第13話 新しいお家へ
ソフィアが結婚を承諾した事を、シエルは心から祝福してくれた。
どこからともなくパンパカパーンとファンファーレが響いてきそうなくらいの喜びようだった。
一方のアランはソフィアが結婚を承諾した事に一抹の驚きを覚えたようだったが、「では、よろしく頼む」とだけ言って頭を下げた。
どうやらこれにて、婚約が成立したようだった。
「結婚式の日取りとか、正式な手続きとかは後日にして、とりあえず今日は休みましょう、移動で疲れたでしょう」
シエルの提案で、今日は事務的な話はお開きになった。
「こちらへ」
アランが立ち上がって、手を差し出してくる。
「は、はい」
唐突なエスコートに狼狽えつつも、ソフィアはその手を取って立ち上がる。
アランの手は大きくて硬くて、何事からも守ってくれそうな力強さを感じた。
生まれてこのかた異性との関わりなど皆無なソフィアは、その感触だけでドギマギしてしまう。
「ちなみに、どちらに行かれるのですか?」
「俺の家だ」
「アラン様のお家……?」
「夫婦なんだから、当たり前だろう」
当然と言わんばかりの物言いに、ソフィアはハッとする。
(そっか……そうよね、私とアラン様は……夫婦になったんだものね……)
未だに実感が湧かないが、少しずつ慣れていくしかない。
親鳥についていく雛のような足取りで、アランの後をついていく。
その後ろを、ハナコがもっふもっふと続いた。
(アラン様の家……どんなのだろう……竜だから、大きな洞窟の中とか……?)
そんな事を考えるソフィアであった。
◇◇◇
アランはまだ王城での仕事が残っていると言う事で、先に屋敷に行って休んでいて欲しいと、馬車で送り出された。
というわけでやってきたのは、王城からほど近いアランの家。
洞窟でも木の上の巣でもなく、人間が住む用に作られたちゃんとした屋敷……いや、宮殿に近かった。
『ここが新しい僕たちのおうちー?』
ソフィアの隣でハナコが言う。
「う、うん……そうだと思う……」
ちなみにハナコは元のサイズの体に戻っていた。
馬車に乗るには大きいので「小さい体に戻ること、できない?」と聞いたら、『んー、やってみる……あ、できた』という感じで。
(結局ハナコのこと、聞きそびれちゃったな)
まあいい。
これから聞くタイミングはいくらでもあるだろうし。
「お、大きい……」
馬車の窓から顔を出して、改めて呟く。
太陽の光が反射して眩しいほど煌めきを放つ純白の外壁、庭園には何かの神話に出てきそうな竜をモチーフにした噴水。
普通に実家の十倍以上の規模がありそうだ。
大臣クラスのお住まいとなるとこんなにも桁違いなスケールになるのかと、ソフィアは慄いた。
「お待ちしておりました、ソフィア様」
馬車が止まるなり、使用人と思しき女性が出迎えてくれた。
「ソフィア様の使用人を務めさせていただきます、クラリスと申します。身の回りのことは私になんなりとお申し付けください」
キリッとした美人さん、というのがクラリスの第一印象であった。
歳は十代後半くらいで、ソフィアよりも少し年上に見える。
端正な顔立ちは鋭いブルーの瞳が印象的で、腰まで伸ばしたアッシュブロンドの髪は後ろでまとめられている。
体格はすらっと細く、メイド服がよく似合っていた。
そして何よりも目を引くのは……。
(猫耳!!)
「しっぽ……!!」
「……はい?」
人間には決して存在しない、もふもふそうな耳としっぽが、ぴくぴくふりふりと動いていた。
もふなで性癖が炸裂しそうになるのを慌てて押しとどめる。
「あ……こほん、失礼いたしました、なんでもございません。ソフィア・エドモンドと申します。これからよろしくお願いいたします」
「はい、よろしくお願いいたします。早速ですが、部屋の方に案内いたしますね」
「あ、はい! すぐ荷物を……って、あれ?」
いつの間にかクラリスの両手に一つずつトランクが持たれていた。
中は相当重いはずなのに、軽々と。
「あ、ありがとうございます……」
「いえいえ、仕事ですので」
クールに言ってのけてから、背を向けるクラリス。
実家で使用人というとロクに仕事もせず陰口を叩いてきたり、嫌がらせをしてきたりする存在だったためビクビクしていた部分もあったが、クラリスはそうではないようだ。
その事に、ソフィアはほっと安心する。
「こちらです」
クラリスの先導によって、ソフィアは屋敷内に通された。
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