いつも見てきたわき道

Aoi人

日常から見つけた非日常

小学生のときから、いつも通っている通学路。いつもの景色。いつもの風景。

田舎と形容するしかない、木と田んぼばかりの、お世辞にも広いとは言えない通学路。

そんな通学路の途中にある、まだ一度も通ったことのない、周りが木で覆われている小さなわき道。

その先に何があるかなんて、一度も気になったことはなかった。

でも、高校2年生の夏、その日だけは、なんだかそのわき道をどうしても通りたいと、そう思ってしまった。

だから、ぼくは生まれて初めて学校をサボって、そのわき道に入っていった。


わき道に入ってすぐに目にしたのは、小さなお地蔵さんだった。

本当に小さくて、ぼくの膝下くらいまでの身長しかなかった。

わき道に入らなくても見えるような位置にあったけど、あまりにも小さすぎて、今まで気付かなかったんだと思う。

せっかく見つけたんだから、お供え物でもしようかな。

そう思って、鞄の中を探す。

「お供え物お供え物…っと。これでいいかな。」

そう一人で呟きながら、今日のお昼にする予定だった小さいおにぎりを取り出して、お地蔵さんの前に置く。

両手のひらの合わせて、「無事戻って来れますように。」とお祈りをして、軽く会釈をする。

そして、ぼくはまた、わき道の奥へと足を進めていく。


お地蔵さんを見つけてから3分ほど歩いた後、二つに別れた道へと辿り着いた。

「さて、どちらから行こうか。」

少し悩んでから、近くにあった少し太めの棒を拾う。

たまにはこうやって、行き当たりばったりになるのもいいのではないだろうか。

そんなことを考えてしまったのだ。

棒を真っ直ぐ立ててから、素早く手を離す。

棒はゆっくりと倒れていって、左の道を指し示した。

「ありがとね、棒さん。」

棒にお礼を言ってから、拾う前の位置に棒を戻す。

そうしてぼくは、左の道へと進んでいった。


左の道に入って5分ほど歩いた先にあったのは、小さな神社だった。

ところどころ赤い塗装の剥げている鳥居をくぐって、神社の本殿へと向かう。

こじんまりとした本殿の前には、小さなお賽銭箱がひっそりと置いてあった。

鞄の中から財布を取り出して五円玉を探す。

運良く一枚だけ、財布の中に五円玉を見つけた。

お賽銭箱に五円玉をそっと入れて、二礼、二拍手、一礼をしてお参りをする。

「身長が伸びますようにっと。」

そうお祈りをして、神社の中を散策する。

お世辞にも広いとは言い難い境内を15分ほど散策してみたが、どうやらこの本殿以外には何もないらしい。

ある程度散策を終えた後に、本殿の後ろに細い細い道を見つける。

ぼくはもう一度、本殿の方を向いて会釈をし、その細い細い道の奥へと歩いて行った。


神社を出て10分くらい歩いた後、古びた木のベンチと、そのベンチの横にサビだらけの赤い自動販売機を見つけた。

自動販売機を覗いてみると、ちゃんと中身が変わっているようで、ぼくが見知った飲み物ばかり入っていた。

少しガッカリしたけど、古いものばかりで何も飲めないよりかはマシかなとも思った。

こんなところにまで飲み物を変えに来てくれている自動販売機の会社の方に感謝しないとな。

そう思いながら財布の中から160円を取り出して、赤いラベルのコーラを買う。

ベンチに座って一休みしながら、黒くて甘いコーラで喉を潤す。

ふぅ。と一息付いてから、周りを見渡してみる。

いつも見ていたわき道の奥に広がる、一度も見たことがなかった景色。

そう思うとなんだか神秘的に見えてくるが、実際は木が生い茂っているだけの、ただの田舎道でしかないのは言うまでもない。

いつも見ているような、そんな木ばっかりの道だけど、一度も見たことがない、そんな不思議な道。

「なんか、なぞなぞみたいだな。」

そう思い、答えを探そうかなと思ったけど、なんだか疲れそうだったからやめることにした。

まだ半分も飲んでいないコーラを鞄に入れる。

「次は何に出会うかな。」

そんなことを考えながら、ぼくはまた、この田舎道を歩き始める。


1分ほど歩いて着いたのは、数十分前に見た別れ道だった。

どっちに行くのかを決めるのに使った少し太めの棒が、足元に転がっている。

「ただいま。」

そう棒に挨拶をしてみても、もちろん何か返ってくるこない。

自分のおかしな行動に、少しだけ苦笑いする。

戻ってきたんだなという小さな感動を覚えながら、ぼくはまた歩みを進める。


また3分ほど歩いてから、最初に見かけたお地蔵さんの前に到着する。

お地蔵さんの前に置いてある小さなおにぎりを確認してから、さきほどの棒と同じように!お地蔵さんにも「ただいま。」と挨拶してみる。

もちろんだけど、何も返ってこない。

返ってきたらそれはそれで怖いなと思いながら、スマホで時間を確認する。

時計は既に9時10分を示しており、少なくとも1限目に遅刻することは確定していた。

けれども、なぜだか少しの後悔も湧いてこなかった。

むしろ、どこかスッキリしたような、そんな感覚になっていた。

「…ははっ。」

思わず笑い声が出てしまう。

理由は分からないけれど、ぼくはどこか幸せな気持ちで溢れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつも見てきたわき道 Aoi人 @myonkyouzyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ