第2話

消える患者

おばあさんが小さな声で

「やめとくれ」

すると看護師が

「楽になるからね。ヨシさん」

沈黙の後、床にカランと何かが落ちた音がした。

"シャー"

カーテンが閉まり、足音が部屋の外に消えた。


翌朝、おばあさんのヨシさんは担架に乗せられ、別の部屋に移動させられた。

「はぁ…」

隣のおじさんのベッドからため息がこぼれた。

あれほど口うるさかったおじさんが無口になった。


pm9:00

部屋の電気が消された。

「兄ちゃん。兄ちゃん」

隣のベッドから声がした。

「僕ですか?」

答えると

「この部屋にアンタしかいないだろ」

確かに僕しかいない。

「家族はいるか?」

「えー母親が」

「ここにいちゃいけねー。すぐ退院するんだ」

「どうしてですか?」

「死にたくないだろ…」

"コンコン"

部屋のドアが開いて足音が近づいてきた。

"シャー"

隣のベッドのカーテンが開いた。

「俺はいらねーから」

「ダメです」

「あっ」

静かになった。

"カラン"

また床に何かが落ちた。

僕はカーテンとベッドの隙間に目をやると、

「注射器?」

針がついたまま転がっていた。

"シャー"

僕のベッドのカーテンが開いた。

「見たのね」

目を見ひらいた看護師が立っていた。


                つづく

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