れんらく

 ……リリリ……。



 はっと顔を上げる。

 部屋が明るい。窓から朝日が射しこんでいる。

 まぶしい光が目を刺した。




 リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!




 どこからかけたたましい音が鳴っていた。

 反射的に足元にある鞄を開ける。

 中につっこんであったスマホから、上司専用の着信音が鳴り響いていた。



「はい! おはようございます!」

「あー、如月さん?」


 聞き慣れた上司の声。いつもの剣呑さは薄い。

 何かやらかしたわけではないらしい。

 そう、ほっと胸をなでおろしたすぐ後に。



「今日から休みでいいから。」

「……はい?」

「一週間くらい。うん。休んで。」

「それは、あの、理由をうかがっても?」

「あー、ちょっと今は詳しくは……とりあえず、上からの指示だから。よろしくね。」

「はい? 仕事は――、あの!」



 無慈悲に電話が切れて、呆然とスマホを見下ろす。

 時間は九時過ぎ。いつもなら遅刻確定の時間だ。


 本当に会社に行かなくていいんだろうか?

 ……いったい、どうなってるの?



 結局、シャワーを浴びて着替えて、軽くごはんを食べて、しぜんとパソコンを開いていた。

 持ち帰った分の仕事ぐらいはやらないと。


 適当に机の上の物をどけて、パソコンを開く。

 居心地の悪い部屋だけど、外出をする気力も、片付けをする元気もないな……。


 夕方までかかって仕事を終わらせる。

 元々後輩のやるはずだった仕事。

 昨日は体調がすぐれないと休んでいたから、締め切りに間に合わなさそうだと部長が私にふった。

 けっこう欠勤の多い子だから、実際どうかはわからないけど。

 今日は仕事に行けてるんだろうか。

 一応仕事のデータをメールで送る。


 すぐに、後輩から「ありがとうございまーす!」とかわいい絵文字付きでメッセージが来た。


 ちょうど定時を少し過ぎたくらいだったから、電話をかけてみた。



「もしもしー? あれ、どうしたんですか先輩?」

「あ、昨日具合悪いって言ってたから、今日は大丈夫だったのかなあ、と思って。」

「あはは! 全然大丈夫です! ピンピンしてますよー!」



 私よりも元気なんじゃないか、っていうくらい明るい声。

 少し気圧されて、声がしぼんでしまう。

 それより、と後輩は声をひそめた。


「そっちの方が大変なんじゃないですか、先輩。」

「え、なにが?」

「部長から聞いてなんですか? なんか残業時間多すぎて、人事の人から怒られたって。」


 ああ、だからあんなに歯切れが悪かったんだ。


「もう、先輩にやってもらってた仕事とか全部こっちに来て大変なんですよー。今日もみんなで仕事割り振って。先輩が羨ましいですよ。」

「あはは……。」


 そんなことを言われても、そもそも自分の仕事は自分でやってほしい。

 と、素直に言えればいいんだけど。

 小心者だからなかなか言えないんだよね。


「とにかく早く帰ってきてくださいね! 待ってますから!」


 そう一方的に告げて、後輩は電話を切ってしまった。



 ……そのうち人事から連絡が来るかな。



 その日は机の上を片づけて、いつもなら会社にいる時間に眠りについた。

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