2、彼女を想う理由
隣に住む伯爵家に、女の子がいた。
その子に恋をしたのは――一目惚れだったと思う。
白銀の髪に、翡翠色の瞳。
父親似の彼女は、とても可愛くて――美しい人へと成長していった。
一生懸命、俺の後を追いかけて、少々お転婆になったようだったけど、俺は5歳の頃には両親と彼女の両親へ求婚へ行った。
早々に言っておかないと、後悔すると思ったからだ。
『あんなお転婆が良いと言ってくれるのは、ナリーシャしかいないのかもしれないね』
そんな言葉にほくそ笑んだものだ。
2人で家庭教師に礼儀や勉強、剣術を習っている時は良かった。
小さい世界だったから。
だけど10歳で僕たちは、義務化されている学園に入学しなければならない。
先に入学する俺は、彼女を迎入れる準備に明け暮れた。
学園は、平民でも王族でも、一定の学力があれば入学できる場だ。
一生の友も出来れば、ライバルも出来る。
それに結婚相手を探す為に入学してくる輩もいる。
自らの周りを徹底的に選定した。
アリに害なす奴は、俺の敵だから。
1度勉強すれば自分のものになる俺とは違って、彼女は何度も繰り返しやらないと覚えれない人だった。
だけど、そんなところも可愛くて、勉強会と評して彼女の家に入り浸った。
親同士は婚約者同士ということで、暗黙の了解を得られていたのは大きい。
5歳の俺、グッジョブだ。
1年先に卒業する俺は、残るアリの為に暗躍する。
年齢の違いを恨めしく思うくらいに、徹底的にやったと思う。
そんな俺に『お前の愛、重すぎるな』そう苦言をした奴は、今アリと共に補佐官をしてくれている。
俺の裏の顔を知る者もいてもらわないといけない。
卒業後、敷かれたレールの上を走るように、俺は騎士団へ入団した。
身の回りのことに明け暮れ、早く彼女を娶る為にも地盤を固めていた時は、彼女から少し目を離したと思う。
その間に、何とアリは卒業後、騎士団へ入団したいと言い出したと、彼女の両親から告げられた。
驚きと共に、彼女が選んだ道を走りやすくする為、下準備をした。
男が多い騎士団へ、女性の入団者を増やし、彼女が違和感なく仕事できるようにした。
父には『これからの世界、女性に剣術が出来る者を増やし、例え街で何か起きても対処できるようにしなければ』なんてもっともらしいことを言い、王宮へ侍女として上がる前の身だしなみくらいにならなければ、と言い貴族女子も入団できるように手配した。
アリの入団の年には、男女比は6;4にまでなった。
そんな中で、アリは何なく3位の成績で入団してきた。
彼女は気づいてなかもしれないけど、俺と剣術を習っていた時、指導してくれていたのは現役を引退した本物の騎士なのだ。
そこいらの女子の中では1番凄腕になったと思っても良い。
知らぬ間に英才教育を受けていたなんて、気づいてないだろう。
そのお陰で俺はやりやすくなった。
自分の隊が持てるようになると、信用できる者を集め、アリと共に過ごした。
副団長となった今は、数名を側近で残し、それぞれの隊長になっている。
こんな思いを抱いて接してきたはずなのに、一向に彼女は俺の想いに気づかない。
鈍感というにも程がある。
『身近にいすぎて、当たり前になってるかもしれないですね』
俺に苦言を評した奴の分析は確かだと思う。
ここは接し方を変えていかないと、一生このままなきがした。
だからある夜から、2人きりでお酒を飲むことにした。
仕事終わりにかこつけた、俺のエゴだ。
そんなある日、チャンスが巡ってきたと思った。
彼女自ら、俺の相談に乗るといってきたからだ。
手を伸ばせばすぐ近くにいるのに、心の距離は遠いと思っていた。
彼女は『親友』という壁を作ったからだ。
親友?
そんな生優しいものじゃない。
俺が君に抱いているのは、もっとどす黒く、燃え盛る炎のような激情だ。
自分の中で、張り詰めた何かが壊れていくのを感じた。
俺はもう――止まることは出来ない。
触れてしまった。
抱きしめてしまった。
彼女の体温を、匂いを感じてしまった。
自分の中だけに閉じ込めてしまいたい。
だけど、それでは駄目なのだ。
同じ想いを抱いて欲しいと、俺の本能が告げている。
「俺と同じように、俺に溺れて、俺以外を映さないで」
「ナ、ナリ――」
乱暴に彼女の唇を奪う。
いつか触れたかった彼女の唇。
息遣いが荒くなるのを感じる。
もっと俺を感じて――。
「わ、私も、ナリの事、好き。同じようには思ってないとは思うけど、この気持ちは嘘はないわ」
今はこの言葉だけで十分だ。
そのうち、俺がいないと生きられないように、身も心も溶かして甘やかす。
「手放す気なんてないから。逃げ出そうとしたら、俺、アリを閉じ込めるから」
狂気だと思う。
自分の中に巣食らう想いは。
「逃げ出すなんて、しないわ。ナリこそ、私に飽きても離れてやらないから、覚悟してね」
可愛いことを言う。
「そんな日なんて、一生ないよ、アリ」
俺は、欲望に埋もれた笑みを浮かべていたと思う。
「い、色気が――ダダ漏れすぎる!!」
アリは突然、顔を真っ赤にして身悶え始める。
か、可愛すぎる……。
そんな彼女をぎゅっと抱きしめると、
「後悔しても遅いからね。俺は全力でいくから」
執念にも似た俺の想いを告げた時、彼女との幸せな日々が待っていた――。
◇◇◇
あとがき
突然、短編を描きたくなりました。
甘々な感じを受け取ってもらえると嬉しいです。
いつも応援ありがとうございます。
(完結済)彼とは幼馴染で腐れ縁 桃元ナナ @motoriayu
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