序13 振り替えり
お湯を張った風呂に肩まで浸かりながら、私は今日の出来事を思い返していた。
といっても、「そうして私は魔術士見習いとなった」
あの後のお話はこの一文で片付く。
帰ってきた雪平先生が「そう。これから頑張ってね」と、先程とは別人のように優しい声色で声をかけてくれ、すぐに荷物をまとめ、東雲先生の車で自宅まで送ってもらい、今日はお開きとなった。
ただ、車を降りる際に一つだけ言われたことがあり、それが今の悩みの種であった
――――――魔術はなんでもできるが、魔術を使うには明確な目的とイメージがないと難しい――――――
東雲先生はそう言っていたが、生憎その手のファンタジー小説など読んだことはない。
明確にイメージできるのは襲われた時のあの炎だろうか。
炎が真横に落ちた時の事を思い出す。熱くて、激しくて、そして恐ろしい。
……父や母そして妹は、私が経験した恐怖と同じかそれ以上の中、焼かれていったのだろうか。
「何を思ったんだろうな」
この思いは、誰にもわからないし、誰にも届かない。
風呂から上がり、用意していたパジャマに着替え、届いていた布団とかを広げ、寝る準備を整えていく。
布団の中に入って、スマホを開きファンタジー小説について調べる。どうやら最近は異世界に転生して無双するのが流行りらしい。そればかりが検索にヒットする。
ランキング一位にある小説を数話ほど読んでみるが、やはり文字はイメージしにくい。よくわからない。
映像のほうがイメージしやすいかもしれない。アニメならどうだろうか。
試しに興味を引かれた作品を一話購入してみる。あらすじを読むと、どうやら、ぐうたらなニート青年が突然、魔術の先生になって、様々なトラブルを解決していくお話しのようだ。
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いけない。もう2時だ。面白くて全話見てしまった。
……なるほど。これが世間から見た魔術というものか。確かに、指先から雷を飛ばしたり、風を起こしたりしている。科学とは全く別の技術。
……ひとまず、あの紫電を飛ばす魔術、便利そうだな。スタンガンを一々持ち歩かなくて済む。
――――――翌日。昨日帰る前に寄って貰ったコンビニで買ったおにぎりを食べながら、バスに乗って学園前まで向かう。
学園前に着いたあとは、昨日最初に入った建物、歴史部の部室に入る。
中には東雲先生と他に二人いた。私と同じ制服なので、同じ学園の生徒らしい。
「おはよう。昨日はよく眠れた?始めに紹介しよう。君と同じ魔術士でここの生徒だ」
小柄な男子が立ち上がりながら手を差し出す。
「
「……
自己紹介をして、その手を握り返す。その手は固くゴツゴツしていた。魔術意外になにか運動もやっているのかもしれない。
ガタッ!
見計らっていたのだろう。隣にいた女子が音を立てながら勢いよく立ち上がる。
「私の番ね!私は
……もう一人は独特な人だった。金髪で色々小物で着飾っている女子。見た目は完全にギャルだ。私とは正反対にいる存在らしい。
「……よろしくお願いします。雫さん」
お辞儀をしてすまそう。
ペコリと頭を少し下げて無難に挨拶をする。
「敬意が足りないわね。やり直し」
うざっ。
しかしここは我慢だ。我慢するんだ私。
「……よろしくお願いします。雫さん」
先程より深く頭を下げる。
満足したのだろう「よろしくね」とだけ言って椅子に座り直した。
それを見た東雲先生がパンッと、手を打ち合わせて音を鳴らし注目を自身に向けた。
その目は真剣そのもので、同時に苦しそうでもあった。
「さて、自己紹介させたかったと言うのもあるが、一つ大事な連絡事項があって集まって貰った。昨晩、子供が一人下校中に誘拐されたらしい。教会はこれが魔術士の仕業ではないかと疑っている。三人も十分気をつけるように」
え?誘拐?
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