第16話 クラリス、確信する
お風呂上がり。
脱衣所でバスタオルを巻いていると、クラリスがやってきた。
「上がりましたか、ソフィアさっ……」
ソフィアの姿を見るなり、クラリスは目を見開いた。
「あっ、はい、さっき上がったところです。それよりも、シャンプーってすごいですね! 髪に馴染ませて水で流すと、信じられないほど艶が出ました! このような物があると噂には聞いていましたが、こんなにも凄いとは思っても……あの、どうかしましたか、クラリスさん?」
石魔法にかけられたみたいに硬直するクラリスに尋ねる。
何か、粗相をしてしまったのだろうかと不安になった。
「いえ、久しぶりに腕が鳴るな、と」
「う、腕?」
「お気になさらず。では、こちらにお着替えください」
そう言ってクラリスに渡されたのは、一眼で上等な素材で拵えたとわかるエメラルドグリーンのドレス。
「こ、こんな上等なドレス……わ、私には似合いませんよ……」
無能の烙印を押されて以降、ロクに食事を取ることも着飾ることも許されなかった故に、ソフィアの見てくれはお世辞には良いとはいえなかった。
周りからも、地味だの暗いだのヒョロいだの散々言われ続けたため、ソフィアの自身の容姿に対する評価は最底辺に近い。
故に、見るからに高そうなこのドレスを身につけるのはソフィアにとって非常にハードルが高く感じられていた。
「大丈夫です、ソフィア様。私にお任せください」
」
そんなソフィアに、クラリスは語りかける。
「入浴して、髪をシャンプーで洗い流しただけでこの変わりよう……本来のソフィア様は、とても可愛らしいお顔立ちをしております。私が保証いたします。お化粧もして、ちゃんと着飾れば必ず麗しくなられますよ」
「か、可愛らしいだなんて……」
俄には信じられない、けど。
クラリスがこのような事で嘘をつくような人ではない、というのはこの短い間でもなんとなくわかっていた。
それでも、やはり何年もかけてソフィアの心に刻みついた劣等感は簡単に拭いされる物ではない。
着飾っても残念なままだったら……という恐怖はあった。
けど。
「…………わかったわ」
クラリスを、信じる事にした。
「ありがとうございます。ささ、まずはドレスを着付けいたしましょう。それからお化粧です。夕食はアラン様もいらっしゃるので、驚かせてあげましょう」
「え、待って、聞いてない! 夕食にはアラン様も同席するの……!?」
「そりゃ夫婦なんですから、お食事を一緒に取られるのはごく自然なことかと」
「うっ……そうよね、そうなりますよね……ちょっと、心の準備が……」
「今更何をおっしゃいますか。さあ、変身のお時間ですよ」
何やら俄然やる気になったクラリスによって、ソフィアはバスタオルを剥がされるのであった。
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