未婚の俺には娘がいます~娘とは久しく喋っていなかったのですがここ最近はお隣さんのおかげもあって徐々に俺と話してくれるようになりました。それにしてもお隣さん、家に来すぎでは?
煽る娘と憤るお隣さんと――松田アアアアッ!
煽る娘と憤るお隣さんと――松田アアアアッ!
「それじゃ~みんな手を合わせて――いただきます!」
「いただき~」
安住さんが号令をかけてすぐ、こよりはまるでスターターピストルが鳴って走りだすかのように箸を取った。
「こらこら、誰と競うわけじゃないんだから、焦らず落ち着いて食べないと。ね?」
「ごばがいごおぎいずうな! (細かいこと気にするな!)」
「口に物を含んだ状態で喋らないの!」
「ゔうざいなぁ(うるさいなぁ)」
安住さんに注意されてしかめっ面になるこより。
どうもこよりは安住さんのことを
というわけで、俺は腕を組んで声のトーンを普段より低くし言った。
「安住さんの言うことをちゃんとききなさい」
「………………ちっ」
今のは完全に舌打ちだったが、それでもこよりは素直に従ってくれた。
ふっふっふ――ま、俺にかかればこんなものよ。甘えてばかりはダメ、
それよりも気になったことがあり、俺は安住さんの方に顔を動かし訊ねた。
「さっきの掛け声はいわゆる職業病ってやつですか?」
「あっと、そう、ですかね……やっぱり気になっちゃいます?」
「気になっちゃいましたね。普段聞き慣れないので」
「あはは、ですよね……実家に帰省した時とか地元の友達とご飯行った時とかにもたまに言っちゃったりしてますよ」
「それは中々、でもめちゃウケたんじゃないですか?」
「ウケはしましたけど……ちょっと恥ずかしかったです」
過去の出来事を想起したのか、安住さんは顔をぽっと赤くし俯き加減でゴニョゴニョと言った。
余計なこと聞いちゃったかな――安住さんの反応を見て俺が申し訳なく思っていると、不意にこよりが動いた。
「恥をかくのは悪いことじゃないんだぞ~安住~。恥を恐れて後ろに下がってるよりもよっぽどいいからな~」
安住さんの頭の上に手を乗せ、いーこいーこするこより。
「ありがとう、こよりちゃん! しっかりしてるんだね! 大人顔負けの考え方を持っててすごいよ!」
安住さんに褒められたこよりはフフンと笑って手を引っ込めた。
「まあな~。つかそもそもの話、安住は恥じの多い人生を送ってきてるんだから、そんなちっぽけなことでもじもじする必要ないぞ~」
「なッ⁉ 恥じの多い人生って――どうしてこよりちゃんがさも直接見てきたかのように言い切れるの!」
「直接見なくてもわかっちゃうくらい、安住はだらしないからな~」
「だ、だらしなくなんかないよう! もう! 変なこと言わないでこよりちゃん!」
「いやいやいや、むっちゃだらしないぞ?」
「むッ……た、例えば、どこら辺が?」
「その貧相な胸に聞いてみればいいと思うんよ」
こ――こよりおまッ、なに
安住さんの胸に視線を向けたこよりは悪びれる様子なく、あっけらかんとした口調で言い放った。
「むううううぅ……」
「あ、安住さん? そんな気にしなくても……それはそれで需要はあると思いますし」
頬を膨らませ顔を真っ赤にしている安住さんに、俺の声は届かない。
「――大人をからかうんじゃありませ――――んッ!」
「暴れるなよ~安住~。ウチに注意してきたくせに自分だって行儀悪いじゃん」
安住さんは両手をブンブン回してポコスカポコスカこよりを殴る。もちろん、殴ると言っても本気でじゃない。
その証拠にこよりは
「……ハハッ、フハハハハハハハッ!」
こよりの言った通りすっかり立場が逆転していて安住さんが指摘されている。その光景が可笑しくて俺は笑いが堪えられなかった。
「「……………………」」
じゃれ合ってた二人がこっちを向いてぽかんとする。
「――すいませんすいません、二人のやり取りが面白おかしくて、つい」
俺がわけを説明すると、二人は顔を見合わせる。
「フフフッ、確かに! なにしてるんだろう私たち!」
「たちって、安住が勝手に馬鹿やってたんだろ~? ウチを巻き込むな~」
こよりの言に、俺と安住さんは
忘れてた……誰かと食卓を囲むのがこんなにも楽しく幸せであることを。
そしてそんな当たり前を、俺はこよりに……。
気付けば純粋な笑みは
「あ! そういえば――」
すると突然、安住さんが俺を見てなにかを思い出したような調子で言った。
「さっきは空気的にスルーしちゃいましたけど――〝それはそれで需要がある〟って……どういう意味ですか?」
……………………へ?
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