第4話 魔王、日記を読む(後編)

 7月に入ると、ササゴによる影陽へのイジメはさらにエスカレートしていく。


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〔7月2日(木)〕

 あさ、教室に入ったら、ボクの机の上に花瓶に入った白い花が置かれていた。

 ササゴが「やっぱ葬式には菊の花だよなぁ」と言った。

 そのあと、クラスを見回して「死んだヤツと話をするヤツなんていないよなぁ?」とニヤニヤ笑った。


〔7月6日(月)〕

 みんな、ボクをムシする。

 話しかけても目も合わせてくれない。

 ソラくんに「遊ぼうよ」と言ってもムシされた。

 けさは勇美に「家の外では話しかけないで。特に学校では」と言われた。


〔7月8日(水)〕

 朝の出欠確認で、先生がボクの名前を飛ばした。

 わざとかどうかはわからない。

 でも、このところ授業中に手を上げてもさしてくれない。

 先生にもムシされるようになったの?


〔7月9日(木)〕

 朝、学校に行ったらボクのつくえといすがなかった。

 先生に言ったら目をそらされた。

 今日はずっと、教室の後ろに立って授業をうけていた。


 ボクはいない子?

 ボクは死んだの?

 ボクはゆうれい?


〔7月14日(火)〕

 放課後、ササゴたちに首ねっこを捕まれて校舎裏に連れて行かれた。

 絶対ひどい目にあうってわかっていたけど、それでもムシよりマシとちょっとだけおもってしまった。


 クラスの男子のほとんどが待ち構えていた。

 その中にはそらくんもいた。

 ササゴはポケットからナイフを取り出した。

 さすがにこわくて泣き出してしまった。

 そしたら、みんなに「なきむしだぁ」って笑われた。


 ナイフで刺されはしなかったけど、ササゴはボクを花壇の中に蹴飛ばした。

「いつまでも幽霊が学校にくるんじゃねぇ!」

 ササゴたちはそう言って、僕の顔を地面にグリグリ押しつけた。


 そのあと、土を食べさせられた。

 幽霊に給食は贅沢で、土をたべてればいいんだって。いみがわかんないけど。


 泥だらけで家に帰ると、ママに「どうしたの?」って聞かれた。

 ぜんぶ、本当のことをいいたい。

 でも、ママに心配をかけたくない。

 それに、子どものケンカに親がでていっていいことなんてない。

 前の学校の時だってそうだった。


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 なにが子どものケンカか。

 ナイフまで使って脅し、土を食わせるなどケンカではない。

 読んでいるだけで腹立たしい。

 そらという少年も大概だろう。

 影陽に助けてもらったのに、裏切りもいいところだ。

 勇美も兄弟がひどい目にあっているのになにもしない。

 そして、担任教師まで一緒になってこんな……


 同時に俺は思う。

 影陽、少しは反撃しろと。

 だが、彼が反撃しない理由は直後の日記で分った。


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〔7月16日(木)〕

 コンパスの針で背中を刺された。

 痛くて痛くて泣いた。

 みんな、そんな僕を見て大笑い。

 そらくんと勇美すら、少しにやけていた。。

 学級委員長の丸木くんとかは笑いこそしないけど、迷惑そうな目だ。


 ボクはハンゲキしたかった。

 でも、前にプロレスごっこでハンゲキしたときのことを思い出してしまう。

「逆らうなら、お前の妹とプロレスしようかな」

 最初は勇美のことかと思ったけど、そのあと「たしか瀬田谷幼稚園の年長だっけ?」といわれた。

 ひかりまでまきこめない。


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 俺はここまで読んで頭が沸騰しそうになった。

 ササゴは集団でいじめるのみならず、ひかりにまで手を出そうとしていたのか?

 卑怯などという言葉ではすまされん!


 元の世界の戦争では、俺だって様々な策略を使った。

 後世の歴史家からは『卑怯』といわれるようなことだってしたかもしれない。

 それでも、だれかを人質にとるような作戦だけはしなかった。


 そういう提案を部下がしたときは却下した。

 人道問題もあるが、一度そういう手段にでたら後戻りができなくなる。

 かつて、俺の母を人質にとった人族の先代国王と同じにはなりたくなかった。


 ササゴという少年が本当にひかりに手を出すつもりだったかは分らない。

 だが、しかし……


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〔7月19日(日)〕

 日曜日は安心。

 小学校がないから。

 お昼すぎに勇美に言われた。


「あんた、もう学校に通うのやめたら?」


 いじめられているボクを心配してくれたのかもしれない。

 だけど、くやしい。

 くやしすぎる。

 ボクは泣きながら「ヤダ」と言った。


 また、明日は学校だ。

 希望はもうすぐ夏休みだってことだ。


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 数日後から、夏休みという長期休暇になったらしい。

 夏休みの間、日記はほとんど書かれていない。

 学校の宿題で、この日記とは別に『絵日記』を書かなくてはならかったらしい。

 ときどきこちらの日記にも数行書かれているが、祖父母の家に行ったとか、楽しそうな文言が多い。

 ちなみに絵日記は探したが見つからなかった。学校の宿題だったそうだから、提出してしまったのだろうか。


 驚いたのは8月中旬の日記だ。


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〔8月19日(水)〕

 ひさしぶりにそらくんと遊んだ。

 ゲーム楽しかった。

 ゲームが終わったあと、外で遊ぼうって言ったけど、そらくんは「影陽くんとあそんでいるところをササゴにみつかりたくない」って言っていた。

 でも、明日またそらくんっちでゲームする約束をした。


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 影陽、お前まだそらと遊ぶのか。

 子供同士のことだ。

 日記の一方的な情報だけでは判断できないが、しかし……


 そのあと、夏休みが終わるまで日記は書かれていない。

 そして、9月になって2学期が始まる。

 影陽と勇美の事故まで、あと半月。

 そこからの日記は、もはや目を背けたくなるような内容だった。


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【♪昭和60年代豆知識♪】

○いじめ問題

 詳述は避けますが、この時代、小中学校でのいじめがマスメディアを含め社会問題化しました。

 きっかけとなったのはある中学校の事件だったそうです。(固有名詞の記載は避けます。コメントなどにも書かないでください)

 ただし、昭和50年代以前にイジメが無かったわけではないでしょうし、平成や令和にイジメがなくなったわけでもありません。


 ……というわけで、第2部の主なテーマはいじめ問題というか、いじめっ子へのザマァです。

  

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