第49話:残響
神王直々の予言書を受け取ってから三時間後。
俺は物語の鍵となるカイルとレイア、そして第三特務部隊の面々を連れて決戦の地を訪れていた。
王都西部にある名もなき遺跡群。
二千年前の戦争による痕跡が今も残っている場所であり、名目上はそこの調査任務として出動許可が下りている。
しかし、実態は予言書に記されている通りに『予言の子』であるカイルとレイアをある場所へと連れて行くために来た。
「隊長、本当にここがそうなんですか……? その、俺が世界を救うために必要な場所ってのは……」
目的の場所へと向かって歩いているとカイルが尋ねてきた。
「そうだ。厳密にはここからずっと地下に潜った場所だけどな」
「はぁ……そんな重要そうな場所には見えないですけどね……」
気のない返事をしながらカイルは周囲を見渡している。
二千年前の大いなる戦いの痕跡を残す場所ではあるが、名前がついていないことからも分かるように大層な史跡は残っていない。
現状ではただの瓦礫の山と呼んでも差し支えないが、二人にとっては重要な場所であるのは間違いない。
「何言ってんだよ。ここがお前とレイアの馴れ初めの地なんだぞ」
そう、この場所はかつて二人が生まれ育って愛情を育んだ町があった場所だ。
最初の記憶を取り戻す場所として、第一章のラストを飾る場所としてこれ以上の場所はない。
「”前世の”俺と”前世”のレイアが、ですけどね! それをちゃんと付けてください! それとその話をするとミアがすっごく機嫌を悪くするんで出来れば控えてください!」
「ああ、すまんすまん」
一部をやたらと強調しながら食って掛かってきたカイルに謝罪する。
怒らせすぎてまた本気で殺しに来られるのは勘弁だ。
あの時の一撃は二度の人生で一番痛かった。
「さて……着いたぞ。ここだ」
それから二十分ほど歩き続けたところで第一の目的地へと到着した。
「ここって……何もないですけど……」
「いいからお前はそこに立て、レイアはこっちだ」
「は、はい……!」
怪訝そうに辺りを見渡すカイルと、何かを感じて強張っているレイアを所定の位置に立たせる。
本来なら様々な場所を調査した上でようやく見つかる場所だが、俺の知識があるので事はスムーズに進む。
「立ちましたけど、これで一体なにが――うわっ!! な、何だ!?」
カイルの声を遮るように、凄まじい轟音が辺りに鳴り響く。
続けて一帯がまるで地震のように鳴動しはじめた。
カイルとレイアは激しく動揺しながらもその場に立ち続けている。
後方に控えていた各隊員たちは何事かと大慌てで危険回避の姿勢を取り始めた。
そして、鳴動がピークを迎えると同時に二人の間にある遺跡の地面が動き始めた。
至る箇所が朽ちた石畳の床が左右に開き、地下へと向かう大階段が現れた。
「さあ、行くぞ」
昨晩に俺の語った内容が全て真実であったと改めて理解した隊員たちを連れて地下へと潜っていく。
地下ではあるが壁面の至るところに埋め込まれている光る鉱石のおかげで足元もしっかり見える。
恐る恐る進んでいる隊員たちに『ここはまだ大丈夫だ』と声をかけてやるが、誰も警戒を解いてくれない。
そのままゆっくりとした進行で半時間以上かけてようやく最深部へと到達した。
「ここが……」
隣を歩いていたカイルが感嘆の声を上げる。
眼前に広がったのは、地下とは思えない広大な空洞地帯。
それでありながら壁面と足場に至るまで全ての場所が未知の鉱物で構成されている。
中央にはまるでいくつもの巨大なアーチを組み合わせたような形の神殿が見える。
何千年も前から存在する建造物だが、一部が朽ちているだけでほぼ完全な形を残している。
ちなみに設定資料集によると、空洞全体の広さは東京ドームの約1.5倍らしい。
「どうだ? 何か見覚えがあったりするか?」
「い、いえ……俺には前世の記憶なんて何も……全く思い出せません……」
頬に汗を垂らしながら横目でミアの様子を確認しつつ答えてくれる。
「レイアはどうだ?」
「分からない……でも、ここ最近ずっと私を呼んでた何かがここにある……」
そう言いながらレイアは虚ろな表情のまま、不安定な足取りで空洞の中央へと向かって歩いて行く。
中央の神殿に刻まれた奇怪な文様を目視出来る距離まで近づいたところで、耳鳴りのような音が聞こえ始める。
音は、神殿の更に中央にある宙空に浮かぶ白い光の輪を発生源にしている。
あれこそが『第一の
ゲームのタイトルにもなっている一章の締め括りを飾るもの。
二千年前の過去と現在を繋ぐ事象そのものであり、あれに二人が触れることで過去から記憶と力を受け取ることが出来る。
「二人とも昨日話したように中央へと向かってあれに触れるんだ」
二人に階段を上って残響へと触れるように促す。
「他はその場で待機だ」
続いて後方にいる全員に指示を出す。
二人があれに触れた瞬間、大量の断層が出現することは既に伝えてある。
隊員たちの警戒は最高潮に達し、各々が武器に手をかけはじめた。
「隊長さん……」
未知の事象を前にレイアも恐怖を覚えているのか震える声で俺を呼ぶ。
「大丈夫だ。お前らは俺が命に替えても必ず守って――」
「私、記憶が戻ってもカイルのことはなんとも思わないから! 絶対になんとも思わないから! 絶対絶対に!」
やっぱりそっちかぁ……。
「そうだな……なら、無事に帰れたら飯でも食いに行くか?」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、綺麗な夜景の見られる静かな良い店だ。そこに行こう」
そう行ってぽんと頭を軽く撫でてやるとぱぁっと笑顔の花が咲く。
「行きます! 絶対行きます! だから今の約束、忘れないでくださいね!」
そのままスキップするような軽やかな歩調で階段を上って残響へと近づいていく。
今はまだ前世の英雄は影も形もない年頃の少女にしか見えないが、もうすぐ彼女はかつての記憶を一部ではあるが取り戻す。
そうなった時に俺に対する気持ちは果たしてどう変化するのだろうか……。
「ほら、カイル! さっさと行くわよ! 早く!」
「お、おう……。それじゃあ俺も行ってくる。何があっても大丈夫だから心配するなよ」
レイアに呼びかけられたカイルも最後にミアの手を強く握って階段を上っていく。
二人の背中を見守りながら、高まっていく心臓の鼓動を抑える。
ナタリアを踊り子にしたのから始まり、全てはこの時のために積み上げてきた。
EoEハードコアモードシルバ生存ルートバグ無し攻略における最後の難関。
これまでに行ってきたどんな困難へと臨む時よりも遥かに緊張している。
残響の前に辿り着いた二人が、互いの顔を見合わせて首肯する。
息を吐き出し、適度な緊張を残して全てを吐き出す。
二人が手を伸ばして光へと触れた瞬間――
まるで世界中に鳴り響いたかのような高音が耳をつんざいた。
それは二人が過去と繋がり、前世の追体験を始めた証。
突然の耳が痛くなるような高音に、俺以外の皆が顔を顰めて両耳を押さえる。
だが、その音を聞いたのは俺たちだけではない。
二千年前の世界に置き去りにされる形で封印された滅尽の邪神テロス。
過去と現在を繋ぐ残響は、奴にも『ここに自分を封印した二人がいる』と気づかせる呼び水になった。
二人を亡き者として封印を解くために膨大な数の断層が出現し始める。
「総員! 戦闘準備!」
背負っていた槍を手にして、仲間へと向かって鬨の叫びを上げる。
「銀の槍の加護があらんことを!!」
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