第11話 錆び落としには難題を

 冒険者ギルド――略してギルド。噴水広場から伸びる大通りのすぐ脇にある巨大かつ石レンガと木と大きな骨で造られた、無骨な建物。

 ここではNPCから出される大小様々な依頼を『クエスト』と言う形で受注できる。その成功報酬や、貴重なアイテムを獲得するため、日夜様々なプレイヤー達でごった返しているのだ。


 二人はそんなギルドの建物の、重苦しい扉を押して、中に入った。


「相変わらず多いなぁ……ギルドはここだけじゃ無いだろうに」

「地域限定クエストってのもありますからね。それに、初心者への配慮ってことで、簡単なクエストが多いみたいですから」


 雑踏を眺める充のぼやきに、歴の長い優輝がすかさず反応する。素人充には、大変ありがたい存在だ。


 ギルドの内装は、いわゆる中世ファンタジーチックな酒場に寄せて作られている。

 だだっ広い店内には数十の丸い木のテーブル席が設けられ、照明は天井から吊るされたろうそく。メイド服を着たウェイトレスNPCが、大勢のプレイヤー達の間を縫って、忙しなく動いている。


「お、ラッキー。席空いてんじゃん」

「座らせて貰いましょうか」


 いつもは満席になっているテーブル席。座ることが出来るのは、半ば奇跡と言って良いかもしれない。


「何気に座るの初めてかもな」

「ええ。私も多分初めてです」


 二人は木製の椅子に腰掛け、テーブルを挟んで向かい合う。なるほど、座り心地は案外悪く無さそうだ。

 二人が席についた瞬間、テーブルの上に画面がポンと現れた。諸々の注文や椅子の増減、更にはクエストの受注もここで出来るらしい。


「わざわざ奥の掲示板に取りに行って、カウンターの受付嬢さんの所に提出しなくて済むのはありがたいですね」

「あれにはあれの良さがあるけどなぁ……って、なんだこれ」


 画面を眺めていた充がふと、そう眉をしかめる。


「ミニゲーム、って書いてますね。インベーダーゲームに、パズルゲー、ダーツなんかもありますね。掛け金とスコア次第で、報酬も変わってくるとか」

「へぇ……この中なら、インベーダーとかはまだ出来そうだな。一丁、やってみるか」


 そう言って、充はスタートボタンをタップした。



 *



「……で、今の今まで二人ともミニゲームに没頭していたと」


 二時間後、二人の脳裏に信也の声が響いてきた。


「面目ないです……」

「このゲーム難しくねぇか!?」

「いや、お二人さんが超ド下手なだけだぞ」


 不甲斐ない結果に項垂れる充と優輝を見て、信也は呆れてため息をこぼす。


「んで? 現在の有り金はおいくら程で?」

「俺は銀貨五枚」

「私は無一文です」


 ヨルムンガンドオンラインでの貨幣は、金貨と銀貨に統一されている。銀貨十枚分で、金貨一枚分の価値だ。そして銀貨五枚で何が出来るかと言うと、


「……金策クエストに挑戦するぐらいしか出来んな」


 一般的なクエストの内容は、大きく分けて三種類ある。

 モンスター討伐を行うバトルクエスト、特定のアイテムを納品する納品クエスト、そして、『R・I・N・G』と呼ばれるアイテムを探し求めるグランドクエスト――通称リングクエスト。

 この内、金策クエストと呼ばれる物は主に、納品クエストにあたる。

 納品物や依頼者によって報酬金はことなれど、その手軽さや受注時の手数料の安さから、貧乏に嘆く新米プレイヤー達に重宝されている。


「開始から一ヶ月経って、まだ金策ですか」

「ギャンブルで、有り金すって炭鉱夫……笑えねぇな」

「身から出た錆だ。諦めな」


 充と優輝は、頭を抱えてうつむいた。出向してきてからこの一ヶ月間、二人はその殆どを金策かスキルアップにつぎ込んできた。ハッキリ言おう。絶望だ。

 いつもはやかましいとさえ思っていた他の席の賑わいが、今はとてつもなく羨ましい。

 と、そんなとき。


「あっ、そうだ」


 信也が突然、何かを思い出したように声を出す。


「んぁ、どしたのしんちゃん」

「お前らに、とっておきのクエストがあるのを思い出したんだよ」

「「とっておき……?」」


 首をかしげた二人に、信也はニヤリと笑っているかのような調子で、こう告げた。


「難題クエスト、受けてみっか?」


 充と優輝は、思わず固唾を飲み込んだ。

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