第18話:それゆけ第三特務部隊!

 ■前回のあらすじ


 邪神テロスを討ち滅ぼすために、賢者の力を求めて地下遺跡を訪れた第三特務部隊。


 しかし、それは邪神復活を目論む悪しき邪教団の罠だった!


 突如として大量の断層が現れ、彼らは完全に包囲されてしまった!


 絶体絶命のピンチに隊長シルバ=ピアースは果たしてどう立ち向かうのか!?


 *****


 第八話:地下遺跡での激闘ッッ!!!!!


「た、隊長! これは一体!」

「どうやら罠だったみたいだな……」


 断層から現れた大量に魔物によって第三特務部隊は完全に包囲されていた。


 ――ギャオオオオン!!


 雄叫びを上げて魔物が一斉に彼らへと飛びかかる。


「カイル! 行くぞ!」

「はい! 隊長!」


 シルバとカイルが背中を合わせ、四方から迫りくる魔物の群れと向かい合う。


 二本の槍が縦横無尽に駆け巡り、魔物の群れをバッタバッタとなぎ倒していく。

 (ここですごいアクション描写)


「みんな! 俺に続けーッ!」


 シルバの鼓舞に隊員たちの士気も最高潮に達する。


「火遁・業火葬の術!!」

「ボミングホーク!!」

「ルースレスブレード!!」


 ズカーン! ボカーン! ズキューン!!

 (とにかくすごいアクション描写)


 二人の活躍に奮起させられた隊員たちも各々の得意技で魔物を迎え撃つ。


 最初は無限の思えた魔物の数が少しずつ減っていく。


「うおおおおお!!! パニッシュメント!!」


 シルバの一撃が断層を呼び出した大型魔物の胴体へと突き刺さった。

 (見開きでズドーン!)


 巨体が断末魔の叫びを上げながら地面に倒れ伏す。


 リーダーを失い、散り散りとなった残りの魔物たちも次々と第三特務部隊によって倒されていく。


 そうして無数にあったはずの断層が全て地下遺跡から消失した。


「俺たちの勝利だ!!」


 シルバの声が地下に木霊する。


 第三特務部隊の勝利かと思われた次の瞬間だった!


 ――ゴゴゴゴゴ……。


「な、なんだこの音は!?」


 突如として地下遺跡が鳴動し始め、一帯が闇に包まれた。


「あ、あれは!?」


 カイルが天井を指差し、皆が視線を上げるとそこには巨大な黒い渦。

 (大ゴマの二つ割りで対比)


 見たこともない大きなの断層に一行は言葉を失う。


 ――ギャオオオオン!!


 背筋の凍りつくような咆哮と共に断層の中から巨大な黒いドラゴンが姿を現した。

 (見開きでドカーン!)


「お、終わりだぁ……あんなのに勝てるわけが……」


 圧倒的な暴威を前に隊員の一人が弱音を吐く。


 それを契機に他の隊員たちも次々と消沈していく。


 しかし、そんな状況下でも希望を失っていない者が一人いた。


「馬鹿野郎! 俺らが諦めたらこの世界はどうなる!」


 シルバ=ピアース、第三特務部隊の隊長にして王国最強の騎士。


 悪逆非道の闘技場チャンピオン。


 世界を裏から支配する秘密結社。


 国軍を蝕む無法千万の総隊長。


 これまで数々の悪を打倒してきた彼の辞書に諦めの文字はない。


「それに俺たちには巫女様から賜ったこの槍があるのを忘れたのか! これがある限り……俺たちは絶対に負けない!」


 シルバは隊員たちへと向かって叫び、銀色の槍を天高々に掲げる。

 (ぶち抜きでバンッ!!)


「そ、そうだ! 俺たちには伝説の槍『アストラルフォージ』がある!」

「ここで俺たちが諦めたら……誰が世界を守るんだって話だよな!」

「俺も……帰ったら酒場のあの子にプロポーズするんだ!」


 諦めかけていた第三特務部隊の面々が次々と再び奮起していく。


 武器を手に巨大なドラゴンへと向かい合う彼らの顔には、もう一切の諦念はない。


「行くぞ! 銀の槍の加護があらんことを!」

「「「うおおおおおおおッッ!!」」」


 咆哮するドラゴンへと向かってシルバを先頭に突撃する第三特務部隊。


 果たして彼らはどうなってしまうのか!?


 負けるな第三特務部隊! 頑張れ第三特務部隊!


 世界の命運は君たちにかかっている!!


 次巻へ続く!!



 *****



「で、出来たぁ~……」


 情けない声を上げながらネアンが机上に突っ伏す。


「おい、完成原稿の上に乗っかるな。皺になるだろ」


 デカい胸に原稿が押しつぶされる前に救出する。


「こんなに修羅場ったの、初めての即売会で調子に乗って100ページの本を作った時以来ですよぉ~……」

「まだ終わりじゃないぞ。細かいミスや抜けなんかを修正する作業が残ってる」

「喜びに水を差さないでくださいよぉ……。労いの言葉はないんですかぁ……?」

「あんだけ自信満々にしといて結局〆切ギリギリだったけど……まあ、ご苦労だったな」

「んふふ……後はキンキンに冷えたおビール様さえあれば最高ですねぇ……」


 机に突っ伏したまま、ちらちらと物欲しげな目線を送られる。


「ほら、好きなだけ飲め」


 用意してあったビールを木の杯に注いで渡す。


 ネアンは受け取ったそれを氷魔法で冷やすと、グイっと一気に喉に流し込んだ。


「っかー!! 心身の疲れにはこれが一番効きますなぁ!! もう一杯くださーい!!」

「酌のサービスは一杯だけだ。次は自分でやれ」

「えー! ケチー! 頑張ったんだからいいじゃないですかー!」


 文句を垂れているネアンを無視して、ビールの入った陶器を机の上に置く。


 机上にはペンやインクなど、先程まで作業に使っていた道具が散乱している。


 それらを使って作り上げた原稿に改めて目を通す。


 表紙には『それゆけ第三特務部隊!』というタイトルロゴと、やたらと美化された俺の絵が描かれている。


 前世の世界でいうところの『漫画』の原稿だ。


 内容は俺率いる第三特務部隊が世界を救うために、悪の邪教と戦う王道ストーリー。


 ベースとなっているのは俺が前回の攻略で行った事柄だが、当然何倍も英雄的ヒロイツクに脚色している。


 自分が主人公の物語を読むのは精神的にきついが、これも次の攻略のためだとページを捲って問題がないか確認していく。


「概ね問題はなさそうだな」

「なんですかその素っ気のない反応は……。せっかく魂を込めて描いたんですからもう少し面白いリアクションをしてくださいよ……。トーンなんて点描ですよ点描! 全部手描きなんですよ!?」


 早くも三杯目に突入したビールを飲みながら、ギロリと不満げな視線を向けられる。


「分かってる分かってる。大した仕事だよ。すごいすごい。その点は素直に認めてるっての」


 漫画描きとしての実力は未知数だったが、夏の大規模即売会で数千部発行していたという話はハッタリではなかったらしい。


 単純な画力だけなら前世の世界でも商業出版レベルで、この世界における目的達成には十分すぎるほどだ。


「だったらいいですけど……。でも、物語への注文に関しては未だに納得してないですけどね。本当はもっと大スペクタクルが描きたかったのに……最初の闘技場編だけで四巻くらいは使って……後の展開に向けた伏線とかもバラまいて……」

「この世界の人間が初めて触れる漫画なんだから、下手に凝ったもんにするよりもこのくらいでちょうど良いんだよ。前にも言ったろ」

「そんなもんですかねぇ……」


 腑に落ちきっていない様子で杯にビールを注いでいる。


「で、その漫画は一体何のために描かされたんですか? そろそろ教えてくれませんか? 来月の永劫祭で何をやろうとしてるのか……」


 四杯目を呷りながら今回の攻略の核心に踏み込まれる。


「確かに、そろそろお前にも教えておく頃合いか……」


 早くに教えて俺の預かり知らぬところでボロを出されると困るから黙っていたが、本番までは後一ヶ月しか残っていない。


 そろそろ教えて心の準備をさせておいた方がいいかもしれない。


「端的に言うとだな……」

「言うと……?」


 ゴクリとビールではないものを飲み込む音が静かな室内に響く。


「クーデターを起こして現政権を転覆させるつもりだ」

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