序17 地獄3
ガラリと扉の開く音で目が覚めた。
最近よく見る保健室の白い天井が視界には広がっていた。
体を起こして扉の入ってきた人の方を見る。
雪平先生だ。机に向かいながら何か仕事をしているようだ。その後ろ姿は少し疲れてるようにも感じられる。
「おはようございます」
「あら、おはよう。薬は良く効いたみたいね。昨日とは顔色が別人よ」
「ありがとうございます。おかげで問題ありません」
「それじゃあ、今日はもう帰った方がいいわ」
そう言いながら六枚の紙を渡してくれる。
そこには欠席許可証控えと書いてあった。
「これを今日受ける予定だった科目の主任教師に渡せば、無断欠席じゃなくて病欠にできるわ。無断欠席は三回、病欠は六回したら長期休暇の時に補習だから気を付けてね」
「わかりました。看病して頂きありがとうございます」
制服に着替えて、荷物を受け取り、廊下に出る。
まだ早朝だからだろうか。廊下には人の気配はない。空気は冷たく、静かだ。
嫌でも昨日の出来事を思い出させる。
……速く帰らなきゃ。
早足で玄関へ向かい、靴を履き変えて校門へと出る。
外はまだ薄暗かった。
さて、バスの時間まで待つか。
しかしどうして、学園前にバス停がないのだろうか。丘の下にあって一○分ほど歩くから不便な事このうえない。
そもそもだ。この学園の前身は、お金持ちのお嬢様が通う女子校だったそうだが……なんで丘の上に建てたのだろうか。リムジンとか小回り効かなそうな見た目だから、広い駐車場が欲しかったのだろうか?
そんなことを考えている内にバス停が見えてきた。当然だが、付近に人の気配はない。
……今なら魔術の教科書を読んでもいいよね。
バスの待合室のベンチに座り、鞄の中から「魔力運動教本Ⅰ」を取り出す。
ああ、そう言えばもう一冊はロッカーから取り出すのを忘れてしまっていた。明日また取りに行かなきゃ。
一枚めくると分かりやすく目次が載っている。
一章 魔力とは/魔術士とは
二章 魔力の動く感覚
三章 魔力の動かしかた
四章 魔術士見習いへの注意換気
どうやらこの四つで構成されているようだ。
さらにめくるとすぐに一章が始まった
――――――――――なるほど。だいぶ魔力というものがわかった。
意外にも紙が厚いだけで、本自体の厚さの割には図や例が多く、読むのに二時間とかからなかった。
バスが来る前に読み終える事ができて良かった。
今一度、本に書いてあったことを思い出す。
……魔力とは通常、同じ次元でもこちらからは観測できない場所に存在する特殊なエネルギーである。人体や魔術陣を通さなければ、存在を確認できず、抽出したり行使することもできない。そして、魔術士というのはこの魔力を体に留め、行使する事が出来る人を呼ぶ。
そして、現代魔術士としての格は魔力を留める量。魔力を使える量。この二項目で決める事が出来る。そして、今からやる魔力運動とはこの両方に直結する重要な内容である。
これが出来るようになると、空中に漂っている魔力を取り込み、魔術を行使したり、体に留める事が出来るようになる。
……という事らしい。二章や三章は、どれも例や経験談ばかり。感覚的な事しか書いておらずあまり参考にならなかった。
四章にいたっては、見習いの心構えや、魔術を勝手に作るのは危険など、お説教が延々と並べられていた。
これを書いた人は読み手を全く信用していないらしい。
そうしてバスがやって来た。中に入って近くの椅子に座る。再度鞄から本を取り出して著者を確認する。
一番後ろのページに「東雲 博」と書いてあった。
どうやら東雲先生の血縁者らしい。
となると、これも東雲家に受け継がれている物という事だろうか。
意外と良いところのお坊ちゃんなのかもしれない。
家に着くと、すぐにシャワーを浴び、再度薬を飲んで眠りについた。
―――――――そして再びあの地獄を見る
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