第4話 有罪!?
「あの.....よろしいですか?」
うっかり考えすぎてしまった。さすがに通いすぎとは思ったが、目の前にお客さんがいることを忘れるのは本末転倒だろ。流石に気を引き締めないと。
っていうか上目遣いやめて、その攻撃は俺に効く
「はい。ご注文をどうぞ」
「えっと......じゃあブラジルコーヒーとチョコムースで.......あっあと店員さんがコーヒー入れてもらいたくて......それとミルクと砂糖多めに欲しいです!」
ブラジルコーヒーはそこまで苦くない。万人受けする味が魅力的なコーヒーだ。彼女はあまり苦いものが好きではないようで、初めてここでコーヒーを飲んだ時、涙目になりながら砂糖とミルクを注文したのを覚えている。なんでここ来て頼むのか意味わからん。
「かしこまりました。チョコムースは出来たてになりますので、お時間頂きます。しばらくお待ちください」
彼女はいつもカウンター前の席に座ることが多い。ふとした時に視線が重なるので、結構やりづらい。まぁ微笑んでくれるので気が楽にはなる。
「はいっ、お願いしますねっ」
ちょっと猫なで声っぽい声のように聞こえたが気のせいだ。多分ニヤけてるのも気のせいだ。今度休みとって眼科と耳鼻科行こうかな。
俺はオーダーのために調理場へ声をかける。
「オーダー、チョコムース1」
「「了解」」
厨房の人達の連帯感にはいつも惚れ惚れしている。仕事人っぽくてカッコいい。
俺はカウンターに戻って慣れた手つきでコーヒーを準備していく。ブラジルコーヒーは泡を立てすぎない方が美味しい、比べてみたことがあるが結構違う。
ジッ............
凄い背中に視線を感じる。この視線の正体はなんとなく分かっている。だが確かめなければ本当かどうか分からない。とりあえずチラッとだけでも
「チラッ」
ジッ..........
めっちゃ見てる。目見開いてるよ中瀬さん......
俺がコーヒー作っているのそんなに面白いか?
…………
コーヒーが出来上がったくらいで
チリンチリン
後方から鈴の音が聞こえてきた。これはオーダー完成の合図だ。俺は出来たてのチョコムースを調理場へ取りに行く。この鈴でオーダーを知らせるっていうのが雰囲気あって個人的に好きだ。
「ってお前かよ」
「むっ.......失礼ね!」
調理場の目の前には美玖が仁王立ちしていた。
「おい!ちょっと邪魔だからどけ」
「あんた、あの人と知り合い?」
美久は俺の後方を指さした。恐らく中瀬さんのことだろう。
俺は恐る恐る後ろを見る。ここでもちょっと視線が通っていた。
「あの子よく見るイメージあるけど......あんたと何かあるの?」
美久の疑いの目線が突き刺さってくるが、それは勘違いだ。
「いや、別にそんなことは無い。同じ学校ってだけで名前も知られていないだろうし」
「ほんとよね?ほんとに知らないのよね?あの人」
凄い剣幕で近寄ってくる美玖に思わず後ずさりしてしまう。従姉妹だと分かっていても、意外とある胸が俺の腹に当たって沈むのは結構キツい。理性がとかじゃなくて股間に悪い。
「ほんとだから!だから早くどけぇ!!」
俺は無理やり美玖を退かして、調理場でチョコムースを貰う。何故か美玖母がニヤけていたが俺はスルーした。
カウンターに戻るとスマホを見ていた中瀬さんが立っていた。
「おまたせいたしました。ブラジルコーヒーとチョコムースです。冷めない内にお早めにどうぞ」
「はいっ!いつもありがとうございますっ」
俺の笑顔と彼女の笑顔が交差する。いやーいいよね、お客さんが喜んでくれる瞬間って。でもなんか俺見ていない気がするんだよな、目線がちょっと後ろ見てる気がしなくもない。後ろには美玖しかいないし。
彼女は洋皿をもってカウンター前の席まで行く。
といってもすぐ隣にあるので移動すると言うよりかはそのまま置く感じが正しい。
………
しばらく、来る人去る人の受付と会計を済ませる、そしてほとんど店から人が居なくなりBGMと食器の音のみが響くようになった時
彼女は動き出した。
「あの......店員さん?」
「あ、はいどうされました?」
「店員さんって今年の二月頃に天乃原シーパラダイス行きました?」
「2月......2月ですか......」
確かに俺は2月にカフェが休みで俺もちょうど暇だったからおじさん達の誘い......っても美久の誘いで俺入れて四人で天乃原シーパラダイスに行った。それよりもなんで俺が天乃原行ったことを知っているんだろうか?考えられるのは俺を見た可能性。だが、そのときはまだ中瀬さんは常連でもなんでもなく、ここに来たこともなかったのに......
「はい、行きましたね」
「やっぱり!!!...........やっぱり会ってたんだボソッ」
彼女は俺の返答を聞くと露骨にテンションが上がった。何が嬉しいんだろうか?答え合わせしたら合ってましたって流れそんなに楽しいのだろうか?
彼女は顔を押さえていた両手をどけると俺をじっと見つめてきた。曇り一つないその目は吸い込まれそうなほど綺麗だった。
(いかんいかん。俺は店員だ。シャキっとしないと)
「さっき見えたんですけど......調理場にいる女の子って......恋人ですか?」
何だと思ったらそんな質問か。それなら
「いや、彼女とはそんな関係ではありません。従姉妹なので」
「従姉妹!ならライバルじゃないボソッ」
ところどころ声がちっちゃくなって聞こえづらい。女の子はひそひそ話が好きって聞くけど、これもそういうことなんだろうか。
「お兄さんって..........彼女いるんですか?」
ずばり痛いこと聞いてくるな、俺の傷を抉ろうとしないでほしい。まぁ正直に答えるんだけど
「いや、いません。しばらくは1人でいたいので、ちょうどいいですけどね」
「そうなんだぁ............」
何がそうなのだろうか?この質問結構クルからこの手の方はやめてほしいんだけど
「でも..........モテるんじゃないですか?そんなにカッコいいと」
何言ってるのか全然わからん。この格好しててカッコいいって言われたこと一度たりともないからな。最初の頃は期待してたけど、何にもないし。たまに美久が言うのは冗談って本人からも言われているし................虚無っちゃうなぁこれ
「いえ、全くそんなことはありません.........」
「ふーん、結構鈍感なんですねぇボソッ」
しばらくして彼女は綺麗な所作でコーヒーとムースを食べ終わるとそのまま俺の所にやってきた。
「お会計お願いします」
提示された値段は480円。俺はこれが相場で高いのか低いのかよく分かってない。バイトだからそこまで気にする必要はないのだ。
「480円です。お会計方法はどうされますか?」
「電子マネーでお願いします」
ピロリン♬
と電子音が鳴り、支払いの完了が画面に表示される。
彼女はそのまま踵を返して、扉へと歩く。
「そうでしたね..........」
扉の前まで行った所で彼女はいきなり振り向いた。
「店員さん?店員さんってなんて名前なんですか?」
俺のネームタグは無しにしてもらっている。ほとんど店のカウンターで作業するのは俺だけなので何の問題なく店員さんと呼ばれている。
ここで本名を言ってしまうと、他の人に広まる可能性もある。それにこの人に本名バラしたら色々と面倒なことになると直感した。
「..........セイです」
「セイ.......セイ君って呼ばせてもらってもいいですか?」
いきなり君?常連だからそれくらいの距離感が正しいのか?
「ええ、どうぞお構いなく」
彼女はスマホに何か打ち込んでいた。俺の名前拡散したろとか考えてなきゃいいなぁ
「今度から容赦しませんからね!セイ君!」
「え?はぁ?..........またのご来店お待ちしております」
急に変な事言われたので我が出てしまった。容赦しないって何を?俺なんか譲歩されてたの?俺の淹れるコーヒーあんまり美味しくないけど今度から厳しめに見ます的なやつなの?
彼女は笑顔で扉を開けて去っていった。
「まじで何だったんだ................」
「そうね、彼女何なのかしらね?」
「っっ........................」
背筋が凍った気がする。頼むからそういうのやめてほしい。耳元で囁くとか嫌な予感しかしないんだ。
俺はゆっくりと振り向き、そこにいるであろう美久と視線を交わす。
「な、なんだい!?美久さん!?綺麗な顔が台無しだよ!?」
「うるさい、私の質問に答えて!あの子は何??」
駄目だコイツ。褒めが全く聞かないモードだ。こうなったらもう満足するまでこのままなんだよなぁ
………
俺は調理場付近まで連行され、壁に押し倒されていた。いや壁ドンだな。女が男にだけど。
「で?彼女は一体何?」
「いやぁただの同級生!向こうは全く俺のこと気づいてないって!」
「ふぅーん、で何か言われたの?最後出ていくまで長かったけど!」
「いや別に名前を聞かれて、今度から容赦しませんからねって言われただけ」
「
「即答!!??ってか重くない?」
「あんたに拒否権は な い の!!」
彼女はそう言って調理場へ戻っていった。
「チッ!!........セイに群がる雌共めボソッ」
なんか呟いてたけど、女子って怖いわ............ほんとに
かくして、俺の一週間店のトイレ掃除が決まったわけだが...............
どう見ても理不尽すぎるだろ!!!!!!!
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