おねむな娘と強引なお隣さん
「ふぅ―……」
こよりと安住さんが部屋から出ていって3時間ほど経った。
俺は夕飯を近くの牛丼屋で済まし、風呂でさっぱりした後、テレビを眺めながらタバコをふかしていた。
ジ〇リ作品って大人になって観てもかわらず面白いなぁ……。
ピンポーン。
「……夜遅くになんだよ」
これからいいとこってタイミングで来客を知らせるチャイムが鳴った。壁時計に目を移すと短針がちょうど10を指していた。
ピンポーン。
「あーもうわかったわかった行きますよ」
間もなくして二度目の呼びだし音が鳴り、俺はぶつくさ文句を垂れながらタバコを雑に消し、重い腰を上げた。
……安住、さん?
ドアスコープで外にいる来訪者を窺うと、そこにはこよりをおぶっている安住さんがいた。
「あ、松田さん。夜分遅くにごめんなさい。こよりちゃんを部屋までお願いできますか?」
玄関を開けると安住さんが控えめな声でそう言ってきた。その後ろではこよりがすぅすぅと寝息をたてている。
「すいません、ご迷惑おかけしてしまったようで」
俺は安住さんの背に乗るこよりを抱きかかえた。
「ほらこより、起きろ。風呂もまだなんだろ?」
「あの、お風呂はウチで済ませちゃってあります。こよりちゃんが私と入りたいって言いだしたので」
「……ほんとだ」
こよりの髪に鼻を近づけるとシャンプーの香りがした。それによく見たら安住さんの格好もさっきまでとは違いかなりラフなものにかわっている。
「なにからなにまでほんと申し訳ない」
「いえいえ、そんなかしこまらなくてもいいですから」
「ありがとうございます。それじゃあの、また」
「――待ってください」
俺は玄関を閉めようとしたが、一歩前にでてきた安住さんに遮られてしまう。
「えっと、まだなにか?」
「さっきの話の続きがしたいので、私も上がっていいですか?」
「さっきの話ってのは、毎日料理をってやつですよね?」
そうだろうとわかっていつつ俺は訊いた。当然のように彼女は頷く。
「それについてはほんと、大丈夫ですから。俺が言っても説得力ないでしょうけど」
「説得力皆無です。だからつべこべ言わずにさっさと認めてくださいよ。私が松田家の台所を預かることを」
胸に手を当てそう強く主張してきた安住さん。その瞳は眩しくて逸らしたくなるくらい真っ直ぐ俺を捉えていた。
「……どうしてそこまで」
俺の口から零れた疑問を安住さんは確かに拾った。けれど答えない。彼女は少し寂しそうな目をしてこよりを見やった。
「こよりちゃんのためです。他に理由が必要ですか?」
「…………」
数秒の沈黙を挟んだ後、俺は諦めを溜息で表した。
「わかりました。上がってください」
「ありがとうございます、松田さん」
安住さんはぺこりと頭を下げ「再びお邪魔します」と口にし中に入っていった。
基本的に礼儀正しんだけど、たまに強引だよなぁ……安住さん。
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