第18話:輝光石

「ふぅ……久しぶりのお風呂はいいわねぇ……」


 再び戻ってきたフィストの街の安宿。


 牢屋暮らしの汚れと返り血を落としたいと風呂に入ったアカツキが一時間経ってようやく出てきた。


 引き締まった褐色の素肌を惜しみなく晒しながら、何事もなくペタペタと目の前を通り抜けていく。


「なんつー格好してんだ……服くらい着てから出てこい……。恥じらいとかないのか?」

「恥じらい? ふふっ、あいつらに実験と称してどれだけ見られたと思ってるのよ。今更裸を見られたくらいで恥ずかしがるわけないでしょ」


 そう言いながら、予め用意してあった新品の下着に手をかける。


 本当に恥ずかしくないのか、年齢相応の小ぶりな尻をこっちに向けて目の前で着替え始める。


 この恥じらい係数ゼロ女が……。


 でも、こんな大っぴらにやられると目を逸らすのも負けな気がするのでじっと着替え終わるのを待つ。


「アカツキちゃーん、私の下着も取ってー」

「こら、ミツキ! 裸で出てきたらダメでしょ!」

「え? でも、アカツキちゃんとお兄ちゃんしかいないし」


 続けて同じように浴室から裸で出てきたミツキを、自分のことは棚上げにして諫めるアカツキ。


 こいつはほんとに……。


「いいから、ほら! 戻りなさい! 兄ってのはいつだって妹を性的な目で見てる存在なのよ!」

「えー……なんでー……?」


 自身もまだショーツしか履いていない状態のアカツキが謎に偏った知識でミツキを浴室に押し戻していくのを眺めていると――


「ただいま戻りましたぁあああ!!! ご注文の品!! 文字通り一帯を駆けずり回って今度こそ集めてきましたよ……って、にょわあああああああ!!! 妹さんが分裂してる!?!?!?」


 やかましいのが帰ってきた。


「落ち着け、ただの双子だ」

「ふ、双子!? またまた衝撃の新情報が!!」


 相変わらずうるさいが、驚くのも無理はない。


 自分でも長期連載漫画ばりの後付け設定だと思う。


「これが例のざつよ……部下の人?」

「は、はい! シルバ兄貴の子分でロマ・フィーリスと申します! 以後見知り置きを!」


 上半身裸のアカツキに向かってビシっと背筋を伸ばして敬礼するロマ。


「こちらこそよろしく。なかなか優秀な部下だって兄から聞いてるわ」

「え? そ、そんな優秀だなんて……えへ、えへへ……」


 身体をくねらせながら嬉しそうにしているが、そんなことを言った覚えは一言もない。


 しかし、アカツキの奴……褒めつつもあくまで上から目線を崩さない。


 初対面且つ年下でありながら瞬く間に明確な上下関係を構築しやがった。


 ロマの奴がナチュラルボーン下っ端なだけではあるが流石の立ち回りだ。


「じーっ……」


 一方、ミツキは相変わらず敵意の浮かべた目でロマを睨んでいる。


 この三人を引き連れて行動するのはなかなか骨が折れそうだ。


「それでロマ。例の物は揃ったのか?」


 着替えのために浴室に戻った二人を他所に、ロマへ注文の品の確認を行う。


「はい! もちのろんです! こちらを御覧ください!」


 そう言ってロマが背負っていた袋を床に下ろす。


 ズシンと重量感のあるそれにボロい木の床が悲鳴を上げる。


 開かれた口から見える内部には先日見た時よりも更に多くの鉱石が詰まっていた。


「指示通り、周辺一帯を駆けずり回って集めてきました!」

「なるほど……確かにこれだけあれば十分だな。ご苦労、この短期間でよくやってくれたな……って、なんだその顔は」


 鉱石からロマの方に視線を戻すと、筆舌に尽くしがたい恍惚の表情を浮かべていた。


「い、いや……兄貴からストレートに褒められるのって初めてで……えへへ……あっ、これだめ……何か新しい扉が開いちゃうかも……」

「なんだそりゃ……気持ち悪いな……」

「えへ、えへへ……ご、ごめんなさい……。そ、それで……いっぱい集めてきたのは良いですけど、その石は何に使うんですか?」

「なんだ知らないのか? こいつは輝光石って言ってな……」


 袋の中から小さな破片を一つ摘み上げ、ニヤニヤクネクネしている気持ち悪い女に見えやすい位置へと差し出す。


「はぁ……輝光石……」

「こうやって砕くと……」


 そのまま指先に力を込めて摘んだ石を砕くと――


 ――カッ!!


 カメラのストロボを炊いたような閃光が部屋を包んだ。


「うにゃっ! まぶしっ! いたっ!」


 驚いたロマがその場でひっくり返る。


「おっと、すまんすまん」


 尻もちをついたロマの手を引いて立ち上がらせる。


「び、びっくりさせないでくださいよぉ……。でも、これが本当に何かの役に立つんですか? それもこんなにいっぱいあって……」

「そりゃ役に立つから集めさせたに決まってるだろ。まあ刮目して見てろ」

「はぁ……」

「とにかく、今回はご苦労だったな。また次の指示を出すまでお前はしばらく待機してろ」

「え? は、はい……分かりました……」


 一つの指示を成功させたからすぐに次の指示をもらえると思っていたのか、少し不満げにしつつもロマは自室へと戻っていった。


 だが、ここから先は今の段階の大詰め――残すは結社の首謀者との戦いのみ。


 戦闘においては足手まといも良いところなあいつは一旦待機させておく。


「さて、準備万端よ」

「行けるよー」


 浴室から着替え終えた二人が出てくる。


 ミツキ Lv40 クラス:アサシン Lv12

 筋力:120 敏捷:180 器用:170 魔力:100 体力:120 精神:140


 アカツキ Lv40 クラス:アサシン Lv12

 筋力:130 敏捷:170 器用:160 魔力:100 体力:130 精神:140


 二人の能力を確認しながらロマが置いていった袋を担ぎ上げる。


 必要なものは全て揃った。


「さて、DLCを終わらせに行くとするか!」

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