序18 白亜の騎士
二度目、いや、当時見た景色も合わせれば三回目だったからだろうか。
今度は多少冷静に辺りを見ることができた。
取り乱さないからといってこの悪夢は終わらない。
相変わらず人は騒いでるし、街は燃えている。
次に自分の体の具合を確かめる。
吐き気はするが、我慢できないほどではない。
当時、右手首と両足を骨折していたが、どちらも今は問題なく動く。
……さて、ここまでお膳立てされていて原因がわからないほど頭は悪くない。
どう考えてもあの英語のタイトルの本が原因だ。消えて無くなっていたし、この夢のどこかにあるかもしれない。
「絶対見つけて燃やしてやる」
――――――周りの炎に気をつけて、大きな道路を進んでいく。
生きてる人の姿はなく、炎が小さく弾ける音が聞こえて来るだけになった。
駅前が地獄なら、こちらは閻魔大王の判決が下った後、とでも表現すべきか。
しばらく進むと明らかに異質な物があった。どうやら扉らしい。道路の真ん中にポツリと建っている。
これだ。この先に進むんだ。
どういうわけなのか全くわからないが、そう確信があった。
駆け足で扉の前まで行く。
近づくと思ってた以上に大きかった。
私より数十センチ高く、自動車が通れるほどの幅がある両開きの扉だった。しかも扉には複雑な図形が掘られており魔術の道具であることが伺えた。そして何より、今まで見てきた魔術の道具で一番の威圧感を放っている。
ロッカーなんて非ではない。もっと力強く、恐ろしい。
ゴクリ
無意識に喉が鳴る。
足が震えだし、今すぐ離れたい衝動に襲われた。
「でも、進まなきゃ」
そうだ。進むんだ。進まなきゃ、この悪夢は終わらない。
「進まなきゃ進まなきゃ進まなきゃ進まなきゃ……」
自分に言い聞かせるように、何度も口に出しながら一歩を踏み出し、扉に手をかける。
ガコン
という重い音とは裏腹に扉は軽く。簡単に押し開く事ができた。
中は真っ白な空間だった。
特別な装飾はなく、扉の先には大きな階段があり上へと続いている。
今度はここを登るらしい。
――――――どれくらい階段を登ったのだろうか。ずいぶん長く登った気がする。
けれど、ようやく階段が途切れている。
「やっと終わりか……」
ほっとした。終わらなかったらどうしようかと思った。
その先には椅子があった。
しかし、その椅子だけが白い空間で唯一、扉と似た模様の装飾がされており、いくつもの宝石が埋められ、輝きを放っていた。
「ようやく来たか娘」
突如誰かの声が聞こえた。
「誰!?」
後ろを振り返るが誰もいない。
……聞き間違え?
「目の前にいるだろう娘。どこを見ている」
再度椅子の方へと視線を向けると、誰かがが椅子に座っていた。
飾り気のない鉄の鎧に、同色のフルヘルム。白銀の鞘に入った剣が椅子に立てかけられ、凄まじい存在感を放っていた。
……どうみてもどこかの騎士だった。でもどこの国の?
「……どちら様でしょうか?」
「……そうだな、白亜の騎士とでも呼ぶがいい」
白亜の騎士。
確かにこの扉と椅子以外全て真っ白な空間ではふさわしい呼び名だろう。
「それでは白亜の騎士様。どうして私がここにいるか、理由を知っておられるでしょうか」
「簡単な話しだ。私が
……迷惑極まりない。
「必要ありません。すぐにここから出してください」
「だめだ。無限とも思える時の中で、ようやく託しても良いと思える者に出会った。このチャンスを逃すのは惜しい」
表情はフルヘルムの兜でわからないが声と気迫は真剣そのものであり、頑固な物にも思えた。
お互いに無言を貫く。
しばらくして、白亜の騎士様がため息をついた。
「頑固な娘だ。だがそこがいい。余計に逃がしたく無くなった」
嘘でしょ。どこに気に入られる要素あった!?
「一つ遊戯をしよう。貴女が勝てばこの空間から出してやる。ついでに私の剣も託そう」
「負ければ?」
「私の妻として永遠にここで私と遊んで貰う」
なんて騎士様だ!勝っても負けても嫌すぎる。
しかも、背中のとんでもない威圧感を放っているのは剣だったのか!
「これより一つの夢を見せる。その夢に囚われる事なく戻ってこれたら貴女の勝ちだ」
「お待ちください!受けるなんて一言も……」
「おや、それなら貴女の負けだが良いのか?」
んな!?人の話聞かないタイプの人だ!
こうなってはもうだめだ。ゲームを受けるしかない。
「……わかりました。お受けします」
「ふ……それでこそ私が選んだ候補者。それではさっそく始めよう」
そう言いながら白亜の騎士が立ち上がり、鞘から剣を抜く。
鞘から抜かれた事でより一層威圧感を感じる。
なんて熱くて大きい剣なのだろう。
さながら太陽のような熱さと存在感だ。
「
騎士がそう呟いた瞬間、強い光が剣から放たれた。
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