第45話:王都防衛戦
機甲兵とアンデッド軍団の出現により、王都市街は未曾有の混乱に陥っていた。
圧倒的な暴威によって街を破壊する機甲兵から逃げ惑う住人たち。
敵の数と錯綜する情報に翻弄され、未だ動けずにいる国軍正規部隊。
そんな混迷を極めた状況下で、唯一気を吐いている者たちがいた。
国軍に所属しながら、独自の裁量権を与えられて行動出来る特務部隊である。
セレス=コバルト率いる第四特務部隊は、訓練中に正体不明の構造物が上空に現れたのと同時に戦いの気配を察して王都外縁部へと部隊を移動させた。
慌てふためく王都防衛隊を他所に、王都を囲む城郭に陣取るとすぐさま正体不明の敵へと狙撃を仕掛けはじめた。
魔物災害からの復興支援を主な活動とする第二特務特務部隊も同じく、自らの隊舎を拠点とした住人たちの避難誘導を開始した。
スマイル商会の会長ロマ=フィーリスも彼らに協力し、謎の仮面の一団を引き連れて住人たちの救出にあたっていた。
その中でも最も奮闘していたのが、ミア=ホークアイ率いる第三特務部隊。
隊長のミアが使役する種々の精霊による偵察で敵戦力を素早く補足し、的確な用兵でその対処を行う。
副長であるファス=トールマンとタニス=ウェイピープルをはじめ、百戦練磨の猛者が市街の各所で未知の敵を相手に八面六臂の大立ち回りを見せている。
近頃の王都で英雄譚の人物として知られていた彼らの奮戦は市民たちにも活力を与え、大規模な奇襲を受けているにも拘らずに奇跡的な被害状況に抑え込めていた。
「これで二十体目ッ!」
カイルが左手に持った氷の刃で機甲兵の胴を薙ぐ。
胴に埋め込まれた心臓部を両断された巨体が地面に倒れ伏した。
周辺の脅威が排除されたことで、隠れていた住人たちが避難場所へと駆けていく。
「ロマさん! こっちは片付いたんで順次避難を進めてください!」
カイルが通信機を通してロマへと合図を送る。
『了解です! カイルくんも気をつけてください! これが終わったらミアちゃんと一緒に暮らすって聞きました!』
「あはは……どこまで広まってるんだか……。でも、大丈夫ですよ。頼れる相棒もいますし」
ロマの返答を受けながら、次の標的を探す彼の隣にローブを被った骸骨が佇んでいた。
「そうだよな、リッチくん。俺らってベストコンビだ」
カイルが共に戦った魔物へと拳を突き出す。
『……………………』
発声器官を保たないリッチは無言で杖を突き出して、その持ち手を拳と合わせる。
ローブ内のある空虚な髑髏に、照れくさそうな笑みが浮かんでいるのがカイルには見えていた。
まるで長年背中を預けてきた相棒のように通じ合う二人は、その後も破竹の勢いで街中の敵を倒していく。
そうして倒した敵の数が三十体に迫ろうとしてた頃、ミアの鷹が二人の下へと飛んできた。
『カイル、大丈夫? まだ戦える?』
「まだまだ全然、余裕だよ。むしろようやく本調子が出てきたって感じ。お前にも俺とリッチくんのコンビネーションを見せてやりたいくらいだよ」
『……? よく分かんないけど大丈夫なら次は……カイル、危ない! 上ッ!』
「え? うおっ!」
ミアの叫びと同時に、リッチがカイルを突き飛ばした。
突然のことに呆然とする彼の眼前で、リッチの身体が空から現れた巨体に押し潰された。
白骨の身体が粉々に砕け、破片の一部がカイルの頬を打った。
上空より飛来せしそれは、何事もなかったかのようにカイルを見据える。
これまで彼らが対峙してきたのとは全く異なるタイプの機甲兵。
女性のような丸みのある身体の線に異形の四脚。
右手には何らかの発射口が備えられ、左腕部には鋭利な刃を備えている。
「てめぇ……よくもリッチくんを……」
目の前で頼れる相棒が粉砕されても哀しみにくれることなく、カイルは眼前の敵を睨みつける。
対する異型の機甲兵も次の標的としてカイルを見下ろす。
【目標補足。命令者権限確認。敵性生物殲滅プロトコル起動。戦闘開始】
無機質な音声が発せられると共に、右手の発射口からカイルへと向けて光弾が発射された。
怒りに囚われることなく、カイルは冷静に横跳びする。
回避された光弾は背後の石壁に命中し、爆発と共にそれを蒸発させた。
「……まじか。なんつー威力だよ……」
その威力にカイルが息を呑みつつも気持ちを昂ぶらせた。
これまで戦ってきた量産型とは異なる姿形と更に高い戦闘力。
ようやく、本命の敵が現れたのだと。
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