第57話 モーリスとクラリスのもふもふモード
モーリスの尻尾をもふもふして体力を回復していると、そそそっとクラリスがやってきて「私の耳と尻尾も触っていいですよ」と進言してきた。
ここ最近、クラリスは積極的にソフィアに耳と尻尾を差し出すようになっている。
「ありがとう、クラリス!」
今日も今日とてそんな素晴らしい申し出を断るわけもなく、ソフィアは遠慮なくクラリスのもふもふにも手を伸ばす。
右手でモーリスの尻尾を、左手でクラリスの耳をさわさわ。
両手に花ならぬ、両手にもふもふ状態であった。
(ああ〜〜〜〜〜……最高〜〜〜…………)
目を閉じたらそのままもふ神様の元へ召されてしまいそう。
(……って、あれ?)
ふと、ソフィアが気付く。
「そういえばなんだけど、ふたりはアラン様の竜モードみたいな変身って出来たりするの?」
「「出来ますよ」」
間髪入れずに肯定した二人は「それが何か?」と言わんばかりの表情だが、ソフィアの脳天からつま先にかけて稲妻が走った。
「何故それを早く言わないの!?」
ずいっと前のめりになるソフィアの圧に思わず気圧されるふたり。
「え、えっと……特に言う必要が無いと思いまして?」
主人がもふもふ好きである事は把握していたが、まさか人間モードのもふもふでは飽き足らず、獣人モードのもふもふも堪能したいと思っていたなどと想像もしなかっただろう。
しかし、ここで優秀なモーリスの頭脳がぎゅるんと回転する。
即座に主人の思考回路を逆算し、ソフィアがもっとも求めているであろう言葉を口にした。
「変身、しましょうか?」
モーリスが提案すると、ソフィアは首が地面に落ちそうなくらい勢いよく頷いた。
「わかりました、では……」
モーリスが目を閉じる。
瞬間、モーリスの身体がぼうっと光り、人型のシルエットが飴細工のように変わっていった。
変化の時間は一瞬だった。
「わああああっ……」
光が収まって現れたモーリスの姿に、ソフィアは両眼を輝かせる。
一言で表すと、大人がゆうに乗れる大きさの馬だった。
額のあたりから聳え立った、ユニコーンの象徴たる立派な一本ツノ。
全身を覆う青みがかかった黒い毛は柔らかそう。
全身は逞しい筋肉と共にえらく引き締まっており、走るととても速そうだ。
「凄い! モーリス、もふもふよ!」
「この姿を見て最初の感想がそれなのは初めてです」
(でもまあ、ソフィア様が嬉しそうならそれで良しとしましょう)
ここ数日もふられすぎて、ソフィアの異常なまでのもふ好きがもはや普通の感覚として受け入れられつつある事に、モーリスは気づいていない。
「ソフィア様」
鼻息荒く興奮気味なソフィアに、クラリスの声が掛かった。
ソフィアが振り向くと、そこには白い毛並みの猫がいた。
猫モードのクラリスであることは明白で、心なしか顔立ちが凛としている。
ただ、猫にしては大きい。
ビッグモードのハナコほどでは無いが、こちらも大型犬くらいの全身で抱き着けるくらいのサイズ感だ。
そのサイズ感がソフィアにとって僥倖極まりない事は言うまでもない。
「ク、クラリス……可愛い……」
「お褒めに預かり光栄です」
ふっと、クラリスがモーリスに勝ち誇ったような笑みを向ける。
それに気付いたモーリスがムッと馬面を顰めた。
「さあ、ソフィア様。遠慮せず、私をもふっていいですよ」
「いいの!?」
「ええ、もちろん」
「ソフィア様、私のもどうぞ。ゴワゴワしたユニコーンの毛より、きっと気持ちいいですよ」
ずいっと、クラリスがモーリスに割り込んできて言う。
「いきなり割り込んできてゴワゴワ呼ばわりとは、少々失礼なのでは、クラリス?」
「私は事実を言っただけですよ。それとも、自覚がおありで?」
にんまり笑って尋ねるクラリスに、モーリスがムムムッと眉を寄せる。
「貴女のそういう反抗的なところは、学生時代から変わって無いですね」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「皮肉もわからないとは、学校で何を学んできたのやら」
「まさしく、モーリス先生(・・)の教育の賜物ですね」
クラリスがにっこり笑って返す。
ふたりの間にばちばちと見えない火花が散っているように見えた。
そういえば二人は出会った当初から、仲が良さそう(?)な雰囲気だったようなとソフィアは思い起こし、口を開く。
「あの、二人は昔からのお知り合いか何かで?」
ソフィアの質問に、モーリスはなんでもない風に言った。
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