてきました!」


「..................だよね」


「それでここから私どうすればいいと思いますか!加賀美さん!」


「笑えばいいと思うよ」


「え?」


「ごめん!!また今度その返答返すから!!」


 俺は席を跳ねるように立つと

 一目散に走り去っていく

 返却棚に返さなければいけないきつねうどんとプライドを置き去りにして

 だが俺は振り返らない


 もう過去に囚われないんだ。


「だからちょっとだけほっといてぇぇぇ!!」


「加賀美さん!!??」



 いやほんとごめん!


 意味わからないのは理解してる!


 でも待って欲しい!


 だってソイツ.........



 俺なんだぁぁぁ!!!!!!!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る