閑話:平隊員リタ=オレリオンの手記
私の名前はリタ=オレリオン。
神聖エタルニア王国陸軍第三特務部隊の平隊員で、部隊における役割は魔法による後方支援。
得意な魔法は雷属性魔法で、苦手な魔法は地属性魔法。
好きな男性のタイプは優しくてお金持ちな爽やか系のイケメン。
この手記は私の日常を記した個人的なものであり、歴史的に重要な記録がなされているものではありません。
なので、もし私の手を離れたこれを誰かが目にしているならこの続きは読まないで放棄してください。
絶対に読まないでください。読んだら呪います。
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聖歴1999年○月✕日
今日は予言にはなかった突発発生の断層の対処へと出向いた。
被災地域は王都から15kmほど離れた場所にある人口約500人の町。
断層の規模は中程度で、50体以上にも及ぶ鳥獣型の魔物が出現した。
通常であれば十人単位の死者を覚悟するべき規模の魔物災害。
けれど、迅速な出動や町の自警団が持ち堪えてくれたおかげで一人の死者を出すこともなく収束させられた。
こういう仕事をしていると、どうしても人の死を目の当たりにすることが多い。
だからこそ、一人の犠牲者も出さずに済んだことは心の底から喜びたい。
本当に良かった。
……と言っても私たちは町に残っていた残党の魔物を数体倒しただけで、いつものことながら活躍の大半はピアース隊長によるもの。
他の人から聞いたところによると、中規模断層に単騎で向かって数十匹の魔物と統率者個体を一瞬にして倒したらしい。
前から思ってたけど、本当に同じ人間なのかな……。
違う世界から来た怪物の類だったりして……なんて、本人にバレたら大目玉を食らいそう。
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聖歴1999年○月△日
ピアース隊長が突然、隊をほっぽりだしてどこかに行った。
あの人、頭おかしいんじゃないかな。
何度も無茶な命令をされてそう思ったことはあったけれど、今回は心底思った。
古参隊員のタニスさんやファスさんは平気だと言ってるけど、ただでさえ
特に存在自体がセクハラみたいな総隊長から小言を受けるのは私たちなんだから……。
副長はいかがわしいお店で踊ってる女性みたいな服を着てるし、隊長の奇行で遂に壊れてしまったのかもしれない。
新入隊員の二人も保護してた女の子と一緒に消えちゃったし、一体この隊はどうなっちゃうんだろう……。
後、ピアース隊長が出ていく前に『お前はそのまま頑張れ』と言われたけれど、意味はよく分からなかった。
今のうちに転職先、探しておこうかな……。
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聖歴1999年○月□日
ピアース隊長が妹の双子と掃除婦の人を連れて帰ってきた。
妹がいたなんて隊の誰もが初耳だったけれど、前衛班の人たちはコテンパンにやられて納得せざるを得なかったみたい。
でも私はまだ怪しいと睨んでる。
だって、全然似てない……。
二人とも随分可愛らしいし、もしかして愛人的な存在だったりする?
でも隊長がロリコンだったらちょっと嫌だなぁ……。
後、以前の出動で保護したレイア=エスペランサという女の子も特例でうちに入隊することになったらしい。
同じ魔法使いなので後衛班で面倒を見てやって欲しいと言われた。
初の後輩魔法使いだけど、ゾッとするくらい美少女すぎて気後れしてしまいそう……。
ちゃんと先輩出来るかなぁ……。
追記:
生まれて始めて間近で巫女様を見た。
なんと護衛も連れずに
生巫女様はすごく綺麗でびっくりしちゃった。
信仰心の薄い私でも神聖なものを感じずにはいられない儚げな風貌に、つい目が行ってしまう特大のお胸。
あらゆる点で完敗する格の差には、これが神様に選ばれし人間なんだと嫉妬心さえ湧いてこなかった。
ああいう御方はきっと一人自室で過ごしている時でさえ雅やかなんだろうなぁ……。
だらだらとお菓子を食べながら日記を書いている私とはそんなところも大違い。
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聖歴1999年○月◇日
色々あってピアース隊長が総隊長に昇進した。
それ自体はおめでたいことだし、個人的にも好きではなかった元総隊長がいなくなったのは嬉しい。
でも、いきなりピアース隊長(面倒なので今後もそう呼べと言われた)が妙な人事をしたせいで
入隊して半年も経っていないミアちゃんが隊長だなんて流石にありえない。
他のみんなも表面上は納得してるけど、実のところはかなり困惑しているみたいだった。
もっとも一番可哀想なのは押し付けられたミアちゃん本人だけど。
幼馴染みのカイルくんもどこかに行ったままでかなり憔悴しているみたいだし、どうにか元気づけてあげたいなぁ……。
追記:
レイアちゃんに先輩風を吹かそうと思ったら私よりも全然魔法の技術がすごくて自信喪失中。
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聖歴1999年△月□日
カイルくんが無事に帰ってきたらしい。
らしいというのは、まだその姿を確認したわけではないから。
今は隣の部屋でお互いに愛の言葉を交わしながらナニかしている。
壁が薄いので聞きたくなくてもミアちゃんの可愛らしい声やベッドが激しく軋む音が聞こえてしまう。
傍から見ているだけでもどかしかった二人が結ばれたのは喜ばしいけれど、流石にもう少し抑えて欲しい。
夜中に悶々とさせられたせいで朝まで一睡も出来なかった……。
私も彼氏、欲しいなぁ……。
追記:
ちなみに二人が一晩中に『好き』と言った回数が128回、『愛してる』と言った回数が25回、互いの名前を呼んだ回数が59回だった。
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聖歴1999年△月◇日
カイルくん、強すぎ。
しばらく見ない間に、一体彼の身にナニがあったの!?
銀の槍を振るう姿はまるでピアース隊長だし、近接戦闘をしながら本職の魔法使いより高度な氷雪魔法を使いこなしてた。
男の子は初体験を済ませただけであんなに強くなれるの!?
その秘密に迫るべく、私は今日も二人の行為に聞き耳を立てることにした。
……必死に押し殺そうとしながらも漏れ出ちゃってるミアちゃんの声が可愛すぎて同性ながら変な気を起こしそうになった。
追記:
副長がもっといかがわしい服を着始めた。
それもどうやらピアース隊長の指示らしいと今になって知った。
実は二人はデキていて、当初からずっと倒錯したプレイの一環だったのかもしれない。
うちのカップルはもう少し慎みを持ってほしい。
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聖歴1999年△月✕日
ピアース隊長からにわかには信じられない話を聞かされた。
その話によると隊長は明日死んでしまうらしい……。
カイルくんとレイアちゃんに纏わる話も途方もない話だったけれど、あの真に迫る感じは冗談を言っているようにも思えなかった。
でも隊長に恩義はあるけれど、正直言って事実ならそんな危険な場所には行きたくない。
他の人たちはみんな奮起していたけれど私は恐怖でいっぱいだ。
ピアース隊長を信じてついていきたいと思っている私と、今すぐにでも逃げ出したいと思っている私がいる。
思えば生まれてこの方、周りに流され続けてきた。
軍属になったのも魔術科の先生の言われるがままだったし、こんな最前線の危険な部隊に編入されたのもそのせいだ。
明日を無事に乗り越えられたらもう流されるがままに生きるのはやめよう。
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聖歴1999年△月○日
生き残ったー! やったー!
なんかすごい数の断層を相手に必死になって戦った!!
すごく大きな断層から黒いドラゴンが出てきた時は絶対死んだかと思ったけど、みんなで力を合わせて乗り越えられた!!
ピアース隊長はやっぱりすごい人だった。
あの話も全部本当のことだったし、永劫樹の予言よりも未来が見えているのかもしれない。
あの人についていけばきっと間違いない。
この部隊に居れば将来安泰だと私は確信した。
ピアース隊長、ばんざーい! 第三特務部隊、ばんざーい!
私たちは無敵だー!! 最高だー!!
一生ついていくぞー!!
追記:
カイルくんとミアちゃんの二人も今夜は随分と燃え上がったようです。
流石に色々な意味で耐えられなくなってきたので、やんわりと部屋を変えてもらえるように申請しておいた。
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聖歴1999年□月△日
最近は大きな出来事も特になかったので日記のことをすっかりと忘れてしまっていた。
魔物災害はまだまだ発生しているけれど、あの危機を乗り越えて強くなった私たちは以前にも増して迅速且つ的確にそれらの対処に当たれている。
国内の魔物による犠牲者数も大幅な減少傾向にあるらしい。
このまま危険な魔物がいなくなって平和な世界が訪れたらいいのになぁ……。
そういえば最近、ピアース隊長が天永宮に足繁く通っているという噂を聞いた。
なんでも巫女様と日々、お付きの人も締め出した二人きりの逢瀬を重ねているとか。
噂は噂だけど、火のないところに煙は立たないっていうよね。
どちらも美男美女でお似合いだけど、身分にはまだまだ天と地ほどの差がある
でも、だからこそ周りも見えないくらいに燃え上がっているのかもしれない。
なんてロマンチックなんだろう。
私もそんな大恋愛がしてみたいなぁ……。
でも、副長とはどうなったんだろう。
もしかして二股?
そういえばレイアちゃんとも二人で食事に行ったらしいし、そうなると三股!?
王国一モテると噂の人は違うなぁ……。
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聖歴2000年✕月○日
もうすぐ今年の永劫祭が始まる。
年に一度の大きなお祭りにはこの年齢になってもワクワクしてしまう。
後は当日の警備に割り当てられないように祈るだけだと思っていたら、またピアース隊長から重要な話があると言われて皆が講堂へ集められた。
また何か無茶なことを言い出すのかと思えば、壇上にいたのはなんと隊長ではなく巫女様だった。
そこで巫女様から告げられたのは、これまでの滅茶苦茶な命令が可愛らしく思える程のとんでもない指示。
聞いた時は夢じゃないかと疑ったけれど、これを書いている今は現実だって分かってる。
やっぱりあの時に辞めておけばよかったと後悔しても今更逃げ道はなさそう。
流されるがままに生きてきた私の人生も、遂に果てまで漂着してしまったのかもしれない。
まさか、自分がこの国に対してクーデ――
【手記はここで途絶えている】
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