第53話 窮地を救ったハサミ・ミラージュ
ブレイクの街近郊の平原を
その背にはそれぞれ人が乗っている。
たぶん今の俺達を上空から
そう、当然一つはライドモードゴールドで、俺が前で後ろがネネちゃん。
そして俺たちの少し先を行くもう一つの影。
ライドモードゴールドより一回り以上も大きな、真っ白い毛並みをした狼のような獣の背には、ハサミ──チャンネル登録者数一〇〇万人超えの超人気冒険者『ハサミ・ミラージュ』が
北門まで逃げたタイミングで外套を被ったハサミの指笛一つで駆け付けたその獣。
恐らく街近郊の茂の中で待機していたってとこか。
『お利口さんですわね、ステイサム』
ってな具合で鼻の先辺りをなでなでアンド狼さんはスリスリ。
とにかく俺側とハサミ側双方で足が用意できた所で、街を出て改めて逃走を再開したって訳だ。
で、街から充分距離が取れたのを確認したハサミは、外套のフードを脱いでその美しい金色のツインテールを白日の
俺はゴールドのスピードを上げて併走させた。
「なあ、ハサミ」
「ご機嫌よう刀我、そしてマキナネネさん」
「お、おう……」
「えっと、ごきげん……よう……」
「……、オホン」
「ところで刀我、ネネさんはもうチャンネル登録者が一〇万人を超えている人気冒険者。不用意に公の場に顔を晒すべきではありませんわ」
「わ、悪い。今度からは気を付ける」
「まったく、そんなことだろうと思って様子を見に来て正解でしたわ」
「ほんと助かったよ。ありがとうな、ハサミ」
「か、勘違いしないでくださいまし!」
急にあたふたし始めるハサミ。
「わたくしはただ、たまたま近くを通りかかったらあなた達を見かけて、気まぐれで助けてあげただけですわ!」
「いや、ほんの数秒前と言ってることが矛盾してるんだが? 様子を見に来たって……」
「もうっ、うるさいですわね! 当のわたくしがたまたまって言ったらたまたまなんですのよ! おしゃべりばかりしてるとインフィニティーに追いつかれますわよ!」
「わかったわかった! でも最後に一つだけ教えてくれ」
「もうっ、なんですの!」
「そのでっかい狼みたいなのは何なんだ? 確かステイサムとか言ってたけど……」
「ええ、
「白狼……、あの益獣の……」
「とってもお利口さんなんですのよ。お父様の遠征のお供をするくらいですから」
「あれ、てことは今はお前のお父さんはクエストに出てないのか?」
ハサミパパ──クロム・サテライト・ラグランジュこと『謎のロングボウ使い』さんのSNSには、遠征先っぽい画像がつい先日も上がってたけど。
「いいえ、ちゃんとクエストに出ていますわ。ただし、お母様と一緒に、ですけど」
「ミルフィーユさんと?」
「ええ。なんでもお母様、わたくしとあなたのことを見てたら、また昔みたいにお父様と旅がしたくなったそうで。それで入れ替わりでステイサムがうちにいることになったんですの」
「そうだったのか」
「二人とも、あなたのことを心配してましたわよ。明らかに様子がおかしくなって、いきなりお屋敷を出て行って」
「わ、悪い……」
自分でも今思い返してみてもクソガキムーブが過ぎたなとは反省してる……って、あれ?
「ミルフィーユさんがいないってことは、お前の動画って……」
「ええ、そうですわよ」
ハサミは明らかに悲しそうな表情をした。
「ですからあなたになんべんも
「すまん、そんなことになってただなんて思わなくて……。なあ、そのことについてなんだが──」
「──っと、少々長話が過ぎますわよ刀我! インフィニティーどもに追いつかれたいんですの!?」
遅れないで着いてきてくださいましね! とハサミはステイサムの速度を上げた。
俺もゴールドの速度を上げて後を追った。
そうやって向かった先は、もう一つしかない。
まだ数回しか行き来していないけど、それでも俺にとって思い入れのある景色。
「着きましたわ」
深い森の中腹。
ステイサムから降りたハサミは、クリスタルのようなものを掲げた。
すぐ
景色にぽっかりと空いた大穴から覗くのは、手付かずの森の中にあるのが不釣り合いなほどに人の手が行き届いた広大な敷地と、その中央に鎮座する
「さあ入って下さいまし刀我、ネネさん。わたくしハサミ・ミラージュは、あなた方を
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