第44話:それゆけ不死の軍勢!
王都の一角にて、上空に現れた謎の脅威の攻撃が遂に一般市民へと及ぼうとしていた。
「ひっ……た、助けて……お願いします……」
幼子を抱いた母親が住宅の壁を破壊して現れた不気味な甲冑騎士に慄く。
頭部に纏ったフルヘルムの隙間から覗く赤い光点が親子を見下ろす。
彼らに与えられた命令は、行動範囲内に存在する全ての人間の抹殺。
子を案ずる母の命乞いもそれにとっては、羽虫の鳴き声と同等の価値しかない。
拳が振り上げられ、照準が定められる。
骨を砕き、肉を潰す。
人の矮小な命はその一撃を以て、容易に蹂躙される。
不可避の現実を理解した母が、我が子を強く抱きしめる。
目を閉じた彼女が神に祈りを捧げたのと同時に、それは起こった。
食卓の机上から光が放たれる。
機甲兵が振り下ろそうとしていた拳を止めて、発光へと視線を向ける。
光源は食卓の中央にある一冊の本。
その表紙には『それゆけ第三特務部隊!』と記されていた。
機甲兵の体内に搭載された魔力感知機構が反応し、攻撃優先度が親子から変更される。
机上の本へと拳が振り下ろされたのと同時に、それは姿を現した。
スケルトンウォリアー――剣と盾を手にした白骨の戦士が機甲兵の一撃を受け止めた。
「ぎゃぁあああああああああッッ!!」
鋼の巨兵に続いて現れた不気味な怪物に、親子は悲鳴を上げて気絶した。
白骨の戦士はそれを意に介することもなく、盾を使って機甲兵を壁面の大穴から外へと突き飛ばした。
異形と異形の相対。
同じ異変は王都の全域で発生していた。
スケルトン、グール、レヴァナント、リッチ、レイス、デュラハン。
種々のアンデッドモンスターが『それゆけ第三特務部隊!』から出現し始めた。
一般的な召喚術の規模を遥かに超えるそれは、ラスボスであるネアン=エタルニアが有する極大断層の力に端を発する。
彼女はシルバに指示を受けて、極大断層『
所有者が危機に陥った際に、その力が発現されるようにと。
総発行部数は王都内で一万部。
すなわち、王都に召喚された不死者の数も一万体。
「な、なんだなんだ!? なんで王都に魔物が!?」
民家から続々と現れる魔物を見て、戦闘中のカイルが慄く。
また敵が増えたのかと一瞬身構えるが、すぐにそうではないと理解した。
『カイル、これって……!?』
「ああ、間違いない。こっちは隊長の仕込みだ」
甲冑騎士の姿をした者が市民を襲い、異形の怪物が市民を守る逆転現象に彼はそれがシルバの仕業だと気がつく。
「あの野郎……こういうのを用意してるなら最初から教えとけっての……」
悪態をつきながらもカイルは天永宮の方角を見上げながらほくそ笑んだ。
*****
「隊長! 何があったんですか!? すごい音がしましたけど!」
「わわっ! なんですか、これ!」
ミツキと二人でぶっ倒した連中をふん縛っていると、騒ぎを聞きつけたナタリアとリタがやってきた。
「ん? まあ、ちょっとあってな」
「全然ちょっとには見えないんですけど……って、それよりも! 外のあれは何なんですか!? また隊長の仕業ですか!?」
「いや、あれは敵だ。全部を説明するのは時間がかかるから今はそれだけを理解しろ」
「敵!? だったらなんとかしないとまずいんじゃないですか!?」
杖を持ってわたふたとしているリタと、無言で俺の指示を待っているナタリア。
拘束し終えた男たちを部屋の中に蹴り入れながら、次はどう動くかを考える。
漫画に仕込んだ無差別攻撃への防御策は機能しているはず。
各個の性能は機甲兵に劣るが、数で勝っている分だけしばらくは耐えられる。
しかし、無尽とも言える兵力を持つ浮遊大陸相手ではいずれジリ貧を迎える。
耐え続けるだけでは敵の先を行けない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずだな……」
勝利するには、リスクを負ってでも敵の正体と目的を掴まなければならない。
「よし、お前らは待機中の隊員を連れてカイルたちと合流しろ。上から降ってきてる連中から王都を守れ」
ナタリアとリタ、ミツキの三人に指示を出しながら槍を背中に戻す。
「了解しました。隊長はどうされるのですか?」
ナタリアではなく、王宮の方を見据えながら言う。
「俺は人が構築したチャートをぶっ壊そうとしてる奴を懲らしめに行ってくる」
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