第28話:再会
「な、なぁああああああ!?!? なんでお前がここに!?」
さっきまでは緊張して声を震わせていたかと思えば、今度は鼓膜が張り裂けそうなほどの大声で叫ばれる。
「うぃ、ウィル……? 隊長がどうかしたのか……?」
「こ、こいつ……! こいつが……! 例の……!」
要領を得ない断続的な言葉を吐きながら、恐怖に全身を震わせている。
……さて、どうしたもんか。
「例の……? すごい汗だけど、大丈夫か……?」
カイルが心配そうに汗だくのウィリアムの顔を覗き込んでいる。
ゲームでは行く先々で出会い、その度に衝突するライバルキャラ。
しかし、今は愛称で呼ぶくらいには良好な関係を気づいているらしい。
まさに俺の生存ルートが生み出した奇跡の公式友情関係。
「だ、大丈夫なわけないだろ! こいつが例の悪党だ! 俺を脅して、シオンを奴隷市で売るって言いやがった!」
指を突きつけられて、身に覚えしかない悪事を暴露された。
カイルとミア、レイアの三人が俺とウィリアムを交互に見やる。
「ま、またまたぁ……そんなわけないだろ~……。確かにエグいことも平然とやる人だけど……流石にそこまでは……」
「う、うん……国軍特務部隊の総隊長がそんなこと……。み、見間違いじゃない……?」
二人は言葉ではそう言いながらも、かつての所業を思い出しているのか疑いの目を向けられる。
一度殺しかけたくらいで信頼度はここまで低下するものなのか。
「いや、間違いない! こいつだ! もう一人、やたらと胸のデカい女もいたけど脅迫してきたのはこいつの方だ!」
ウィリアムの確信を持った強い語勢に、二人からの疑いの目も更に強くなる。
ここは人違いですっとぼけるのが最良か?
いや、そうすると後でやたらと胸のデカい女と出くわした時に話がまたややこしくなる。
「た、隊長さん! 私は信じてるから!」
重い空気の中で、レイアだけは変わらず俺を信じてくれているが――
「……いや、確かにそれは俺だ」
これ以上は話が拗れないためにも素直に白状した。
空気が凍りついた。
カイルとミアがまばたきするのも忘れるくらいにドン引きしている。
「とりあえず、事情を説明するから落ち着いて話を――」
「あ、あんた何やってんすか!? 雪原に放り出された時以上の衝撃ですよ!」
凍りついている間に事情を説明しようとするが、ものすごい勢いで詰められる。
「どうどう、落ち着け主人公。これには深い深い事情があるんだって」
「あんな可愛い子を奴隷市に売り飛ばすなんて脅迫にどんな事情が!」
「私は信じてるから私は信じてるから私は信じてるから私は信じてるから……」
主人公らしい正義感で詰め寄ってくるカイルと、事実を受け止めきれずに壊れてしまったレイア。
非常にまずいことになった。
まずは落ち着いて話を聞いてもらう必要があるが、現状ではそれすらままならない。
まさか俺が脅迫した直後に、本物の野盗に襲われていたなんてタイミングが悪すぎる。
超絶不幸体質の兄妹だとは思っていたが想像以上だ。
「あんときに俺のお宝を横取りしたと思ったら、その次は村に手下まで送り込んできて……」
「いや、それは本当に俺と関係ないただの野盗――」
「どんな事情があるか知らねぇけど! こんな奴が隊長だって言うなら俺はお断りだ! こんなところにもいられるか! シオンを連れて村に帰る!」
釈明も聞き入られずに、ウィリアムが俺に背を向ける。
そのまま入ってきた時とは真逆の勢いで、扉を開いたまま退室していった。
「おい、ウィル! ちょっと待てって!」
「待ってよ、カイル! 私も!」
カイルが慌てて後を追い、その後をミアが追っていく。
瞬く間に部屋には俺とレイアだけが――
「わ、私は隊長さんのことを信じてますから!」
気まずい空気に耐えられなくなったレイアもそう言って立ち去り、部屋には俺一人だけが残された。
非常に非常にめんどうなことになった。
カイルたちには事情を説明すれば誤解も解けるだろうが、問題はウィリアムの方だ。
元々、ここに来たのがイレギュラーだから放っておいても全体の流れに支障はないかもしれない。
しかし、万が一あのオタク女に今回の顛末が知られればどうなるのかは想像に難くない。
超絶不幸体質の兄妹を試される大地に追い返しただとか、カイ×ウィルの芽を摘んだとかでめちゃくちゃ批難されかねない。
そうなればまた敵対関係にならないとも言い切れない。
「……仕方ないな」
キンキンに冷え切った部屋で独り言つ。
荒療治になるが、自分のミスは自分で取り戻すしかない。
武器架から例の杖を取り出し、先端についた宝珠に指で触れる。
「あー……もしもし? おれおれ、
連絡したのは結社の王都支部。
指示の内容は……
「今から伝える特徴のガキをちょっと拉致って欲しいんだけど」
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