序14 子供はどこへ?

 児童が誘拐

 バクバクと心臓の音が大きくなる。

 過去の経験が脳裏に浮かび上がるのを太股をつねり、その痛みで正気を保つ。

「ずいぶん穏やかじゃありませんね。子供とその外道はどこへ?」

 鍵もトーンが一つ落ちた声で東雲先生に訪ねる。

「残念ながら追跡は出来ませんでした。物理的にも魔術的にも徹底的に痕跡を消されてます。ひとまず、巡回の数を増やす対応で様子見です」

 それに対して東雲先生は申し訳なさそうな表情をしながら答えた。

「……わかりました。でしたら、僕も巡回のローテーションに入れてください。それくらいならいいでしょ」

 鍵の発言に対して東雲先生は一瞬眉をひそめるも、すぐに笑顔になって話しだす。

「一応掛け合って見ます。ですから単独では行かないでくださいね」

「はい!」

 それを聞いた鍵は元気よく返事を返した。その表情は使命感に燃えている。

 パンッと手を打ち合わせて東雲先生が話を締めくくる。

「それじゃあ連絡事項は以上です。解散!」


 三人で部室から出て玄関の方へ向かう。東雲先生は少し書類仕事があると言って部室に残った。

「秋奈はどこから来たの?」

 雫さんがなんとことのないように話しかけてくる。

 さて、なんと答えたものか。

「……神奈川からです」

「そうだったんだ!どうしてわざわざこんな田舎の学園に編入してきたの?」

 再度、心臓の速度が上がる。

 その質問は私の地雷だ。踏むんじゃない。

 いや、チャンスか。今なら簡単にこの高慢なギャルと縁を切れるかもしれない。

「そう、ですね。神奈川炎上で家族皆死んじゃいましたから」

 その場の空気が凍りつく。

 まぁ、狙ったのだが。

「あ……」

 気まずそうな声をあげ、錨さんはその目を反らす。

「おい雫!この学園の特別編入制度で来たんだから、わけありに決まってるだろ。ごめん天宮さん。デリカシーがないやつで」

 すかさず畑山さんが、ギャルの頭を叩いたあと、自身も頭を下げて謝った。

 これで、今後は畑山さんとはともかくギャルとは話さなくてすむだろう。

「えーと、趣味!普段天宮さんは何をしてるの?」

 畑山さんが話題を変えてくれる。

「そうですね……音楽や映画です。最近見た映画で面白かったのは――――――」

 少しギクシャクした空気で会話を続けながら教室へと私達は向かうのだった。



 ――――――あとは、語るほどの内容もない。

 自己紹介をして、席につき、たまたま隣だった畑山さんから教科書を借りながら授業を受け、放課後となった。


「それではこれでホームルームを終わります」

 東雲先生が締めくくり、日直が号令をかける。

 そのとたん、やれ部活だ。テスト勉強だ。すぐに遊びにいこう、といった会話で一気に教室が騒がしくなる。

 皆元気だな、私にそんな元気はないのでちょっとだけ羨ましくなる。

「天宮さんは、このあとどうする?一緒に東雲先生の所へ行く?」

 畑山さんが少し声のボリュームを落として話しかけて来た。

 そう言えば、見習いになったとはいえ、具体的な指示は受けていない。

「そうですね。私も東雲先生に聞きたいことがあったので行きます」

 そして二人で廊下へ出て、職員室へと向かった。


「あー、その件ね、ひとまず朝の東区二番隊に組み入れて貰った。しっかり見て学んでくるように。装備は二等級まで許可するから」

 私のは時間がかかりそうだったので、始めに畑山さんの要件を東雲先生へ伝える。

 東雲先生はパソコンから目を話さず、カタカタカタとキーボードを叩きながら何かの書類を作っている。

「わかりました」

 元気よく返事をしたあと、数歩下がって私に場所を開けてくれる。

「東雲先生、私は何をすればいいですか。まだ具体的な指示は貰ってません」

 私が訪ねると、東雲先生は一瞬難しい顔をしたあと、手を止めて、引き出しから何かの鍵を取り出した。

 それは二つの鍵がついたキーホルダーだった。一つは大きく新しい鍵、もう一つは小さくて古めかしい装飾が施された鍵だった。

「それに関してですが、誘拐の件で私は手が離せません。教科書を渡すのでそれで勉強してください。それは部室と私のロッカーの鍵です。ロッカーからは『魔力運動教本 Ⅰ』『初級魔術 Ⅰ 赤の章』の二冊を持って行ってください。あ、鍵は使い終わったらすぐに返すように」

 そう言って東雲先生は再び手を動かし始める。

 えー、丸投げなんですか。

 そして周りからも、同情するような視線を向けられている気がする。

「すまない。本当に忙しいんだ。帰り道は気を付けるんだよ」

 急かされる形で、私達は職員室を後にした。

 教師って大変だな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る