第二章 難題
第10話 仕事もそろそろ慣れはじめ
二人が配属されて、一ヶ月が経過した。
「……よし! 模様替えはあらかた完了だな!」
初日に案内された、真っ白で殺風景な空のオフィスから一転、かなり様子の変わった部屋を見て、充は満足そうに腕を組んで何度も頷く。
「課長、お疲れさまです」
「おう、ありがとう!」
部屋に戻ってきた優輝の差し出すペットボトルのお茶を受け取り、一仕事終えた満足感と共に充は喉を潤して、再び部屋を見渡した。
入り口に程近いオフィス前部にはノートパソコンやデスク、イスが置かれ、事務仕事全般が出来るようレイアウト。ここまではいたって普通だ。問題はこの先、オフィス後部にある。
窓際のオフィス後部は薄い水色のカーテンで仕切られ、中には白く塗られたベニヤ板が一枚。空間を二部屋分に分けるように隔てている。
その隔てられた両部屋にあるのが、あの保健室に置かれていそうなベッドと、フルダイブ端末『DD』。
そう、充はオフィス半分を半ば独立したフルダイブ専用ルームに作り替えてしまったのだ。もちろん、会社の金で。
「所長が話のわかる人で助かったな」
「あのいかにも利権にまみれてそうな所長をもうたらし込んだんですか。課長、流石です。どんな手を使ったんですか?」
「人聞きの悪いこと言いなさんな……人は見かけによらんってことよ」
専用ルームには、ベッドの枕元に小さなテーブルが別で置かれており、ここに『DD』の本体である、立方体の『ボックス』が置かれてある。
充と優輝用にそれぞれ黒と白の二種類あり、機体には『株式会社ユメミライ』『公益社団法人全日本フルダイブ統合会議所』『総務省』の刻印。
官品なのだから仕方無いが、せっかくのシャープなデザインが台無しだ……等とは、充は口が裂けても言えないが。
「一応床には点字ブロックも設置してみたんだが……どうよ?」
「おぉ……わかりやすい! 課長、ありがとうございます!!」
入り口からオフィスのど真ん中を突っ切り、二つのベッドルームまで丁字型にしかれた黄色い点字ブロックを白杖や靴の裏でなぞりながら、優輝は感嘆の声を漏らす。
休日にわざわざ出勤して、発注やら設置やらをした甲斐があったと言うものだ。お陰で充はこのところ、ほとんど無休で過ごしていたのだが。
「さて、そいじゃ新しくなったオフィスで早速、ダイブするとしようか!」
「はい!」
二人はオフィスのホワイトボードに『ダイブ中!!』とデカデカと記し、それぞれ左右の部屋へと潜り込む。
そしてヘッドギア状の機械を頭に装着してベッドに横たわり、フルダイブを開始した。
事前に信也が教えてくれた、官品専用の合図は確か……
「「リンクイン・スタート!!」」
*
「よーし、着いた着いた」
「着きましたね」
フルダイブが無事に完了した二人は、そう言って軽く動作の確認をする。オフィスから入る時は、先程のように音声入力でもダイブが可能だ。
二人が今いる場所は、ワーディス王国王都。新規ログインプレイヤーが最初にスポーンする場所であり、新参古参問わず多くのプレイヤーが拠点とする町でもある。
市壁で囲われた都市は石畳と中世風の建物で覆われ、中心部にある円形の『噴水広場』にはNPCを含め多くの人々が集う。
ゲームの内情を調査すると言う任務を抱える二人にとって、まさにおあつらえ向きの場所と言うわけだ。
「それじゃ、ギルドに向かいがてらいつもの
充はそう言って左手で空を切りメニューを開く。そして、その中の一つのアイコンをタップした。
瞬間、周囲に居るプレイヤー達の頭上にそれぞれ一つずつ、国旗のマークが現れる。これこそが、先日優輝の言っていた「見覚えの無いアイコン」の正体だ。
充達を含めた数名にのみ与えられた特権機能『国籍表示』。視界に入るプレイヤーが事前に登録してある内部情報の内、国籍を可視化することが出来る。二人の仕事には、必要不可欠な機能でもある。
「アメリカ、ブラジル……アルゼンチンも多いな」
「やはりこの時間はアメリカ圏が多いですね」
時差の都合上、どうしてもこの時間は日本を含めたアジア勢のログイン数が減少する。その代わり、夜間のアメリカ諸国からのログインが目立つ。貴重なデータの一つだ。
月末には、中間報告会議が迫っている。内心の面倒くささを押し殺しながら、充は国別にそれらをカウントして、
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