見送る親子と見送られるお隣さん
「――今日はありがとうございました! 帰り道に気をつけて」
玄関にて。俺は改めて今日の感謝と、それから小さじ2杯分程度の冗談を安住さんに伝えた。
「ふふッ、ここを出て数秒で帰宅できますが、せっかくですから用心しておきますね!」
安住さんはつま先をトントンした後、身を
俺も笑い返して視線をやや下に落とす。
てっきり『もう! 私の部屋隣ですから! 茶化さないでください松田さんッ!』ってな具合にちょっとお馬鹿な感じのリアクションを取るかとばかり……いやぁ、あざとしあざとし。
「……なぁ、安住」
と、ここでゲームを中断し安住さんを見送りにきたこよりが口を開いた。
「ん? なあに? こよりちゃん」
「あんま、無理すんなよ? もうそんな若くないだろ」
またしても安住さんに毒を吐いたこより。
「――ちょいちょいちょいこよりッ! お前また安住さんに失礼なことを――」
親しき中にも礼儀あり、さすがに目に余ると俺はこよりに向き直って注意しようとしたが、
「私は、大丈夫、ですから」
安住さんに片手で制された。
いや、大丈夫と言ってる割には顔引きつっちゃってますけども? 片眉ピクピクしてますけども?
「あ、あのねこよりちゃん? 世間一般から見れば25歳ってまだまだ若い方なんだよ? そりゃ、こよりちゃんからしたら倍の差はあるけど……世間一般的には――ねッ!」
「そうやってやたら必死になってるところがまたなんともな……老いを感じるよな」
「ひひひひ必死じゃないよッ⁉ 余裕しかないからね? 若いけど大人だから余裕しかないからね? 私ッ!」
「ほえ~……んじゃそこは百歩譲るとしまして、そいでもやっぱしんどかったいなぁ~」
「な、なにがッ?」
怯えるように後ずさる安住さん。前半、口にしてた大人の余裕(笑)は子供であるこよりのペースにすっかりのみこまれていた。
その様子をこよりはじーっと見つめ、やがて続きを話した。
「さきのあざと可愛いポーズ、普段やり慣れてないのがバレバレというか……ぶっちゃけさぶくて目も当てられないからやめとくことを強くお勧めしとく」
「――――なッ⁉」
う、うわぁ……えげつねぇ……。
こよりの無慈悲な
そんな彼女は救いを求めるような視線を俺に寄越してきた。
「そ、そんなことないですよね? 私、自然にできてましたよね? ね? 松田さんッ」
「え? あ、はい。そう、ですね!」
「ですよね!」
俺からの賛同を得られたことで安住さんは少しでも持ち返すかと思われたが、
「――ふっ」
こよりは鼻で笑う。
「松田如きに認められてそんなに嬉しいん? プライドないんだね、安住は」
松田如きってひどくね⁉ てか、毒が半端ねえよッ!
「そ、それは…………」
ちょっと安住さん? そこで言い
俺の心を傷つけている自覚はないだろう二人は、尚も言い争い?を続けた。
そして最終的に、
「――こよりちゃんのいじわるううううううッ!」
半泣きの安住さんが捨て台詞を残してピュピュピューンと去っていった。
「「………………」」
扉が完全に閉まったのを見て、俺はこよりに訊ねた。
「なにお前、普段から安住さんとあんな感じで接してんの?」
「……まぁ」
「あのなぁこより、仲が良いのは
「別に、事実を言ってるだけだし」
口を尖らせるこよりに、俺は思わずため息をついた。
「事実かどうかはわからないでしょうが。子供のお前に合わせておどけてるだけかもしれんし」
「……本気で言ってる?」
こよりは試すような視線をぶつけてくる。
「もちろん。俺から言わせれば安住さんは完璧の女性だぞ? 優しいし料理上手だし優しいし……あんなん絶対モテんだろってのが正直な感想だ」
「…………ま、そのうち嫌でもわかるか」
「ん? なにがわかるんだ?」
「別に。んじゃウチは友達待たせてるから。あ、お風呂作っといて」
「あ……おう」
「よろしく~」
手をひらひらとさせリビングに戻っていったこより。
つい数分前までの賑やかさが嘘のような静けさの中、「あっ」と俺は一人思い出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます