君の花

@saisaikuo

君の花


 桜舞う季節。僕は君に出会った。

 君が褒めてくれた黄色のゼラニウムは僕のスケッチブックの中で今も綺麗に咲いている。

 

 僕は小さい頃から絵の才能があった。一度見たものを覚えてすぐ描くことが出来た。

 同級生には描くものをよく強要された。だが、僕は物心がついた頃から、好きなものしか描かないと心に決めていた。だから何度も断り続け、僕はいじめられるようになった。

 

 そんな僕が逃げた先は近くの公園だった。そこには僕の見た事のない花が多く咲いていた。

 

 長い間僕はそこで好きな花をスケッチし続けた。

 

 君ともそこで初めて出会った。

 君は無口な僕にいつも明るく接してくれた。

 

 君が来なかったらこの日常も変わっていなかっただろう。花にも詳しくなれた。君がいたから、僕は強くなれた、変わることが出来た。

 

「君が好きだ。」

 勇気を出してそう伝えた。

 すると君は泣きそうな目で僕を見て、

 

「私、これからどうしても外せない用事があって、もうこの公園に来られないかもしれないの。でも、絶対に戻ってくる。だから、返事はそれまで待ってて。」

 

 

 そう言って君が僕の前から居なくなって三ヶ月が過ぎた。

 

 今日、君のお母さんの花屋は枕花が多かった。きっとお金持ちが頼んだのか、作る量を間違えてしまったのだろう。嬉しさか、疲れか、君のお母さんは涙を流していた。

 

 ああ、もう冬が来る。君がくれたマフラーを巻いてもやっぱり寒いな、そう感じながら僕は洟を啜った。

 

 次に描くのは君の絵にしようと思う。君が帰って来るときまでには完成させよう。

 

 そう決意し、彼がスケッチブックを開くと、そこには綺麗なゼラニウムが咲いていた。

 

 彼は静かにそのゼラニウムに水やりをした。

 

 そんな彼の背には黄色のスイセンが美しく咲いていた。

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