第5話 なんですと!?

 「ったく、なんなんだよ一体」


 自宅に着いてピッタリとしたスウエットの部屋着に着替えた後、趣味として遊んでいるPCゲームを立ち上げた。


「お、クラメンも元気でやってるみたいだな」


今日もクラメンの名前欄にはプレイ中の文字が浮かんでいる。クラメンとは一緒に様々な困難を乗り越えてきた仲なので全員仲の良いネッ友である。


 特にクランリーダーのHazeさんとはとても仲が良い。は昔、偶然ボイスチャットが繋がってしまった際に意気投合して仲良くなった人だ。一緒にクランを設立してかなり強いチームを作り上げた。


彼は実力的にもっと強いチームにいけると思うけど


『このクランは君と一緒に作った大切な場所だからね、君や皆を置いてくことはできないさ』


そう言って笑っていたHazeさんには感謝しかない。


「よっしゃいくかなあ!........ってあれ」


 ピコンピコンという音声と共に画面には通話の文字、誰からかと着信先を見ていくとHazeの文字があった。


 俺は迷うことなく通話ボタンをクリックする。少しノイズが流れた後、いつもの中性的で女の子っぽい彼の声が聞こえてくる。


「やぁやぁ聞こえているかな?SEI君?」


「はい!聞こえますよ!Hazeさん!」


「いつも通話答えてくれてありがとう。その元気さがとても励みになるよ」


「俺らをキャリーしてるのはHazeさんじゃないですか。だから俺らの方が感謝してるっていうか」


「別にそんなに多くキャリーしてないはずなんだけどなぁ......まぁその想いだけ受け取っておくよ」


 相変わらずクールでほんとにカッコイイわHazeさん。まぁリアルは結構小さめだったんだけど


「ふふふっ」


「どうしたんだい?そんな押し殺したみたいな笑いして」


「いやー前オフ会であった時にあんなに小さくて可愛いらしかったのに、ネットだとこんなカッコイイんだからそのギャップが面白くてですね」


先月末にクランメンバーとやったオフ会にて、今まで全く姿を見せなかった彼は遂に姿を見せてくれた。彼はだぼっとしたパーカーにジーンズ、黒いキャップのストリートコーデだったが所々の仕草が女の子っぽくって笑い話になったことを覚えている。帽子とマスクで顔はしっかり分からなかったが、喋っていていつものHazeさんだったので安心した。


「か、可愛いだって........うふふ」


「なに照れちゃってるんですか?男同士だからなんでも良いと思いますけど」


「お、男でも可愛いと言われれば照れるのさ!そういう君はカッコイイと言われたら照れるだろ?」


「俺はまずカッコイイって言われないですからね....大前提として」


「そんなはずない、僕からしても君は...と、とてもカッカッコよかった!!」


「ありがとうございますHazeさん。元気が出ますよ」


hazeさんからカッコいいと呼ばれるとお世辞でも嬉しく感じる。


「それでいい、じゃあ今日もデュオで回して行こうか」


「はい!よろしくお願いします!」





 ❖☖❖☖❖





「すみません。ちょっと判断ミスりました」


「気にする事はないよ。僕もさっきヘッショミスったからね」


「それ1回だけじゃないすか、あと大体ヘッショして1位取ってる癖にねぇ」


「うぐぐ」


「でもHazeさんのおかげでちょっと浮かばれました。もうちょっと上手くなりたいですから」


「そ、それなら今度2人でオフとかどうだ?付きっきりで教えてあげられるぞ?」


「い、いいんですか!?出来たら是非!」


「よ、よし第1段階クリアだ(ボソッ)」


「ちょっとHazeさん?もうちょっとはっきり言ってください」


「いやすまない。どこでやろうかなって考えていたんだ」


「だったらいい所ありますよ!俺がバイトしている所の近くにある店なんですけど」


「じゃあ良いよ。そこでいい」


「内容聞かないんですか?別に俺はそれで構いませんけど」


「君が僕の為に選んでくれた店ならどこでも入るよ?いかがわしい店はゴメンだけどね?」


「男同士で入る奴はいませんよ.....今の発言オフレコで」


「大丈夫だよ、その発言に深い意味は無いことは分かってるから」


「ありがとうございます」


「それより気になるのは君のバイトだ」


「へ?」


「君はオフ会の時みたいな感じでバイトしているのかい?そこのところ詳しく教えて欲しいんだが」


「まぁオフ会の時とだいたい一緒っすね。違うのは執事服っぽい衣装を着ているというか着せられているというか」


「執事服!!.......アリ寄りのアリだな(ボソッ)」


「執事服ってそんなに面白いですか?声抑えてますけど」


「いやすまない。どストライクだったもので.....ああ笑いの方だよ!違うからな!」


「そっちの意味しか無いじゃないですか」


「ううむその通りだ。それで続きは?」


「まぁそこでカウンターで注文やら会計やらしてる感じですかね、口調とか気をつけること多くて大変です。客も客だし身内も身内で」


「客?身内?何かあるのかい?」


「まぁHazeさんだから言いますけど」


「うん。しっかり聞くよ。どういう内容でもね」


「俺親戚の店で働いているんですよ。それでその従姉妹にあたる女の子が当たり強くて...それに、なんか今日も同じ学年の人に変なこと言われましたし」


「!?女の子が職場にいて!?女の子の客が来るのかい!?」


「ええ!?まぁカフェなんで仕方ないっすけど」


「そ、それで何言われたんだ?その客から!?」


「え?まぁ今度から容赦しませんからねって言われました。あと名前聞かれたんですけどなんですかね?俺の悪口書く気なんですかね?」


「..........................................」



「あの?Hazeさん?聞いてます?」


「あ、あああ聞いてるとももちろん。」


「色々とめんどくさそうなんですよその子。それに従姉妹はツンツンしてて感じ悪いですし」


「................間違いないわ(ボソッ)」


「え?」


「間違いなく君はおちょくられているのさ!」


「な、なんですと!???」


「その子達は君の事をなんとも思っちゃいない。だから別にそれ以上深く考えることは無い!いいね!?その客は君をおちょくってるだけだよ!」


「は、はい。押しが凄いですね」


「当然だ。君のことを考えてそう言っているんだから」


「ありがとうございます。ってもうこんな時間ですか。そろそろ落ちます。お疲れ様でした」


「うん、今日も良いゲームだった。じゃあまた今度」


「はいそれでは!」



 俺はゲーム画面を閉じてベットへダイブする。明日もあるだろうトイレ掃除やら面倒くさそうな恋愛相談のことを考える


 はぁぁぁ


 自然と溜め息が漏れた。気分転換が必要だと思うし夜食でも食べるかな


 俺は階段を降りて台所へと向かった。




 ❖☖❖☖❖


 彼とのゲームが終わると画面を消して、そのまま結構値段のするらしいゲーミングチェアの背もたれに体重をかけた。キシキシとか音が鳴り、部屋の静寂に響いた。



 Hazeでありこと九条架純くじょうかすみは自他共に認める完璧超人で超美人だ。お母様から受け継いだ綺麗な金髪と男を寄せるこの体型と美貌にはいつも感謝している。もちろんお父様のおかげで様々な習い事を受けることができ、花嫁修業にも役に立った。まぁ親バカと分類されるだろうお父様にも本当に感謝している。


 私は先程の会話で気になっていた部分をもう一度考え直すことにした。


 彼がバイトをしていることも初めて知ったし、それがカフェだなんて思わなかった。しかも、女性の客がいて?女性の店員(従兄妹)がいるなんて今まで1度たりとも私へ言ったことは無かった。もちろんプライバシーしっかり考えて2人ともゲームをしているので、仕方ないと言われるとその通りになる........


 でも私は納得できなかった。

 このまま男同士と思わせて置けば必ず出遅れることになり、彼をその女狐達に取られてしまう。


 私は彼と一緒になれる方法を軋む椅子の上で考えて続けた。



「やっぱり経験が少ないわね」


 どうしても1人で考えるには経験が足りなかった。誰とも付き合ったことがない生娘の私では男を堕とす技など何一つ知らないのだ。

 そう考えると知人からアイデアを貰うのが1番良いと思われる。だが、PCゲームから始まった恋だなんて学校で悪いような噂に広まる危険性があった。


 出来れば、男性で私の下心を持っていないような人が良い。だがそんな人がいるのだろうか?


 私は思考が滲んでいくのを感じ、ベットで横たわる。目を閉じて浮かぶのはオフ会で初めて会った彼の姿。


 どうしても素直になれなくて男と嘘をついてしまったが、本当は女と言いたかった。オフ会の後に2人で別の場所に行きたかったが、プライドが邪魔をした。


 私はそんなことを考えながらも襲う眠気の波に身を投げた。

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