実験病院

将源

第1話

相部屋


バイクにまたがって交差点で信号待ちをしていた。英会話教室の生徒さんが休んで、いつもより夏休みのバイトが早く終わった。

「まっすぐ家に帰るのも嫌だから、マックにでも行くか」

この日に限って、いつもと違う道を通った。信号が赤から青に変わった。アクセルを開けて飛び出した。次の瞬間、右から白のアウディが突っ込んできた。

"うああ"

"バン‼︎"

大きな衝撃、僕はボーリングのピンみたいに弾き飛ばされた。スローモーションで流れる青い空を見ながら「あーこのまま死ぬのか…」車のフロントガラスに左腕を打ち付けられて、道路に転がり落ちた。後は記憶にない。


目が覚めると見覚えのない白い天井カーテンに囲まれたベッドの上で寝ていた。

「あれ? ここは」

上半身を起こそうとすると

「痛てっ」

首がコルセットで固定されて、身体中痛かった…「白いアウディに吹っ飛ばされたんだ」

少しずつ思い出してきた。ゆっくりとカーテンが開いて

「田村さん目が覚めましたか」

優しい声で看護師さんが入ってきた。

「あっはい」

「CTを撮りましが脳は問題はありません。左腕と左足を骨折していますが、リハビリすれば治ると思います」

「そうなんですか」

「大変でしたね。血圧を測ります」

看護師さんはスト僕の右腕を掴んで血圧計を巻いた。前かがみで胸元が気になり、僕は目をつぶったが、やっぱり気になり薄目を開けた。看護師さんが顔を上げて、大きな瞳で僕を見た。ビクッとして、また目をつぶった。

「素敵なネックレスですね」

「これですか?おばあちゃんにもらったんです」「あれほどの事故だったのに、おばあちゃんに守られているんですね。正常です」

「正常?」

「血圧です」

「あっ血圧」

にこっとして看護師さんはカーテンを閉めていった。

「どこかで会ったかなぁ?」


ここは4人部屋で僕以外に、いつもテレビをつけっぱなしだの80歳くらいのおばあさん。声が大きいおじさん。あとベッドが1つだけ空いている。病院の夜は早い。9時には電気が消える。

それでもおばあさんはテレビをつけっぱなしで「うるせえなぁ。聞いてんのかよ婆さん」

「何を言ってるんだが聞こえないね」

「聞こえてるじゃねえかよ」

「あんたタバコ臭いんだよ」

「なんだと!」

口げんかがはじまる。

"コンコン"

病室のドアをノックする音が聞こえた。すると2人とも静かになった。足音だけが聞こえた。

"シャー".

カーテンを開ける音が…

               つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る