第58話 教師と生徒
「あの、二人は昔からのお知り合いか何かで?」
ソフィアの質問に、モーリスとクラリスがお互いの方を向く。
馬と猫が顔を見合わせるというなかなかシュールな光景だ。
「ああ、そういえば言ってませんでしたね」
と、なんでもない風にモーリスは言った。
「クラリスは、私が精霊魔法学校の教師を勤めていた時の生徒ですよ」
「学校!」
学校時代の生徒と教師、という響きにぱあっと表情を明るくするソフィア。
「そんな驚くことですか?」
「ええだって、学校って……あの学校よ?」
フェルミ王国でも魔法学校があって、魔力のある貴族は原則として通うことを義務付けられる。
しかし、魔力ゼロを出してしまったソフィアは通うことを許されず、半ば隔離されるような形で家での生活を強要された。
そんなソフィアが学校という響きに憧れを抱いてしまうのも無理はない。
……という経緯を、爛々と目を輝かせるソフィアから感じ取ったモーリスは、ぶるるとひと鳴きしたあと話を変えた。
「まあ、クラリスを担当したのはほんの一年なんですけどね。当時と比べると、今はだいぶ丸くなったと言いますか」
「妙なこと吹き込まないでくれますか、モーリス先生」
「というわけで、ソフィア様。クラリスのことは気にせず、存分に私をもふってくださいませ」
「何が、というわけなのですか。ソフィア様はアラン様の夫人ですよ。異性のあなたとの不必要な接触は避けるべきです」
「それこそ今更でしょう。今まで私がどれだけソフィア様にもふられてきたと?」
二つの大きなもふもふがよくわからない意地を張って、ソフィアにもふなでされる権利を奪い合うと言うなんとも不思議な光景が繰り広げられる。
そんな二人を見てソフィアは内心で(仲がいいんだなぁ)とほっこりした気持ちになる。
しかし、巨大なふたつのもふもふが目の前でもふもふしている光景をただ眺めているのは、限界であった。
「あ、あの!」
ソフィアが声を張って言う。
「とっても贅沢なお願いなのは重々承知なのだけれど……」
恐る恐るといった様子で、ソフィアは言葉を口にした。
「二人とも、一緒にもふもふしたいわ」
ソフィアの言葉に、今まで言い争っていた二人が顔を見合わせる。
それからお互いに、しょうがないですねえと言わんばかりにため息をついた。
「ええ、どうぞ」
「遠慮なく」
「やった……!! ありがとう!」
こうしてソフィアは、モーリスとクラリス纏めてもふもふする至福の時間を送ることとなった。
「……何をやっているんだ?」
いつの間にか時間が経って迎えにやってきたアランが、大きな馬と猫に包まれてご満悦なソフィアを見て、そんな言葉を漏らしたのは当然の流れと言えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます