美少女騎士(中身はおっさん)と始末書 その02


 隊長と副隊長の思い出話によると……・


 ウーィル・オレオ、すなわち今の少女の姿のオレは、騎士ウィルソン・オレオの娘であり、メルの姉だそうだ。やっぱり。


 もともとのウィルソンは、騎士団でもずっと下積みだった。騎士になった当時から、剣の腕はたったが魔力が人並みしかなかった。腕力だけでは強大な魔物には対抗できなかった。だから魔導騎士小隊にははいれず、一般の小隊で訓練に明け暮れる毎日だった。


 運が向いてきたのは、妻とであってから。


 もともと人付き合いの悪い男として有名だったウィルソンの熱烈な大恋愛は、騎士団の中でも微笑ましくも生暖かい視線で見守られていたのだが、その頃からウィルソンの魔力がなぜか急激に上昇。娘が生まれた頃には、ついにエリート集団である魔導騎士小隊に抜擢されるほどに。




 ……ふむ。ここまでは、オレの記憶とそうかわりない。あの不器用な恋愛が、第三者からそんな目で見られていたとは思わなかったが。あと、『娘が二人』という点を除いて、だが。




 副隊長の話はつづく。


 しかし、順調に思えたウィルソンの騎士人生に、度重なる不幸がおそう。次女のメルがまだ幼いとき、ウィルソンは愛妻を亡くすことになる。


 その後、彼は男手ひとつで娘二人をそだてることになった。いつもひょうひょうと生きてるようにみえる男だが、娘が幼い頃はかなり苦労したそうだ。当時同僚だったレイラ・ルイスは、何かと手助けしていたらしい。




 あーー、オレの記憶では娘はひとりだけだったが、それでもメルが幼いうちは確かにいろいろと苦労した。レイラにはホント世話になった。居候のジェイボスにも、あいつ自身は手がかからない犬ころだったが、ガキのくせにいろいろ気を使わせたかもしれない。他の友人知人にも迷惑をかけた。同僚達にはいつか恩返しをしなければならない。


「……そして三年前、あなたも知っての通り、ウィルソンはドラゴンにおそわれて殉職します」


 沈痛な表情でかたる副隊長。


 二人きりになってしまったウーィルとメルの姉妹。父譲りの剣の腕と魔力をもった長女のウーィルは進学をあきらめ、騎士団に入団。そして直後、公国騎士団史上もっとも若く十五歳で魔導騎士小隊に抜擢。それが、昨年のことだそうだ。





 言うまでもないが、もちろん副隊長も隊長もウソや作り話をいっているようには見えない。


 へぇ。……『ウーィル』ってそんなに優秀で頑張り屋な娘だったのかぁ。ウィルソンの娘にしては出来すぎだよなぁ。


 ウーィルは、他人事のように思う。


 確かに『オレ』の記憶と部分的に辻褄が合ってないこともない。もしかしたら『ちょっとだけ歴史が違う世界にオレの魂が生まれかわってしまった』のかなぁ? しかし、だとしたら、もともとのウーィルの魂はどこへ行ってしまったんだ?






 ……いや、ちがう。


 ちがう。


 ちがうぞ。


 そんな歴史があるはずがない。冷静に考えてみれば『この身体を持つウーィル』が、『あの妻の娘』であるわけがないのだ。そんな歴史は絶対にありえない。


 つまり、……逆だ。歴史はあとから作られたのだ。


 オレがこの姿になった理由はわからないが、『こんな姿になってしまったオレが騎士として存在しても不都合が生じないよう、世界の歴史が塗り替えられてしまった』というのが正解なんじゃないか? しかも、そのねつ造された歴史には致命的な間違いがある。


 ……あくまでも、オレのオレとしての記憶が正しいのなら、であるが。


 うーん。オレの記憶と、この世界の歴史、どちらが正しいのか、自信がなくなってきたぞ。



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