第3話 魔王、日記を読む(前編)
俺はあらためて、影陽の日記を最初のページから読んでみる。
正直、影陽の文字は汚く、読み解くのは大変だった。
漢字があまり使われていなかったのは助かった。
日記は今年の4月、影陽が小学5年生になったころから始まっていた。
-----------------
〔4月5日(日)〕
明日から新しい学校!ともだちできるかな。
前の学校みたいにいじめられないといいけど。
〔4月6日(月)〕
さっそくとなりの席の子とともだちになった!
青井そらくん。ボクと同じでテレビゲーム好き。ファミコンだけじゃなくて、マークIIIも持ってるなんてすごいなぁ。
ボクのパパはテレビゲームきらいだけど、そらくんのパパはいっしょにゲームしてくれるんだって。
今年でる新しいゲーム機も買ってもらうって言ってた。いいなぁ。
〔4月7日(火)〕
今日もそらくんの家でゲームした。
ボクの家だと1時間以上ファミコンしてたらママや勇美におこられちゃうけど、そらくんのママはやさしい。
それにしても、そらくんはゲーム上手いなぁ。ピーチ姫をかんたんに助けちゃった。
-----------------
日記にはしばらくは青井そらという友達とたのしく遊んでいる様子が書かれていた。
だが、5月後半から様子が変わってくる。
-----------------
〔5月23日(土)〕
学校のあと、そらくんと公園で待ち合わせした。そしたら、先に来ていたそらくんが、ササゴ(佐々倉)たちに囲まれていた。
ササゴは前の学校でボクをイジめていたヤツらと同んなじだ。
前の学校のヤツだって鼻血が出るまでなぐったりはしてこなかった。
ボクは逃げ出したくなったけど……でも、勇気を出したよ。
結局ボクもなぐられて鼻血だしちゃったけど、こーかいはしてない。
そらくんはともだちだもん。
そらくんは2年生の頃からササゴにいじめられていたらしい。
ゲームのカセットを取られたりもしたって。
でも、ボクはそらくんの味方だ。
前の学校でボクを助けてくれたユウキみたいに、今度はボクがそらくんを助けるんだ!
-----------------
影陽はなかなかに男気のある少年だなと、ここは感心した。
しかし、ササゴといういじめっ子の行動はどんどんエスカレートしていく。
-----------------
〔5月25日(月)〕
そらくんと一緒にササゴたちにしこたまなぐられた。
そらくんは逃げられたけど、ボクは逃げられなくて、骨を折られるかと思った。
-----------------
この時点では影陽はいいように捕らえているが、みようによってはそらは影陽を見捨てて逃げたのではないかとも思える。
もちろん、当時の状況が分らない以上、それは俺の想像に過ぎないが。
そこからはササゴ少年ひきいるいじめっ子軍団が、影陽とそら……とくに影陽を毎日いじめる様子が続く。
-----------------
〔6月2日(火)〕
ササゴにプロレスごっこされた。
プロレスごっこなのに、ボクがちょっとハンゲキすると、ハンソクとか言って、みんなにけとばされた。
〔6月5日(金)〕
昼休み、ササゴに屋上に連れて行かれて、校庭に飛び降りろって言われた。いやだって言ったら、その場でみんなになぐられた。鼻血がいっぱい出た。
〔6月18日(木)〕
教室の窓から突き落とされそうになった。
誰も助けてくれない。
そらくんは見て見ぬふり。勇美も「影陽が情けないせいでしょ」とか言ってる。
先生もササゴの味方だ。なんでだよ。
〔6月20日(土)〕
そらくんに、ササゴが教頭先生の甥っ子だと聞かされた。だから、先生もアイツの味方をするんだ。
〔6月30日(火)〕
放課後、ササゴに『お前は死にました』といきなり言われた。
それから、縄跳びで縛られて、むりやり黒板の前に寝かされた。
タカヤがお坊さんのマネをして『なんみょーほうれんげんきょー』とかいってた。
ボクのお葬式だってさ。
『葬式ごっこ』
こんなことをされているのに、そらくんは助けてくれない。
それどころか、そらくんもボクの葬式に『さんれつ』してた。
そのあと、ササゴたちがボクの『死体』を焼却炉に持っていこうとした。
勇美が止めてくれたけど、勇美にも「影陽が弱虫だから私もメイワク」って言われた。
-----------------
読んでいるとムカムカしてくる内容だ。
プロレスごっこまでなら、まだかろうじて子どものケンカの範疇かもしれない。
だが、屋上から飛び降りろというのは『死ね』というにほかならならない。
まして、『葬式ごっこ』だと?
影陽の人格を全否定しているとしか思えない。
助けたそらという少年や、双子の勇美、さらに教師にすら見捨てられている。
あまりにも痛ましい。
もちろん、元の世界や、この世界の過去にあった戦乱中の子ども達にくらべればマシだと言ってしまえばそれまでかもしれない。
だが、味方が誰もいないのは辛すぎるだろう。
俺は怒りとやるせなさに震えながら、さらにページをめくった。
===============
【♪昭和60年代豆知識♪】
○ゲーム機戦争
この時代、いわゆるゲーム機戦争は任天堂のファミコン1強でした。
ホント、どの子の家に行っても白いファミコンと黄色いスーパーマリオのカセットがありましたねぇ。
そこに果敢に挑んでいったのがセガやNEC。
セガからマークIII(セガ・マークIII)が発売されたのは昭和61年10月。
昭和62年10月にはNECのPCエンジンが発売されました。ファミコン1強とはいえ、PCエンジンも1000万台売れたそうです(バブルの力ってすげー)。
本編は昭和62年。そらくん(のパパ)が買うといっているのはPCエンジンのことでしょうか(62年の4月時点で正式な商品名称が一般に知れ渡っていたかは微妙?)。
任天堂のスーパーファミコンに先駆けて発売されたPCエンジンは、ファミコンと比べてグラフィックスなどがとんでもなくて、ファミコンっ子だった当時の小学生たちの度肝を抜きました。PCエンジンを持っている子の家にはそれだけで小学生が集まっていましたね(ファミコンはどの家にもあったので)。
なお、ソニー(SCE)初のゲーム機のプレーステーションが発売されたのは平成6年の10月です。
○土曜日でも登校?
当時の小学校は(中学や高校も)土曜日でも登校するのが当り前(ただし、授業は午前中のみが普通)
平成4年から第2土曜日が休みに、平成7年から月2回土曜日が休みになりました。
完全週休2日制になったのは平成14年からだそうです。
(※公立校の場合。私学では多少異なるようです)
○小学校に焼却炉があった?
ゴミを燃やすための焼却炉がありました。普通に。
ダイオキシンとかが社会問題になると徐々に使われなくなり、撤去されていったようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます