第11話 応接間にて
ハナコが精霊でオスだったという新事実にびっくり仰天している暇も無く、ソフィアは王城の一室に通された。
その部屋は応接間のような作りをしていて、天井からぶら下がっているシャンデリアがとても豪華で印象的だった。
部屋中央のソファへ座るよう促され腰かけようとすると、ハナコが先にもふっと割り込んできた。
「ハナコ、今から大事な話があるから、少しの間いい子にしていてね」
『はーい』
ソフィアの隣に寝転ぶハナコ。
お腹を撫でてあげると、ハナコは気持ちよさそうに喉を鳴らした。
(ああ……もふもふがこんなに大きく……)
ソフィアの頬がだらしなく緩んでしまっている間に、アランとアイリスが腰かける。
「まずは、このような婚約の運びとなった事をお詫びさせてください」
開口一番、シエルがそう言って頭を下げた。
「先週のパーティでの婚約の申し出から今日に至るまで、余裕のないスケジュールのなか多大なる苦労をお掛けしたかと存じます。全てはこの私の責任です、申し訳ありませんでした」
「え、えと……」
一国の長から畏まった侘びを受け、ソフィアはわかりやすくオロオロする。
「あ、頭をお上げください。確かにちょっぴりバタバタはしましたけど、結果的に申し出を受けたのは私自身ですし……むしろ、お二人のお陰で無事に着くことが出来て、私の方こそ感謝しております、ありがとうございました……言葉が纏ってなくて、申し訳ないのですが」
「いえいえ、そう仰っていただけると助かります」
一区切りして、シエルは大仰に言った。
「それでは改めて、ようこそ妖精王国エルメルへ! 私たちは貴方を歓迎するわ」
シエルの表情に笑顔が戻った事で、ソフィアもホッと安堵の息をつく。
「前段は済みましたか、シエル様」
「もう、せっかくバシッと決まったのに。水を差すような事を言うわね、アラン」
「むしろ早く本題に入ったほうが良いでしょう、ソフィア嬢もお疲れでしょうし」
「それじゃあ、あとの説明はよろしくお願いね、アラン」
「丸投げですか……」
息をついてから、アランはソフィアに向き直り口を開く。
「単刀直入に言うと、此度の婚約は契約結婚の形式にしようと考えている」
「契約結婚、ですか……?」
確か先程もちらりと聞いたが、ソフィアはその言葉の意図を飲み込めていない。
「そうだ。流石に察しているとは思うが……此度の婚約は、俺がパーティに君に一目惚れをして、情熱的な恋心を芽生え、国境を跨いだ結婚を……などという、ロマンティックな物では無い」
「それは……そうですよね、そうだと思います」
流石のソフィアもそこまで頭の中お花畑ではない。
自分自身に異性に好かれるような魅力があるとは毛頭思っていないし。
なんなら目の前で、アランがシエルと何やらヒソヒソと話をしていた。
国を背負う立場であるこの二人が、あの一瞬の間に婚約という意思決定を下したのは少し考えればわかる事だった。
……心のどこかにほんのちょっぴり、そうだったらいいなという甘い考えがあった事はすぐに忘れよう。
「では、この婚約の意図は一体なんなのです?」
単純な疑問を投げかけると、アランは少し黙考してから口を開く。
「一番の理由は、そうだな……」
じっとソフィアを見据えて、アランは言った。
「君の持つ、膨大な“精霊力”だ」
「精霊、力……?」
耳馴染みのない単語に、ソフィアは再び首を傾げた。
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