第41話:R18指定
「……はぁ?」
「はぁ、じゃないですよ! 今、しっかりと間違いなく一撃を入れましたよね!?」
「ああ、まあ……」
突然の気の抜けたやり取りに戦闘のボルテージが下がると、殴られた右頬がじんじんと痛んできた。
「じゃあ、勝負は俺の勝ちってことですよね!?」
「勝負……?」
「期限内に隊長に一発入れられるかって勝負ですよ! まさか忘れたとは言わせませんよ!?」
「いや、覚えてるけど……」
本当は忘れかけていた。
正規のストーリーから外れて負けヒロインのミアとフラグを立てやがったことを逆手に取ってこいつを焚きつけるために仕掛けた勝負。
キナリ雪原に放り込めた時点で俺としてはその結果はどうでもよかったのだが、こいつに取ってはよほど重要なことだったらしい。
ミアを取られんとするためだけにレベルを40超まで上げて特殊クラスを習得し、自力で帰ってくるとは恐れ入った。
「それじゃあ約束通り、ミアは――」
「カイル! カイル!」
想定を越えた出来事に困惑していると、ミアが戦いを終えた俺たちの下へと駆け寄ってきた。
目に涙を浮かべて幼馴染の生存を喜んでいる。
「ミア! 見てたか!? 俺、隊長に勝ったぞ!」
ミアの両肩に手を置いてはしゃいでいるカイル。
……何かムカつく。
ちょっと油断してただけで本気を出せばまだまだ負ける気はしないんだが。
そもそも一発入れたら勝ちってのがお前に有利すぎただけで、俺は全然負けたとか思ってないけどな。
俺は大人だから花を持たせてやっただけで、何なら今から続きをやっても俺は全然大丈夫だぞ。
「うん見てたよ! すごく強かった! でも私、カイルなら絶対に出来るって信じ――」
「ミア、好きだ!」
大人気なく心の中で毒づいていると、カイルがいきなり告白した。
「……え?」
告白を受けたミアは元から丸々としたキュートな目を更に丸く見開いて驚愕している。
俺もびっくりした。
だって、俺の知ってるカイルといえば恋愛には非常に奥手で本編でも終章までレイアに想いを伝えきれずに煮え切らない態度を取り続ける男だ。
こんな段階で異性に愛の告白なんて解釈違い以外の何物でもない。
「向こうでずっと……ずっとお前のことばっかり考えてた……。またお前のおむすびが食べたい、お前に会いたいって……。その一心だけで俺は強くなって、ここに生きて帰って来られた……」
「えっ……えっ……」
睦言を囁きながらカイルはミアの華奢な身体を目いっぱいに強く抱きしめている。
こういう時に俺はどういう体勢で見てればいいんだろう……。
腕を組んで後方師匠面でもしていればいいのか? いや、何か違う気がする。
「それで気がついたんだ。俺がお前を守りたいのはただ約束したからじゃなくて……お前が好きだからなんだって」
「ちょ、ちょっとカイル……きゅ、急にそんなこと言われ――んっ!」
気持ちを抑えきれなくなったのか、カイルはそのままミアの唇を奪った。
それも貪り喰らうように濃厚な感じで。
「好きだ! ミア、好きだ!」
十日とはまるで別人のようにミアを情熱的に求めるカイル。
その変貌っぷりを見て、隣ではアカツキも『うわっ……すご……』っと喫驚している。
「私も……私も好き……カイルのことがずっと好きだった……んっ……」
最初は僅かな抵抗を示していたミアもすぐに受け入れてカイルを抱きしめ返す。
「俺もだ。もう絶対に離さない。お前が側に居てくれれば俺はそれだけでいい」
「うん、ずっと側にいて……好き……大好き……」
俺たちが見ていることなんてもはや気にも留めずに強く求め合う二人。
嫉妬の感情を焚き付けて主人公を強くしよう作戦は少々効きすぎてしまったらしい。
もうZ指定どころかR18指定に片足を突っ込んでいる。
このままおっ始めるのも時間の問題だ。
「……さて、後は若い二人に任せて俺たちは明日に備えて寝るか」
「そうね……」
陶然とした表情で見つめ合う二人に背を向けて隊舎へと戻っていく。
背後では依然として二人が熱く口づけし合う音が鳴っている。
この後どうなったのかは神のみぞ知ればいい。
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