第37話:キャラメイキング
「……は?」
突然の理解不能な質問に、処理落ちで一撃死した時のような声が出た。
「そ、その……どういう女性に魅力を感じるとか……そういう意味です……」
チラチラを俺を見ながら、照れくさそうに言うレイア。
詳しい意図を説明されても、この状況でそれを聞く意味を理解できない。
「例えば、髪型はどんなのが好きですか!?」
呆気に取られて黙っていると、話が次へと進められる。
しかも、そんな細かいパーツ単位での話かよ。
「こ、個々人に似合う髪型が一番じゃないか……?」
めんどくせぇ……と思いつつも、蔑ろに出来ない存在なので答えるしかない。
下手に機嫌を損ねれば最悪、世界が滅ぶ可能性があるという点では元ラスボス女よりも厄介だ。
それにこの子の好意に頼って攻略チャートを組んでいるという負い目もある。
「それじゃあ参考までに、私にはどんな髪型が似合うと思いますか!? あくまで参考です!」
と言いながらも手にはメモ帳を持って、俺の答えを一言一句たりとも聞き逃さないように前のめりで耳を傾けている。
「い、今のが一番似合ってるんじゃないか? 長くて……綺麗だし……」
「本当ですか!?」
その気迫に言葉ではなく、カクカクと二度頷いて答える。
上質な絹糸のようなロングストレートの白銀髪。
気質も含めたキャラ造形を考えればこれ以上に合っている髪型はないだろう。
「じゃあ次はどんな目の形が好きですか!?」
「目の形!?」
まさかこいつ、俺が好みだと言えばその形に変えるつもりか?
それでも流石に目は無理だろ。
ゲームのキャラメイキングじゃねーんだぞ。
と言いたいところだが、この気迫を見ているとそうとも言い切れない。
もしここで俺が『化物メイクのガングロギャルが好き』とでも言えば、数時間後にはそうなっていそうなほどの気概を感じる。
魔法で時空を捻じ曲げてでも実現してくる可能性はある。
だとすれば下手には答えられない。
回答次第で失敗した福笑いのようなとんでもないレイアが生まれてしまう。
そんなことになれば、次元の壁を越えてレイアガチ恋勢たちに殺されるかもしれない。
何より、俺も原作ファンの一人としてそんな事態は臨んでいない。
ならば、ここは大人しく今のレイアに沿う形で答えていくのが正着か?
いや、それはそれで今の自分が好みのど真ん中なのに靡いてもらえないという禍根を残す。
進むも地獄、逃げるも地獄だが……。
「目は……そうだな。レイアみたいにその女性の強い意志が浮かんでいるようなのが好みだな」
考えた結果、ここは自分のセンスを信じて地雷原を突き進むことにした。
そう、禍根を残さずに最高のキャラメイクを成し遂げればいいだけの話だ。
「え……えぇ……わ、私みたいな目ですかぁ……?」
身体をくねくねとさせながら照れている色ボケ正ヒロイン。
「ああ、強い意志の宿った瞳はどんな宝石よりも美しいな」
「そ、そんな……美しいって……えへへ……。それじゃあ、服はどんなタイプの物が好みですか?」
「服か……そうだな……」
そうしてキャラメイキングが売りのMMOが如く、細部の好みについて質問されること数十回。
「……って感じの女性が俺の好みだな」
耐えに耐え、語りに語った。
体感時間で数時間くらいはそうしていたような気がする。
「とても参考になりました! よーし……この通りの女性になれば……隊長さんと……」
自分で認めたメモ帳を食い入るように見つめている。
「参考になったなら何より……」
「そ、それじゃあ私、少し奥で休憩してきますね! べ、別に今の意見を参考にしてお化粧を変えたり着替えたりするわけじゃないですから!」
レイアはそう言うと、早歩きで奥の休憩室へと消えていった。
この結果を受けたイメチェンが何をもたらすのかは分からないが、とりあえずは乗り切ったと言っていいだろう。
年頃の少女を相手にするのは疲れるとソファに深くもたれ掛かっていると――
「隊長! 大変です!」
今度はナタリアが扉が壊れそうな程の勢いで入室してきた。
「どうした? 今度は軍でも介入してきたか?」
お前の格好の方が大変だよと言いかけたのを飲み込んで真面目に対応する。
「ネアン様が姿を消しました!」
どうして、この世界の女はこんなに手間がかかるんだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます