てぃんだろす の襲撃

あれから5日後、俺は課題図書を読み、無事、感想文を完成させた。


そして市立図書館に課題図書を返しに行く途中で見てしまった。


公園の砂場で遊ぶティンダロスの姿を・・・


小さな黒い艶やかな身体で砂の上を転げまわる、可愛らしいティンダロス。


しかし・・・・


「ダメだ、ウチの家族はなんだ。神話系生物オマエは飼えない」


後ろ髪をひかれる思いを振り切って、図書館に向かう・・・


世羅市立榎山図書館、通称セラエノ図書館で本を返し、

外に出た俺の目に映ったのは・・・


炎天下の下、チョコンと座って俺を待つティンダロスの姿だった。


涙でティンダロスの愛らしい姿が歪む・・・しかし


「ダメなんだ、俺だって家族の理解を得ようと色々頑張ったんだ。

 でも、コズミック・ホラーだとか根源的な恐怖だとか、そんなモノを

 いくらくちで説明しても、わかってはもらえないんだ」


ティンダロスは紫のつぶらな瞳でこちらを見詰めながら、

可愛らしく首をかしげる


「そもそも 愛のラブ創造物クラフトなんてロマンチックな名前してて

 あんな、えげつないホラーを書いたHPL(ハワード・フィリップス・ラブクラフト)が悪いんだ」


ああ、俺はとうとうSANチェックを失敗したらしい、錯乱している。

錯乱して、を大声で騒ぎ立てていた。


そんな、錯乱する俺の所にティンダロスがトコトコと近づいて来て


俺の靴をペロリと舐めた。


頭の中で何かが切れた音を確かに聞いたと思う・・・


気が付いた時、俺はティンダロスを抱き上げ


汗まみれになって自宅に駆け戻っていた。


俺はティンダロスを抱いたまま、父と母と姉の前で土下座をしていた。


「頼む、この子をココにおいて欲しい。お願いします」






「ティンちゃん、こっちにおいで」

「お父さん、やめてよ今私がだっこしてるのよ」


いま、ティンダロスは無事に虻戸家の一員になっている。

そう、俺は、勘違いしていたんだ。

いくらくちで説明しても伝わらない。

実際に見せればいいんだ。


ティンダロスがイタズラしない様に、全ての部屋の天井と床の隅にウレタンパッドを取り付けながら、ふとそんな事を考えていた。





以下、クトルフ神話関連の


※HPL(ハワード・フィリップス・ラブクラフト)1890年生まれのアメリカ人小説家、クトゥルフ神話の大本になったっぽい人


※SANチェック、元々はTRPGクトゥルフの呼び声で導入されたルール、

ゲームの中でコレに失敗すると、精神的なショックが大きく限界を超えたと判断され

キャラクターが正気を失ったり、錯乱したり、呆然自失になったりする。

最近はショックを受けた時の日常会話で使う人も多い


※セラエノ図書館 クトゥルフ神話に登場する、恒星セラエノの第4惑星に存在するとされる図書館

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