ふつうのこと
目覚ましの音がする。
寝ぼけ眼で身を起こす。
会社行かなきゃ。
……行かなくてよかったんだった。
スマホのアラームを止める。
まだ日が昇っていない時間。いつもなら始発に合わせて家を出るけど、今日はそんなことをしなくてもいいのだ。
もう一度、ベッドに寝転がる。
このまま二度寝をしてしまおうか。
そんなことを思ったけれど、目が冴えてしまってできなかった。
朝、ゆっくり朝食を作るなんていつぶりだろう?
とはいえあるのはインスタントのたまごスープとチンするごはん。それから冷蔵庫の奥深くで眠っていた、実家から送られてきた海苔の佃煮くらいだ。
自炊なんてしばらくやってなかったからなあ。
頭の中でやることを箇条書きにしていく。
・食料の買い出し
・部屋の掃除
・洗濯物とアイロン
・ゴミ出し
人事の人から連絡が来るかもしれないから、スマホは常にとれるようにしておこう。
とはいえいつもとは違う行動をする、というのは労力を使う。
朝ごはんの後、溜まっていた食器をすべて洗うだけで体力を消耗してベッドに寝転がる。
ぼうっと天井を見上げる。
どうせ見ないからとテレビはないし、ネット環境も一応あるけれど、設定をしていないからすぐには使えない。
寝に帰るだけの生活を長く続けすぎたんだなあ、と反省した。
―――ブー、ブー、ブー。
どこからか聞こえてきたバイブ音に、はっと目を開く。
いつの間にか寝てしまったらしい。慌てて机の上のスマホを手に取った。
「はい!」
「あ、○○さんの番号でお間違いないでしょうか。私、××商事の人事部に所属してます□□と申します。今日はお休みのことでお話を、と思いまして。今時間大丈夫でしょうか。」
「はい、大丈夫です。」
やっと人事の人から連絡が来た。
さっそく人事の担当者はわたしの休みについて説明してくれた。
私の休みは有給扱いになっていること。
このまま休みを取らないままだと、今年度末でかなりの量の有休が消えるらしい。
ざっくり二週間は休めると言われたけれど、一度に使いきってしまうのももったいなくて一週間で会社に戻ることにした。
「これを気に休職とかは今のところ考えていませんか?」
「休職、ですか。」
確かに休みはほしいけど、そこまでいかなくてもいいかな。
「いまのところは考えていないです。そもそも仕事は大変だったけど、辞めたいと思うほどではなかったので。」
「そうですか。――一応、こちらのほうであなたの部署について監査を入れまして。あなたに相当の負担をかけていたことは調査済みなんです。」
「え、そうなんですか?」
「はい。あなたの残業代だけやたら多かったですから。」
そうだったのか。確かに部長も後輩も私ほど会社には残っていなかったっけ。
「もしかしたら人事異動が入るかもしれません。もちろんあなたは据え置きで、周りの人が異動する形で。もう少し厳しい部署に飛ばされるんじゃないでしょうか。」
「そこまでしなくても……。」
「会社としても真面目に働いてくれる――あなたのような人は尊重していきたいと社長も言っていました。だから安心して休んでください。我々で問題は片づけておくので。」
「頼もしいですね。」
私はほっと胸をなでおろした。
それから事務手続きの話を少しして、人事の人は電話を切った。
あらためて、ベッドに横になる。
なんだかほっとした。もうこのまま寝てしまえそうだ。
さいわい朝からパジャマを着替えていないのだ。
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