第9話 入浴へ行きたいかああああ!
「辛気臭い昔話はもう充分だ。ここからは明るい未来のためにそのイチだ。妖怪といっても、もちろんモノの例えだ。悪辣な謀略だけがアイツの武器で、それを継承して生まれた怪物が美濃のマムシ、斎藤道三だ。だが、俺たちは一度それを経験している。悪だくみなら、今の俺たちはアイツらより上だ。きっちりカタに嵌めさせてもらうぞ」
サブロウは宣言する。
「今晩は
「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」
「大桑にも味方が多数いる。加えて裏の方も、最強の忍びにヒミツの助っ人たちも呼んである。これで攻めも守りも万全だ。心配無用だ。俺たちは必ず勝つ!」
「「「「「「「「「応!」」」」」」」」
「二手に分かれて戦うぞ、攻めて妖怪にトドメを刺す攻撃班と、俺たちを狙う魔物の手下を倒す守備班だ。班分けはこうなる・・・・・・」
サブロウはテキパキと指示を出したり、疑問に答えながら会議を進めていった。
作戦会議のあと、傅役の林四郎二郎
サブロウたちも備中守たちと、しばしの歓談のあと、その日の明るいうちに大桑へ戻るべく、颯爽と騎乗の人となった。一行にヨシノと彦次郎、彦三郎も加え全員騎馬で居館のある大桑に向かう。
ただしヨシノはサブロウと同じ馬に乗せられ、サブロウにうしろから抱えられる体勢だ。
「くんかくんか、はあああ、本物のヨシノの匂いがするう〜」
「サブロウさまは、汗臭い臭いを嗅いでナニが楽しいのですか?」
「ヨシノさん、変態のすることに意味を求めてはダメよ。理由があっても、まともな人間には理解できないから」
「ヨシノさん、気にしとったらアカン。そのうちに慣れるって」
「なんだかとっても慣れたくないんですけど」
「ところで、彦次郎さん、彦三郎さん黙りこくってどうしたんですか?」
「大丈夫かいな?まだ、どっか痛いんちゃうか?」
「いや、そうではない。お主たち、仮にも主君であろうに、いつもそんな感じなのか?」
「そうだ。さっきからちっとも主君を敬っておらんではないか!」
彦次郎と彦三郎がサブロウたちのやりとりに納得がいかないようすだ。
「あー、はいはいはい。そう見えるかもわからんけど、ボクらはしっかりサブロウ先生のことを敬ってます」
「まあ、付き合い長いしね。あたしたち人生三回目の付き合いよ!ズッ友
「同じ太さなら蜘蛛の糸に負けるぞ」
パカーン!
「いったあああい!」
チカのハリセンがサブロウのうしろ頭を直撃する。
「「大丈夫でございますか!」」
「平気、平気。アレ痛いように見えて音だけで、ホンマはちょっとしか痛うないから」
「「痛いんかい!はあ。これで敬っているというのか」」
「郷に入れば郷に従えというやろ、大事なことは慣れることや、慣れ。いまにわかる」
「サブロウ師匠ってね、天才なのよ。でも、空気読むこととか常識とか、遠慮とかが欠けているから、誰かがちゃんと止めてあげないと、どこまでも暴走してしまう可哀想なヒトなのよ。このハリセンも敬意のあらわれよ。愛の鞭よ」
「あっ、なんとなくわかってきました」
「「サブロウさまが不憫で仕方ない!」」
「そうだ、もっと言ってやれ!」
「ほらセンセ、そろそろシャキッとせえへんと。花婿の帰還でしょ。もう着きますよ」
「お、おう!そうだな!」
「ヨシノさん、彦次郎さん、彦三郎さん。ほら、向こうに
それまで黙っていた段蔵が皆に声をかけた。段蔵が指差す向こうに、普段サブロウたちが暮らしている大桑土岐屋敷があった。
フワ〜〜〜ン!!フワ〜〜〜ン!!
フワ〜〜〜ン!!フワ〜〜〜ン!!
フワ〜〜〜ン!!フワ〜〜〜ン!!
段蔵の予告通りに大きな熊ん蜂が飛んでるような音が鳴り渡った。
「ヤッホーッホーーー!!」
サブロウが笑いながら大きな声で手を振って応える。
ファン!ファン!ファン!ファン!
今度は短めの音が鳴った。
「ヤッホーーーー!!」
サブロウが再び大きな声で手を振って応える。
「「あれはなんの音ですか?」」
「ブブセラという楽器よ。山の方にある見張り台からあたしたちの馬の列が近づいてきたのが見えたので里の人に知らせたのよ」
チカが説明する。戦国時代にブブセラの音を聞いたことのある者はここ以外にはいるはずもない。
「ヨシノ、しっかり鞍に
サブロウがヨシノの耳元でささやく。
「ええっ?」
パーパラッパ、パッパッパッパ
パーパラッパ、パッパパ
パーパラッパ、パッパッパッパ
パーパラッパ、パッパパー
続いて突撃ラッパの音が響き渡る。
「この音はブブセラじゃなくて、ラッパという楽器の音よー」
もちろん、戦国時代にラッパの音を聞いたことのある者はここ以外にはいるはずがない。
「よろしい、では競走だ。突撃だあっ!」
サブロウが馬に鞭を入れて全力疾走させた!
「きゃあああああああああああー!」
乱暴な急発進にヨシノが絶叫する!
「ああ、ずるい!」
「センセ、また子供みたいな真似を!」
「あ〜ばよ〜、捕まえられるものなら捕まえてみな〜」
「「大丈夫かあ!ヨシノー!」」
皆も馬に鞭を入れて全力疾走させる。
「ひいいいいいっ!たーすーけーてーー!」
「待てえ!師匠!」
「センセ、なに、急いでるんすかー?」
「・・・・・・」
「そーれ、急げ、急げ、ひゃーはっはっは」
突然始まった草競馬。
「おっ先ー!」
「ああっ、くそっ!」
フライングでスタートしたサブロウだが途中でチカに抜かされ、大差をつけられて二着で屋敷に到着する。続いてすぐ後ろにカズマ、彦三郎、彦次郎の順。ドベ、もとい
「よおし、皆、無事に着いたな。特に変わったことはなかったか?」
先ほどまでとは打って変わって真面目な顔でサブロウが皆を見回し、声をかけた。
「見た限りでは途中、変な細工もなかったわよ」
「やっぱり、四人だけいやした。特に殺気もござんせんから、ただの見張りでしょう。丁度いい塩梅にお姿を見せられたかと」
チカと段蔵がそれぞれ応えた。
「うむ。上出来であるな」
「サブロウさま、今のはいったいなんだったのですか?」
息があがったヨシノが訊ねる。
「さっき、暗号で色々なやりとりをしてたんだよ。四人怪しいのが見ている。罠はないから、念のため急いで帰れって言われたんで、急いだんだ」
「「なるほど先ほどの楽器とのやりとりですか」」
彦次郎、彦三郎も気づいた。
「ご名答!
サブロウはようやくそこで表情を緩めた。
「「普段からそこまで警戒しているのでございますか?」」
「戦は始まっているからな。なるべく、うつけに見せて油断を誘うやり方は同じサブロウを名乗る方から学んだのだよ」
「「じゃあ、普段の奇矯な振る舞いは、たわけのフリ、擬態なのですか⁉︎」」
「もちろん、そうだ」
「なにゆうてんねん。天然でしょ」
「師匠、ウソはいけないんだ〜」
間髪入れず、カズマとチカが否定した。彦次郎と彦三郎はジト目でサブロウを見ている。
「ちっ。まあよい。俺は心配症だ。使える手は全部使う。大桑の屋敷は美濃のどこよりも安全だ。俺たちがそう作り上げた。さらに、今日はヨシノが初めて大桑に入る日だから特別警戒態勢だ」
サブロウは胸を張ってヨシノを見つめた。
「俺たちの家族は絶対に守ってみせる。二度と奪わせはしない。なあ、カズマ!」
「押忍!あったりまえでしょ!」
サブロウとカズマはお互いに白い歯を見せあってニカッと笑った。
「さあて、みんな今日はいい汗をかいたな。汗をながして湯浴みができるよう大浴場の準備もできているぞ」
「「「湯浴みもできるのですか!」」」
「そうだ、
「「「石鹸?」」」
「後で俺が風呂での石鹸の使い方をヨシノに教えてやろう」
「師匠、それはダメです」
「なんでだよ、いいじゃないか。夫婦なんだし」
「規制に引っかかってセンシティブなコンテンツ扱いされるからダメです。Rナンチャラになります」
「R−28号の究極超人なら全年齢対象じゃないのか」
「ちゃいますって。わかって言うてますね。エロ規制のことっす」
「ともかく、お風呂はあたしがヨシノさんと入ります。いいですね!」
「くっ、是非に及ばず、か。だが今夜は初夜だ。同じ布団で
「夫婦でも今のヨシノさんは子供なんだから変なコトしたら絶対ダメですからね」
「変なコトなんかするか!いいコトしかせんわ!」
「やっぱセンセを野放しにしたらアカンわ。ここまでよくもったとは思うけど、自制心の残機はゼロちゃうか」
「失礼な!同じ太さなら鋼鉄の五倍の強さを誇る、蜘蛛の糸ほどの自制心が俺には残っている!」
「一見すごく丈夫そうだけど、簡単に千切れるわね」
「蜘蛛の糸に実体化したセンセの煩悩が山ほど群がっている絵が目に浮かんで、不安でしゃーないんやけど」
「信じる者は救われるぞ!」
「わたし、なんだかとっても身の危険を感じます」
「ヨシノまで、そんなあ!信じてくれよぉ!俺の嫁だろうが!Rナンチャラに引っかかることはしないからさ。頼むよぉ!」
サブロウが情けない声でしつこくねだる。ヨシノと比べてどっちが子供かわかったもんじゃない。
「はいはいはい、わかったから、いい子にしていてくださいね、師匠。言っとくけど、男湯と女湯を間違ったら去勢するからね」
「お、おう」
「ようし、じゃあ、みんなあ!入浴に行きたいかああああああああー!」
「「「「「おーーーう!」」」」」
「いい気合いだあ!それが終わったら、師匠とヨシノさんの超・無礼講の祝言よ。林の爺さまがもう始めているわ。職人衆や、奉公人たちや知り合いが集まって車座でご馳走を飲んだり食べたりしているはず。ご馳走だぞ!」
「「「「「おおおおお」」」」」
「みんなあ、美味しいキノコ雑炊とジビエ料理が食べたいかああああああああー!」
「「「「「おーーーう!」」」」」
「料理はたっぷりあるけど、どっちも早いもの勝ちよ。では、男女に分かれて各自入浴後、大広間に現地集合!いったん解散!」
サブロウとヨシノが共に過ごす初めての夜は、まだ始まったばかりだ。
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