第24話 大事なクエスト
「ふーん。それで、あんなところでゆずジュースなんて飲もうとしてたわけなんですのね」
まずはお互いを知るところから。
ということで立ち話もなんなので、俺たち二人はテーブルを
ちなみにお互いとは名ばかりの、完全に俺という人間だけについての情報開示だった。
ハサミは、途中でミルフィーユさんが
もちろん話が
先程ミルフィーユさんの口からもちらっと出ていた『ヤ
やはりエフェクト絡みからネネちゃんという存在もぼかし、ただ知り合いの家に居候させてもらっている、とだけ。
「それにしても、まだ初ソロクエストも踏んでいないようなお人でしたとは、先が思いやられますわね……」
昨日の夕方の初ソロに向けた準備のところから、ようやく真実を打ち明けたという具合だった。
ちなみに敬語を無視する喋り方は、相変わらずハサミから続けるよに指示が出ていたのでそのようにしている。
で、そんな中。
話題は俺の武器のことについてになったんだが、そこは自撮り棒を魔法で強化して使ってるっていう、真実と嘘の半々でなんとか誤魔化した。
ハサミの反応はというと、
「ふんっ、何が魔力なんですのよ! だいたい強化魔法を流して使うなら、もとからちゃんとした武器に流したほうが何倍も効率が良いに決まってますでしょうが!」
と、あまりいいように思われていない様子。
まあエフェクトのことを煙に巻けただけよしとするか。
気を取り直し、
「ところで、次のクエストって一体どんなのなんだ?」
「ピアサですわ」
「ピアサってどんな……」
「自分で調べればよろしいのではなくて?」
「ですよねー……」
ハサミに言われた通りスマホで検索をかける。
ピアサ──正式名称をドラコ・ピアサラスという、ドラゴンの一種らしい。
検索結果の一番上に出てきたウィキペディアみたいなサイトを開くと、説明文と画像が出てきた、が。
それはまさしく
そもそも竜と呼べるかどうかも怪しいくらい、色々な生き物の色々な部分を切り取って寄せ集め、繋ぎ合わせて出来たのがこのドラゴンなのではないかとさえ思えたほどだ。
その竜は、曇り空を背景にどこかの高く切り立った崖の上のような所に立つ姿を撮られていた。
体は黄土色の
しかし、その太く大きな胴体を一巻きも二巻きも出来そうなほど長い尾は、サソリのそれのように殻が連結されたものになっていて、先端は魚の尾ひれを思わせる形状で締めくくられている。
更に四つの脚は鋭いかぎ爪のついたワシのそれのような形状という異様さ。
元の動物のサイズのまま合体したとしたら極端にチグハグになっているであろう全身だが、それぞれのパーツはドラゴンの胴体に相応しい大きさに揃っている。
そして極めつけは、竜特有の長い首の先についた顔だ。
それがなんと人面のような形をしていた。
人間として普通に生活していたのに、ある日突然、顔と脳を剥ぎ取られてドラゴンに埋め込まれた。
その恨みを誰に晴らせばいい、と言いたげなほどの、
その目は白目のない濁った赤一色で塗り潰されており、口の中からは鋭い
額からは鹿のそれを思わせるような幾重にも枝分かれした大きな角が生え、全体の醜悪な雰囲気に対してそこだけ妙に不釣り合いな、透き通るように赤く澄んだ輝きを放っていた。
説明文によると、これが全高一〇メートル以上、尾も含めた全長は二〇メートル以上で存在しているらしい。
「……、」
悪夢だった。
こんなのと実際に会うだけでも嫌なのにそれと戦うだなんて正気の
実際に相手をするのはハサミだが、ハサミにも思い留まって欲しいとさえ思った。
ピアサとハサミ。
醜美のコントラスト的にこれほどまでに動画
俺は念のため、このピアサの物々しいまでの醜悪さが見かけ倒しであることを期待してハサミに聞いた。
「ち、ちなみに、このピアサを倒すクエストの難易度って、どれくらいなんだ……?」
「さあ、わたくしも詳しくはわかりませんが、Sランクくらいはいくんじゃありませんの?」
「え、Sランクーッ!?」
とにかくSSS、SS、に次いで三番目の難度の高さで、その下はA、B、C、D……という順番になっている。
ちなみにオークは一般的にDランク、ゴブリンは最低難度のGランクという扱いになっているので、新婚さんをいらっしゃいする番組の司会者よろしく、椅子ごとひっくり返りそうになっちゃった俺の心理も理解してもらえると思う。
さらにハサミはこういった高難度のクエストを裏ルートで調達していたそうなんだが、それを俺が知ることになるのはまだ少し先のこと。
この時の俺はもう、震え上がって青ざめることしか出来ないでいた。
ハサミはそんな俺のビビり具合を察してか、
「まさかあなた、怖気づいたんじゃありませんわよね!?」
「いやでも俺、冒険者になってまだ日が浅いというか……」
「何なんですのよそれ!? そんな調子では困るんですのよッ!!」
ドンッ!! と。
ハサミはテーブルを叩いていた。
悲鳴を上げる茶器、ビクつく俺。
それらにお構いなしにハサミは立ち上がり、また感情を爆発させた。
「今回のクエストは、わたくしがお父様に誓って成功させると決めた大事なクエストなんですのよ! 足を引っ張ったら承知しませんわよッ!!」
再びボスンッとソファーに座って苛立たしげに腕と脚を組んだハサミは、今までのそっけない態度からいっそ突き抜けて、今度こそ完全にそっぽを向いてしまった。
彼女の一連の動作に一貫して気圧されていた俺は、思い出したように恐る恐る口を開く。
「わ、わかった……。俺、頑張るから、な……」
やっとの思いで絞り出した言葉は、消え入るように弱々しいものだった。
ハサミはそれを険のある表情で
強い寒波が訪れていた。
冬の夜空の澄んだ空気が、星々の輝きをひときわ鮮明に浮かび上がらせるのと同じように、彼女が冷ややかな表情をすればするだけ、その顔立ちの良さがただただ浮き彫りになるだけだった。
──が、
「はぁーい♪ お待ちどう様ぁー! 今日のお昼はハンバーグですよー!」
バァーンッ!! と、扉が開け放たれ、助け舟がやって来てくれた。
「ハンバーグっ!?」
ハサミは今度は別の意味で立ち上がっていた。
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