第088話 空と魔王の物語

 あの日――マイアさんを追って赤鎧と初めて遭遇した日。

 あの時から、俺は自分の願う〈セカイ〉を創り始めていたんだと思う。


 〈テンシ〉になったその瞬間、俺が創った蒼い動物型アニマロイドBRAIDブレイドに愛犬だったスカイライナーの魂が宿った。


 夢の中で神様……焔羅王ほむらのおうが言っていたように、人の願うエネルギーは途轍もなく大きい。


 それこそ、この宇宙と同じくらいに。


 『願うだけでは叶わない』なんて人は言うかもしれないけれど、そんなことはない。

 時間はかかるだろうけど、真摯に願い続けれそのエネルギーは徐々に大きくなり、願う〈セカイ〉は必ず実現される。


 だって〈セカイ〉を創るのは、自分の心なんだから。


 〈王〉をたおした〈テンシ〉は世界を、この地球に生きる全ての人間の〈セカイ〉を変える力を得られる。

 それが特別な力であることは間違いない。

 だけど自分の〈セカイ〉を変える力は、誰もが持っているものなんだ。

 

 俺はスカイライナーと一緒に居たいと願った。ライナが死んだ日から毎日ずっと願っていた。


 それは現実になった。


 常識や知識で象られた見たこともない世界じゃない。自分を構成する、自分を取り巻くありのままの現実。


 それが〈セカイ〉。


 強く願えば、それを信じて止まらなければ〈セカイ〉は必ず応えてくれる。

 それを〈イロハネ〉は……焔羅王ほむらのおうは俺に気付かせてくれた。


 だから、『ありがとう』。



 ◇◇◇



 潔白の世界から意識が離脱していく。

 全てと交わらぬ世界から、全てを混濁させる世界へと精神は切り替わる。


 ゆっくりと眼を開けば、そこに広がるのは色彩鮮やかな世界。

 朧げな現実の左側では、スカイライナーが菱の眼で見つめている。


「行くか、ライナ!」


『グルッ!』


相棒は元気に走り出した。その先にはエルグランディアとエーラが待っている。


 白い制服を翻して空を見上げた。


 陽光が照り付け、蒼い空が海の向こうまで広がっている。


 雨はもう、上がっていた。




【第一部 -右手に悪を、左手に愛を- 了】

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