第2話 ノーフェイス
「ニューフェイスの製作者……? あんたが?」
「そうだ! どうだ、すごいだろう? ふふん、私をほめたたえてもいいんだぞ?」
こんな子供がニューフェイスを作っただと?
にわかに信じられないが、見た目に反した堂々とした態度が信憑性を増すという不思議な現象。見た目と中身が一致してない。
っていうかさ……。
「……ろよ」
「うん? 何か言った?」
「だから! 製作者ならこの状況をどうにかしろって言ってんだよ。何こんなところで暇してんだよ! 動けよ!」
声を大にして言えば、シルヴァは目を点にして動きを止めた。
「そうだろ? この混乱はニューフェイスが原因で起こっているんだ。なら、それを作ったお前が、自分のケツをぬぐってこいよ!」
「レディーにその言葉はふさわしくないなぁ?」
「何がレディーだ。何が。自分で引き起こしたことに対して、何もしねぇやつがいっちょ前にレディーなんて言えるかよ。たかが、ガキだろうが」
「貴様……」
あ、やべ。言い過ぎたか?
慌てて口を押さえたけど、シルヴァはうつむいて拳を震わせている。
ガキを泣かせたなんて話が広まったら、俺、叩かれるかも……。そうしたら仕事が……ああ、でも、この状況で仕事もなにもないか。なら泣かせてもなんでもいいや。へへ。
炎上させる人もみんな顔がないからな。SNSをやってる場合じゃないだろうし。というか、あいつら顔がないくせに、どうやって追いかけ回してるんだよ、俺の顔がいいのを空気で感じ取れるのか? ついにオーラが出てきたかな。だったら、見つからないように早く遠くに逃げよう。
「じゃ、じゃ俺、あいつらから逃げるんで」
「逃がさん」
「え」
今度こそ、と離れようとしたがまたしても叶わず。しっかりとシルヴァに腕を掴まれ、逃げる隙がない。
怒るかな? 泣きわめくか?
泣きたいのは俺だけど。
人気がない場所だといっても、いつのっぺらぼうがくるかわからない。騒ぎ立てるのは避けたい。
やだなぁ、やだなぁ。
いいことが起こるはずがないよ、こんなところで。
「え、えと、まだなにか……?」
「……貴様、今までにいなかったタイプの男だ。顔だけがいい訳じゃなかったな。ニューフェイスを使わなかっただけある」
「ええ……」
俯きながらそう言ったシルヴァは徐々に顔を上げて俺を見る。
まるで空のような目に飲み込まれそうだ。
「貴様、製作者である私が動いてないとでも思ったか?」
「オモッテ、マシタ……?」
「馬鹿か。大馬鹿者だな。天と地がひっくり返っても気づかないぐらいの馬鹿だ。この私が動かないわけないだろう?」
まっすぐ見つめられると、動けず、片言になってしまった。
俺の声を聞いたシルヴァは、にやりと笑い、再び口を開く。
「そもそも私はこの混乱が続けばどうなるかを知っている。そして、それを避けたいと思っている」
「どうなる、の?」
「顔を無くした奴ら――ノーフェイスは、食事を摂れず体は機能を停止する……が、顔だけは求めて体は動き、顔立ちのいいお前を追いかけ続け、顔を引きちぎってでも奪いくる」
「こっわ。ゾンビじゃん! ひぃっ! 俺の顔罪深き!」
「それを避ける方法は顔を与えること。それで、全ては解決する。つまり――」
「つまり?」
「ニューフェイスを再起動できれば、解決する」
ニューフェイスが引き起こしたこの混乱は、ニューフェイスにより沈静化するというのか。
……そっか。そうですか。
「そもそも今回はニューフェイスのプログラムがダウンしたのが事の発端。登録データが末梢されたと報道されているが、実際はノーフェイスになったクライアントが暴走したのが理由だ。それでシステムがダウンしてしまった。全てのデータはバックアップしてあるし、再起動をかけて、そのデータを読み込ませれば回復するはず」
「へー」
俺にカタカナを沢山並べないでくれ。訳がわからなくて思わずあくびが出そうになったわ。
如何にも適当な頷きをしたけど、シルヴァは気にしてないらしい。
「ノーフェイスの目的は私達の顔。プログラムが落ちている今、そんなことをしても奴らに顔は戻らないのにな。はっ……ノーフェイスの利用で知能が下がるのか? これは要検証だな」
どこからともなく取りだしたメモ帳へ書き始める。
逃げるなら今しかない。
「そ。じゃがんば」
「待てい。逃がさないと言っただろう?」
嫌な予感しかしない。うん、嫌です。
「か弱い私ひとりに大役をやらせるつもりか?」
「か弱い人はこんな強い力で俺の腕を掴まねぇんで」
メリメリ音を立てるんじゃないかと思うくらい強く掴まれた腕が悲鳴をあげている。
ちょっと俺、涙目になってきた。
「私と一緒にニューフェイスのシステムが置かれている場所に来い。護衛としてな。もちろん、拒否権はない」
「なんで俺が……」
「わからないか? 拒否したら話が進まないからだ」
こんなことがあって、俺はシルヴァと共に、ニューフェイス再起動という目的のためのっぺらぼう改めノーフェイスから逃げつつ動くことになったのである。
もう、最悪だ。
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