第35話 貴方って、いったい

「んぅ……」


 目覚めると、夜だった。

 窓の外から差し込む月明かりが、部屋をぼうっと照らしている。


 ふかふかのベッドの上で寝返りを打つと、顔をもふっとした感触。


『ソフィア、おはよー』

「……おはよう、ハナコ」


 ビッグサイズのハナコに言葉を返す。


 しっかりと仮眠を取ったからか、ソフィアの頭はクリアだった。


 眠気は無い、が……妙に身体が重い。

 精霊力とやらをごっそり使ったからだろうか、自分の中の何かがぽっかり欠けているような感覚がした。


 そのせいで起きる気にもなれず、そのままソフィアはハナコのお腹に顔を埋める。


「はわぁ……幸せ……」


 このために生きてきたかのような、至福この上ない感触。

 しばらくソフィアは、ハナコの大きなもふもふを堪能した。


『ソフィア、今日なんか疲れている?』


 もふっていると、ハナコがどこか心配そうな声色で尋ねてきた。


「んー、今日はちょっとねー、いろいろあってねー」

『いろいろってー?』

「えっとねー……」


 精霊魔法とやらを使って、ごっそりと体力が持っていかれた。 

 なにぶん初めての経験だったから、身体がびっくりしたのだと思う。


 といった感じのことを、ハナコにのんびり説明する。


『そっかー、じゃあ……』


 のそりとハナコが動いたかと思うと、ソフィアを抱え込むように抱きしめた。

 もっふもふの感触が全身を包み込む。


「わわっ、ハナコ?」

『ソフィアにはいつもパワーを貰っているから、僕もたまにはね』


 そう言うと、ソフィアを抱き締めるハナコの身体がぼうっと光った。

 

「え、えっ……なに……?」


 戸惑う間もなく、ソフィアの身体に変化が生じた。


「身体が……軽く……?」


 先程まで妙に重たかった身体が、軽くなっている。

 また、ごっそりと何かが抜け落ちたような感覚が消失していた。


 直感的にソフィアは、自分の中の精霊力とやらが補充されたのだと悟る。


『うん、これでよし』


 ハナコが満足げに言ったあと、ソフィアを解放してくれる。


「な、何をしたの……?」

『僕の力を、ソフィアに少し分けたんだよ。いつもソフィアが、僕にしてくれたこと』

「私が……?」


(そんなこと……してたっけ……?)


 その時、思い出した。

 

 ソフィアが七歳の頃、フェルミの実家にて。

 弱っていたハナコがソフィアのもとにやってきて、一晩過ごした翌朝。


 『きゅいきゅいっ』と元気な様子で走り回るハナコがそこにいた事を。


(もしかしてハナコは……私のそばにいることで力を補充していた……?)


 その力は……精霊力?

 

 一仕事終えたように、呑気に『んんー』と伸びをするハナコに、尋ねる。


「ねえ、ハナコ」

『なにー?」

「貴方って一体、何者なの?」

『なにもの?』

「えっと、どこで生まれたのかーとか……なんで私のところに来てくれたのかーとか」

『んー……』


 ハナコは首を傾げて、困ったように言う。


『どこで生まれたかは、よくわかんない。なんだかぼんやりしてて。気がついたら、あっちこっちをふらふら彷徨っていた、かな』

「そう、なんだ……」

『でも、なんでソフィアのところに来たのかは、わかるよ』

「え、なになに?」


 ごろんっと、ハナコがソフィアに身を擦り寄せて言った。


『ソフィアが、そう望んだからだよ』

「私が……?」


 ソフィアが首を傾げたその時。


 コンコンとドアのノック音。


「ソフィア様、起きておりますか? 夕食をお持ちいたしました」


 クラリスの声が聞こえてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る