第027話 片桐誠
「思ったより元気そうで安心したよ」
「なにが?」
昼休みに屋上へ向かう道中。笑顔を浮かべる
「昨日休んだからやろ」
「ああ、そうか。大丈夫、ただの風邪だよ。ちょっと熱が高くて寝込んでただけだから」
「……本当にただの風邪なの?」
困ったような様子で肩をすかせながら、御堂ツルギは人好きのする笑みを見せた。
屋上の扉を開くと、フェンス傍で今日もエルグランディアがシートを広げて昼食を用意していた。
ただいつもと違うのは、並べられている弁当が異様に多いということ。
「これはまた豪勢だね、エルさん」
『はいっ! 坊ちゃまの快気祝いですから!』
「風邪で休んだだけだろ。恥ずかしいんですけど」
『それでもやるんです! それにほら、今日はデザートもあるんですよっ』
そう言って喜色満面とエルグランディアが取り出したのは、保冷剤に同封されたチョコレート菓子だ。赤いパッケージが特徴的で、誰もがその名前を知るウェハースチョコ。
「まるでパーティだね」
『えへへ。あっ、良ければ皆さんもどうぞっ』
嬉しそうに笑いながら、エルグランディアはチョコレート菓子を2つずつ皆に手渡した。
「嬉しいわ~、ありがとうやでエルさん! 来年のバレンタインにもよろしゅうね!」
『あははっ! それは無理ですー。エルの愛は坊ちゃまだけなんですー』
エルグランディアの笑顔に振られた
御堂ツルギは早速とチョコレートを
「
「俺は後で食う」
そう言ってカズキは制服のポケットに仕舞った。今朝にも持たされた菓子を休み時間中に時折つまんでいたせいで、今は菓子を食べる気分ではなかった。
「そうえば、聞いたことある?」
いつのまにか顔を上げていた日室遊介が、コンビニのオニギリを開封しながら問いかけた。
「なにが?」
御堂ツルギも自前の重箱弁当を広げて尋ね返す。
日室遊介は鮭オニギリを齧りつつ、得意げに反対側の校舎を指差した。
「南館がどうかしたの?」
「ちゃうちゃう。その向こうっ側になんや古ぼけた家があるやん?」
『あのお化け屋敷みたいな洋館ですか?』
「そうそうあの蔦だらけのな。なんやあの家………夜な夜な、出るんやて」
「いや怪談かよ」
卵焼きを頬張りながら、カズキがつっけんどんに返した。
『学校の怪談なんてどこにでもありますよね。大概くだらない作り話か勘違いです』
「……僕もエルさんに同意だね」
御堂ツルギも微妙に頬を引き攣らせて否定する。
「いやいや。幽霊とかオバケとか、そういうモンとちゃうねん。あの家な、
「
「うん。それに
『そういえば片桐博士の御出身はこっちの方らしいですね』
「そうそう。ほんで実はあの屋敷からこっちの土地は全部片桐博士のモンらしーて、この学校作る時にも提供しはってんて」
「確か片桐博士が亡くなられたのは、この第三支部校が創設される少し前だたっけ………さぞかし残念だったろうね」
神妙な面持ちの御堂ツルギに向かって、日室遊介が「チッチッチ」と指を振った。
「それがな、片桐博士は死ぬ前に自分の意識やら魂やらを体から引き抜いて
『どういうことですか?』
「つまりな、体が死んだ後も
言いながら日室遊介は二つ目のおにぎりに手を伸ばした。次は昆布だ。
「……で、博士が取り憑いた
ニカッと笑いながら、日室遊介は左手でOKサインを作ってみせた。
「馬鹿馬鹿しい」
「あほくさ」
『日室さんちょっと気持ち悪いですね』
御堂ツルギはあきれた様子で、カズキはぶっきらぼうに、エルグランディアは小馬鹿に微笑み誰一人とりあおうとしなかった。
目に見えて落ち込む日室遊介は、モソモソとオニギリを頬張った。
「それより長瀬、今日はこの後どうする? 僕はトレーニングに行くけど」
「俺は課題に行こうと思う」
『それならエルも御供します坊っちゃま! 今日はお店もヒマなので!』
「えぇ……」
『なんですか、そのイヤそうな顔は』
「別に。それより日室はどうするんだ?」
「オレはひとり寂しく
覇気のない日室遊介を見かねて、エルグランディアがタコの形に切ったウインナーをくれてやると、曇り空のような表情が嘘みたく晴々と変わった。
そうしてひとしきり食事と雑談を楽しむと、御堂ツルギは第2体育館に、日室遊介は南館の作業室へと向かった。
「じゃあ俺たちも行くか」
『はーいっ』
『グルッ!』
カズキとエルグランディア、スカイライナーは課題の申請に赴いた。
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