第2話 図書委員ちゃん!?
「ん? なにか?」
「い、いや。なんでも……」
彼女の地味ーな感じの装いは、俺も思わず呆然としてしまうほど一分の
くすんだ茶色の生成りのような感じで、その上から同じくあまりパッとしない色の革製の胸当てやちょっとした防具などが
着痩せしてしまっているのか、間違いなく発育がいい部類に入ると記憶していた胸部もすっかりと鳴りを潜めてしまっているように見えた。
つまるところファンタジー風の格好であることに間違いはなかったんだけど、それは実用性に特化したような、ともすれば地球の中世ヨーロッパの歴史上にもあったかもしれないような地味で味気ない格好だった。
華など皆無。
腰に帯刀している
「な、なんですかさっきからジロジロと! わたしの顔に何かついているとでも言いたいんですか!?」
メガネついちゃってますよそのキレイなお顔に、とは言えんわな視力とかの問題もあるし。
……今なんか一定数の方々を敵に回したような気がしたから弁明させてくれ。
俺はメガネっ娘は全然アリだと思ってる。
ただ牛乳瓶の底をくり抜いたような分厚い丸型ってどうよ?
そういうデザインしかないって異世界ならそれまでだけどさ、もうちょっとこう……あるじゃん着用者の素材に相応しいのが。
これじゃあ左右の三編みおさげ(この短時間でよくセットしたなと感心したくなる)と相まって、もうアレにしか見えないよ。
アレだよアレ、図書委員ちゃん!
どこの学校にも必ず一人はいるという典型的なあの図書委員ちゃんだよ(俺の学校はおかっぱだったけど)。
地味な図書委員ちゃんが有り合わせの装備で中世の戦場に駆り出されてしまった、ってコラ感抜群の画にしか見えなくなっちゃったよもう。
なんでこの子素材に対してガワが全体的にズレちゃってんだよこんなにも!
「あ、あのォッ! 許すって言ってるんだからいい加減立ってください! これじゃあわたしが他人を見下ろしてふんぞり返ってるような嫌な人みたいじゃないですか! ほら早く! 手貸してあげますから、ほらッ───しょっと……ふぅ。はい、あなたのスマホですよ」
もう二度とこんなことしないでくださいね、と言われながらスマホを受け取った俺は気づいた。
(本来は)超絶美少女を前にするどころか手まで握ってもらったのに、割と緊張せずに冷静でいられてるだと!?
これが図書委員ちゃんマジックとでも言うのか!?
「何ていうか、ほんとすみませんでした」
一応改めて俺が謝罪すると、なぜか達成感のようなものに満ち足りていた暫定図書委員ちゃんは一転、ハッと何かに気付かされたようなリアクション。
「そうだ、わたし怒ってたんだった!」
「ええ!? でも許すって……」
「許してあげたいのはやまやまですが、年ごろの女子が裸を見られるどころかレンズまで向けられるってすごい精神的ダメージなんですよ! 許したくても許せません!」
「で、ですよね……」
「それは、わたしにだって否があったと思います。綺麗な水場があったから気分転換につい、無防備と知ってて水浴びしちゃったし、眼鏡なしじゃほとんど何も見えないからすぐ近くに行くまで気づかなかったし……。けど、やっぱり盗撮なんてよくないと思います! どうしてこんなことしたんですか!」
「えっ!? いや、それはその……」
最終的に
異世界転生を正直に話したところで果たして信じて貰えるかどうか……。
が、そこで
異世界転生の証拠なら、スマホの中に入ってるじゃん!
何もない空間から始まり、一瞬だけだが女神様の姿とその後の
それらが
仮に女神の件が信じて貰えなかったとしても、俺がこことは別の世界にいたことは信じてもらえるはずだ。
最新機種の高性能カメラの試し撮りとして東京の風景の画像が何枚かあった。
そうと決まれば善は急げと、嬉々として手にしていたスマホの画面上に指を走らせようとしたんだけど──
「ん? どうしたんですか? わたしの裸が映ってると思われるデータならちゃんと消しときましたよ! あと勢い余って他のデータも全部消しちゃいましたごめんなさい!」
スマホの中の画像や動画を見せて信じてもらおう作戦、失敗。
結局俺は、気が乗らないながらも正直に有りのままを口頭で説明することに決めた。
「実は俺、ここではない別な世界に住んでたんだけど、そこで一回死んだんだ」
「は? え、ええぇ!? し、死んだ!? いきなり何を……」
「で、女神様に導かれてこの世界にやって来たんだけど、その時にエフェクトっていう特殊能力みたいなモノを授かったらしく──」
「──‼」
「試しに女神様を撮って能力を発動させてみようって流れになっんだけど、ちょうど女神様にスマホを向けたタイミングでこの世界に飛ばされちゃったらしくてさ」
「……、」
「で、あとは君も知っての通りってわけなんだけど……。とにかくそういうことだから、俺は君を盗撮しようとしてた訳じゃないんだ! 信じてほしい、この通り!」
俺は拝むようなモーションで締めくくり、不可抗力による不運な事故だったことを誠心誠意アピールした。
が、
「……………………、」
ほら見ろ言わんこっちゃない!
初めは疑念の表情を浮かべていた彼女だったが、俺の話が進むにつれてそれすらも次第に抜け落ちてゆき、最後には全ての感情を失ってしまったかのような完璧なまでの唖然とした表情で口が半開きになってしまっていた。
それは人が、相手の頭がイカレてしまっているのが察せられた時に見せるべき反応ズバリそのものだ。
挙げ句の果てには抑揚のないか細い声で、
「そうなんですねわかりました。あなたの話、信じます。疑ってごめんなさい……」
と腫れ物扱いで話を合わせられる始末。
要するに遠回しに
「うわああああああああんっ!」
思わず頭を抱え込む。
彼女の反応は、この異世界においては異世界転生など認知されていないことの証拠以外の何物でもない。
現地人の理解なくして、この異世界でどう生きていけばいいんだよ!
名伏し難い不安に俺が絶望していると、ふと彼女が言った。
「だって、女神様を名乗る人物はエフェクトって言ったんですよね」
「え、そうだけど……」
「実は、わたしも──」
「え、わたしも!? わたしも何──」
って、あれ?
この子、普通に『スマホ』って言ってた!?
けれどもその時、会話に水を差すように何かの影がこの身を覆ったことに気付く。
影がさしたほうを振り向くとそこには、
「は?」
体長三、四メートルはありそうな、巨大な人型の化け物がいた。
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